第三章 ①

「鷹斗さ、何か隠し事してないか?」

「え?俺が?してないよ。気にしすぎだって」

 スーツのジャケットを羽織りながら、彼は言った。

「椿は気にしすぎだよ。お前にすぐバレるからな……隠し事をしても意味ないからしないよ。お前は気にしなくていい」

 鷹斗は椿の肩に手を置きそう言った。そして、そそくさと家を出ていく。

「やっぱりだ……」

 由衣がエプロンを外しながら近づいてくる。

「やっぱりって?」

「あいつが隠し事してるのは間違いない」

「どうしてです?」

「あいつ、俺の肩に手を置いて、“お前は気にしなくていい”って言ったときは、高確率で隠し事してるときだ。これは勘だけど……もしかしたら、俺が関係してるのかもしれない……」

 椿の勘は当たる。それは由衣も良く知っていた。

 もし本当に椿さんが関係しているんだとしたら……多分椿さんはまた無茶をする……。由衣は椿を見る。

 隣に立つ椿は、何かを考えていた。

「椿さん、今日はKAWAKADOの海野さんが来られますよね?」

「ああ……」

「私、家にいても問題ないですか?」

「ああ、大丈夫だ」

 会話を続けようとしても、椿は事件のことが気になるらしく、会話にならなかった。


 そして昼前、静かだった部屋にインターホンの音が鳴り響く。

「あ、海野さん!お久しぶりです!椿さんならちょうどリビングにいますよ!」

 由衣が対応し、海野はリビングへとやってきた。

「四十住さん、仰っていた資料は何とか集めました。これと原稿、交換ですよ」

「う……いつからそんな技を身につけたわけ……まさか、あの鬼の笹倉が仕込んだんじゃ……」

 威圧感満載の椿にそう言われ、一瞬たじろぐ海野。やっぱりなという表情を浮かべながら、椿は印刷しておいた原稿を渡した。

「た、確かに原稿を預かりました……。ここでちょっと確認させてくださいね。資料はそのあとお渡ししますから」

 海野はそう言って封筒から原稿を取り出し、目を通し始めた。

「今回は珍しいですね……。四十住さんがUFOをテーマにするなんて。いつももっとこう……科学的なものが多いのに……。でもこれ、最高に面白いです!さすが四十住さんですね」

 海野と椿に紅茶を持ってきた由衣。

「ありがとうございます、由衣ちゃん」

「いえいえ。それは……?何の原稿なんですか?」

「これは月刊科学ですよ!ほら、科学で証明できるか!みたいなのがテーマの。それを四十住さんは珍しく、UFOにしたんです!これ、絶対に重版かかりますよ!」

 海野がそう喜んでいる。

「そんなことはいいから、早く資料くれよ」

 手を前に出す椿。封筒を開け、資料を取り出す。

 カラー写真付きの資料が何枚もあり、椿は難しい顔で見ていた。

「これ……まさか……」

「四十住さん、私の知り合いに弁護士がいます。何か理由つけてお会いできるようしましょうか?」

 海野の提案に、一つ返事の椿。

「じゃあ、また追って連絡しますね」

 紅茶を飲み干し、海野は家を出た。

「椿さん、弁護士ってどういうことですか……?」

「……ちょっとな」

 そう言って“秘密の部屋”へと入っていってしまう。

「勝手に術使わないでくださいよ!?」

 扉越しにそう叫ぶ由衣。

「使わねえよ!使うときは声かけるって!」

 これもまた、扉越しに帰ってくる椿の声。

「本当かな……怪しいところだけど、勝手に入れないし……」

 由衣は扉が気になりながらも、後片付けを始める。

 

「まさか……いや、でももしそうだとして……」

 椿の頭の中は、色々な考えでいっぱいだった。彼女から預かった資料を何度も何度も読み返す。

「とりあえずは、海野さんからの連絡を待つしか……それにしても、永野は一体どうやってあの人と……いつどうやって……?」

 気になる点、不可解な点、腑に落ちない点、分からないことがありすぎて、もやもやする……一体何がどうなって……。

「だーっ!くそっ!」

 思わず叫んでしまう。

 勢いよく扉が開き、まぶしい光が室内に入ってきた。

「うわっ!なんだよ……」

「椿さんが叫んだから、どうしたんだろうって……」

「なあ、由衣……一つ頼みがあるんだけど……」

 由衣は途端に笑顔になる。

「椿さんが私に!?いいですよ!私、椿さんの助手ですから!何でも言ってください!私、何でもしますから!」

「う、うん」

 勢いが過ぎる由衣とは対照的に、椿は少し身を引いていた。

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