「大元さん!椿が視てくれました!勇気くんの意識と繋がったんです!」

 鷹斗は駆け寄りながらそう話す。

「どういうことだ?」

「勇気くんは、永野由紀の元にいるようです」

「いやしかし……」

「分かってます。あの家には、人を隠せる場所がなかった。ですが、勇気くんが自らそう言ったと、椿が……」

 彼がそう言うと、「それで、椿くんは今どこに?」と大元が尋ねた。

「……椿は……家に置いてきました。能力を使いすぎて、頭に相当な負担を……。今、また眠ってます……」

「そうか……体調は大丈夫そうかね?」

「ええ。それは何とか」

 大元はどこか申し訳なさそうな表情をしていた。

「永野由紀の自宅をもう一度、徹底的に調べるとともに、聴取をもう一度しよう」

 彼はそう捜査員に声を掛けた。

 大元の指示に従うよう、それぞれが準備する。


「永野さん、ご自宅をもう一度見させていただいても?これが令状です」

 大元はそう言って、一枚の紙を見せ説明した。

「それと、あなたからもう一度お話をお聞きしたいんです」

「これ以上何を聞きたいんです?」

「あなたはまだ、我々に話してないことがあるんじゃないですか?」

 永野はほんの一瞬、視線が泳いだ。

 それを鷹斗は見逃さない。

「私は別に何も隠してません……」

「隠す?私は、って言ったんですよ?隠すとは一言も言ってません」

 明らかに動揺している永野。のは間違いなかった。

「永野さん、あなたがこの事件に関わっているのではないかと、我々は思っています。……勇気くんはあなたのところにいるんじゃないんですか?」

 鷹斗はそう詰め寄る。

 明らかに動揺している。瞳孔が開いた……間違いない……。

「いるんですね?」

「そんなわけないでしょ……」

「うん。そうかもしれない。でも、何か知っていますよね?」

 鷹斗も譲らなかった。

「あなたが仮に、勇気くんを誘拐したと考えましょう。動機は……」

「私は事件には関わってません。だから動機なんてある訳ないでしょ!」

 永野はそう怒りをあらわにする。これだけ言っているのだから違うんじゃ……と土屋は不安げだが、椿が言った「勇気くんは永野の元にいる」という言葉を信じているからこそ、鷹斗はその怒りでさえ怪しいと思ってしまう。

「仮に……です。もし、あなたの元に勇気くんがいるとしたら、動機はおそらく……あなたの娘さん……」

 永野の目が変わった―――。

 動揺、不安、悲しみ……そして、怒り。

「どうして……なんであの子のこと……」

 彼女の口からその言葉が出た。

「娘さんがいらっしゃるんですね?お名前、何ておっしゃるんですか?」

「……美空……」

「真壁さんの息子さんと娘さん、何か関係があるんですか?」

「担任を持った時、真壁さんから聞いたんです……自分は妻に先立たれて、息子を一人で育てている。だから至らない点もあるんです。でも、息子はいい子だから、先生よろしくお願いしますって……初めは教師と生徒という立場で接していたんです。でも、あの子が声を掛けてくれるたびに娘を思い出しちゃって……素っ気なく接したこともありました。辛くて……。でも、あの子……僕のこと嫌い?って聞くんです。そんなわけない。好きなんです。でも、いつか教師という立場を忘れて……でも、あの子だけど、あの子じゃないんです……娘は……きっと勇気くんに生まれ変わって……甦ってくれて……」

「勇気くんは今どこに……?」

「家に……」

 家……?

「ここがあなたの家でしょう?」

「もう一つの……昔、あの子と住んでいた家です……江賀市に前に住んでいた家が……」

 彼女は震える声でそう言った。

 鷹斗の後ろで、大元らは確信した。これで終わりかと。

「その家まで案内してください。いいですね?」

 永野はうなずく。

 彼女の後を追って何人かの捜査員が、もう一つの家へと向かった。

「こんな簡単でいいのか……?もっと他に……」

 残された大元と、彼女の自宅を調べる。

「大元さん、これって誘拐事件になるんですよね?」

「ああ、一応はね」

「だとすると、こんなあっさり解決ってあるんでしょうか……」

「というと?」

「例えば、子どもが危険な目にあう、身代金、そう言ったものは全くありません。ただ、娘の面影を感じ、自分に懐いてくれた生徒を誘拐し、数日間共に過ごしただけ……ただそれだけなんです。それって……不自然な気がしませんか?」

 鷹斗はそう説明する。大元もまた何かを考え、「おかしいと言われればそうかもしれないが、彼女には勇気くんを傷つける気はなく、身代金も必要ない。ただ、一緒に過ごしたかっただけだと思うが……?」と言われ、考え方のせいか……と納得しかかってしまう。だが、それも払拭された。

「これ……」

 今、自分の目の前にある一枚の、血に汚れた洋服によって―――。

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