④
「大元さん!椿が視てくれました!勇気くんの意識と繋がったんです!」
鷹斗は駆け寄りながらそう話す。
「どういうことだ?」
「勇気くんは、永野由紀の元にいるようです」
「いやしかし……」
「分かってます。あの家には、人を隠せる場所がなかった。ですが、勇気くんが自らそう言ったと、椿が……」
彼がそう言うと、「それで、椿くんは今どこに?」と大元が尋ねた。
「……椿は……家に置いてきました。能力を使いすぎて、頭に相当な負担を……。今、また眠ってます……」
「そうか……体調は大丈夫そうかね?」
「ええ。それは何とか」
大元はどこか申し訳なさそうな表情をしていた。
「永野由紀の自宅をもう一度、徹底的に調べるとともに、聴取をもう一度しよう」
彼はそう捜査員に声を掛けた。
大元の指示に従うよう、それぞれが準備する。
「永野さん、ご自宅をもう一度見させていただいても?これが令状です」
大元はそう言って、一枚の紙を見せ説明した。
「それと、あなたからもう一度お話をお聞きしたいんです」
「これ以上何を聞きたいんです?」
「あなたはまだ、我々に話してないことがあるんじゃないですか?」
永野はほんの一瞬、視線が泳いだ。
それを鷹斗は見逃さない。
「私は別に何も隠してません……」
「隠す?私は、話してないって言ったんですよ?隠すとは一言も言ってません」
明らかに動揺している永野。何かを隠しているのは間違いなかった。
「永野さん、あなたがこの事件に関わっているのではないかと、我々は思っています。……勇気くんはあなたのところにいるんじゃないんですか?」
鷹斗はそう詰め寄る。
明らかに動揺している。瞳孔が開いた……間違いない……。
「いるんですね?」
「そんなわけないでしょ……」
「うん。そうかもしれない。でも、何か知っていますよね?」
鷹斗も譲らなかった。
「あなたが仮に、勇気くんを誘拐したと考えましょう。動機は……」
「私は事件には関わってません。だから動機なんてある訳ないでしょ!」
永野はそう怒りをあらわにする。これだけ言っているのだから違うんじゃ……と土屋は不安げだが、椿が言った「勇気くんは永野の元にいる」という言葉を信じているからこそ、鷹斗はその怒りでさえ怪しいと思ってしまう。
「仮に……です。もし、あなたの元に勇気くんがいるとしたら、動機はおそらく……あなたの娘さん……」
永野の目が変わった―――。
動揺、不安、悲しみ……そして、怒り。
「どうして……なんであの子のこと……」
彼女の口からその言葉が出た。
「娘さんがいらっしゃるんですね?お名前、何ておっしゃるんですか?」
「……美空……」
「真壁さんの息子さんと娘さん、何か関係があるんですか?」
「担任を持った時、真壁さんから聞いたんです……自分は妻に先立たれて、息子を一人で育てている。だから至らない点もあるんです。でも、息子はいい子だから、先生よろしくお願いしますって……初めは教師と生徒という立場で接していたんです。でも、あの子が声を掛けてくれるたびに娘を思い出しちゃって……素っ気なく接したこともありました。辛くて……。でも、あの子……僕のこと嫌い?って聞くんです。そんなわけない。好きなんです。でも、いつか教師という立場を忘れて……でも、あの子だけど、あの子じゃないんです……娘は……きっと勇気くんに生まれ変わって……甦ってくれて……」
「勇気くんは今どこに……?」
「家に……」
家……?
「ここがあなたの家でしょう?」
「もう一つの……昔、あの子と住んでいた家です……江賀市に前に住んでいた家が……」
彼女は震える声でそう言った。
鷹斗の後ろで、大元らは確信した。これで終わりかと。
「その家まで案内してください。いいですね?」
永野はうなずく。
彼女の後を追って何人かの捜査員が、もう一つの家へと向かった。
「こんな簡単でいいのか……?もっと他に……」
残された大元と、彼女の自宅を調べる。
「大元さん、これって誘拐事件になるんですよね?」
「ああ、一応はね」
「だとすると、こんなあっさり解決ってあるんでしょうか……」
「というと?」
「例えば、子どもが危険な目にあう、身代金、そう言ったものは全くありません。ただ、娘の面影を感じ、自分に懐いてくれた生徒を誘拐し、数日間共に過ごしただけ……ただそれだけなんです。それって……不自然な気がしませんか?」
鷹斗はそう説明する。大元もまた何かを考え、「おかしいと言われればそうかもしれないが、彼女には勇気くんを傷つける気はなく、身代金も必要ない。ただ、一緒に過ごしたかっただけだと思うが……?」と言われ、考え方のせいか……と納得しかかってしまう。だが、それも払拭された。
「これ……」
今、自分の目の前にある一枚の、血に汚れた洋服によって―――。
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