第二章①
翌朝、再び異捜ルームは騒がしかった。
容疑者三人について調べていた大元らが、ミーティングルームで報告会を行っている。
「立川聡についてはどうだ?」
大元が尋ねる。
この人物を調べているのは森本と土屋だ。
「はい、立川に関しては事件当日の午前十一時半頃のアリバイはしっかりとありました。その時間は家の内見に来た家族を車で案内していたと、同僚から証言が取れています」
「なるほど……アリバイはあるのか……」
「ええ。仕事ぶりも問題なく、お客にとってもいい人って感じだそうで、良い話ばかりですね。悪い話は出てきません」
森本と土屋がそう報告する。
「分かった。じゃあ、次に堀田進については?誰が調べてる?」
「俺と松風です。報告します」
立本がそう言う。
「堀田も事件当日の該当時間は、間違いなく医院にいました。その日は混んでいて、午前の診察時間を大きく回ったそうです。看護師、受付から証言が取れています。スタッフルームで全員で昼食を摂ったのが、午後一時半、午後三時からは午後の診察を開始しており、夜も八時前まで開院していたと記録に残っています。また、院内でのスタッフの様子は監視カメラにも残っていますし、堀田自身も映っていました」
「それに追加します。堀田が話していた、真壁一家の件ですが、証言に偽りなく、これもカルテや紹介先の大学病院から証言が取れました。堀田が犯人というのは考えにくいのではと……。俺は永野由紀と堀田進の両名を調査していますが、永野の行動には怪しい点がいくつかあります。容疑者を永野のみに絞って考えてもいいかもしれません」
鷹斗はそう言う。
「うむ……」
大元は腕を組む。
「では、永野由紀に関して報告いたします。彼女は俺と大元さんで調べているのですが、大元さんが聴取した時の会話の特徴、自宅に赴いて聴取した際の会話の特徴、これらは一致します。あらかじめ、聞かれそうなことを考え、答えを決めているようにも感じました。それに、彼女の自宅には伏せられた写真立てがいくつかあり、それに触れられるのがどうも嫌みたいで……。彼女には何かあると思って間違いありません」
それからも報告会は続いた。
彼らの報告を椿と由衣はじっと聞いている。
由衣は、相変わらずのメモ魔だ。椿の隣で必死にペンを走らせている。
*
「何度もすみません。もう少しだけお話聞かせていただいてもいいでしょうか」
報告会で決まったのは、永野由紀を第一容疑者として捜査すること。そして再度、聴取を行うことだった。
「勇気くんに関することですか?」
「ええ。それとあなたに関してもお聞きしたいことがいくつかあります」
彼女は顔色一つ変えず、まっすぐ目の前に座る鷹斗を見る。
部屋の隅にはパーテーションで隠された椿と由衣の姿。永野からは見えないようになっている。
「永野さん、ご自宅に伺った際、棚の上に伏せられた写真立てがあるのを見ました。あなたは、それに触れられるのが嫌な様子でしたが……あの写真は?」
「……しゃ、写真は……亡くなったペットのです」
「ペットですか?」
「え、ええ……」
椿はインカムを通し、「嘘だ。ペットじゃない」と伝える。
『その写真を思い浮かべるように言ってくれ』
鷹斗は、インカムから聞こえてくる椿の声に従う。
「永野さん、申し訳ないのですが……ご自宅にある、伏せられていた写真立てを思い浮かべてくれませんか?」
「どうしてですか……?」
「お願いします」
ため息をつきながら、永野は目を閉じた。
それを確認した椿もまた、目を閉じ、彼女と自分を同調させる。すると、確かに写真を思い浮かべているのか、彼女からイメージが伝わってくる。
『伏せられた写真は子どもだ……。女の子が映っている……。入学式……小学校だな。赤ちゃんの時のもある。だが……一年生以降からがない……』
永野は「これでいいですか?これで何か分かると思いませんが……写真を思い浮かばせて、私に話させようとしてますか……?」と目を開けた。
「いえ、そういうのではないですから。ただ……」
『あなたの反応が見たかったと言え』
椿がそう指示する。
鷹斗はそれに従った。
「……私の反応……?」
永野はそう言った後、一言も発さなかった。
椿だけは、彼女が動揺していることを感じ取っていた。
*
永野の聴取は、一時間半に及んだ。
時折、インカムから指示する椿。
一般人がここまで捜査に口を出していいのかと疑問に思う由衣だが、椿は特別なのだと鷹斗が言っていたことを思い出す。
「椿さん、疲れてますね……能力、使いすぎてませんか……?」
「……問題ない」
「でも、顔色が……」
「この事件、俺関連でもなく、俺の能力は必要ない。だが、事件の裏には複雑な背景があるんだ。俺が、協力しているから、俺が助けるからと真壁に約束した。だから……」
「絶対に無理だけはしないでください。約束してくれるなら、このまま続けていいです。でも、これ以上は危険だと思ったら、私が止めますからね」
由衣がそう言う。
「……ったく、お前はいつからそんな……」
「私は椿さんの助手ですから!」
彼女はそう言って笑顔を見せる。
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