第4話 痛恨のミスと、解決の糸口

『苦い〜、エグい!!!なにこのエグみ!!こんなの筍じゃなーーい』

これは私の心の叫びである。

私は早速、筍が食べれる食材であると教えたのだが……

それを半信半疑で信じた、農民や商談員が、簡単なスープを作ってくれたのだけど……


いや、これは食べれるもんじゃないでしょう?

『地球の筍と、こっちの筍は品種が違うのかしら?』

と現実逃避してみる。

こういうことにしておけば、核心には到達しないだろう。


『………』

いかん、いかん、現実から逃げるな私!

この私とはもっぱら、穂香のことである。


そう穂香は30歳にしてパラサイトシングル、すなわち家事は親任せだったのだ。

薄々気付いてたよ。

何か見落としている。ううん、聞こえが上品に言っても仕方ない。

もっと要約しよう。

調理方法が間違っているのでは???


答が分かってしまった私は頭を抱える。

ふと、顔を上げると……

子どもたちのキラキラした瞳……


「これ、苦いけど好きなだけ食べていいんだよね?」

「当然だろ。だって、まだあんなにもあるんだぜ!それに昨日までは薪代わりにしてたんだから、いいに決まってるだろ」

「わーい、これからはお腹が空いてねれないってことなくなるかなぁ」


これは農民の子どもたちの会話である。

それを聞いてる親もニコニコと笑っている。


『オーマイガー』

穂香でも使ったことのない台詞が脳天で木霊していた。

『調理方法が違うかも』という雰囲気では、とうに違う。

家事をしてこなかった穂香の恥ずかしくて穴にでも入りたい気持ちと、ルナの顔面蒼白で絶望した気持ちかいつまでも交錯していた。


結局、私は筍を何本か持って変えることにした。

きっと、美味しく味わえる方法はある。

私が知らないだけで……という希望的観測の元に持ち帰ることにした。



翌朝、寝ぼけ眼で目が冷めた。

やっとこさ、残暑もすぎ、実りの秋になってきたから少し肌寒い。

まあ、私にとっては食欲の秋なんだけどね!

焼き芋に、モンブランに、マスカット、美味しいよね。

モンブランの新作のデザート、コンビニで買わないと……


ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って!!

いや、そうじゃないでしょ!

ルナが思いっきり突っ込む。

昨日までは春だったでしょ?

ルナに言われて、穂香が驚く。

別人のように感じるかもしれないが、どちらも私である。

つまり、私がそれぞれ別の立場で突っ込んでるというカオスが起こっている。


「…………」

んんんん?

「ギャーーーー」

「えっ、え、え、え、戻ったの?ありえない!」

穂香が絶叫した声である。

朝のキリッとした静かな空気感にヒビが入り音を立てて割れていく。

一気に朝の喧騒が訪れた。


「穂香、何言ってるの?変な夢でも見たの?もう、びっくりするから大声ださないでちょうだい」

お母さんの声が階下から聞こえる。

「もう、この子ったらいい歳して……」

まだなんか小言が聞こえてる途中だが、私はそれどころではない。

慌てて、ベットから飛び起き、階下に猛ダッシュする。

バタバタバタ、ダーンと、早朝に似つかわしくない音が家中に響く。

最後の階段一段は、ジャンプして飛び越えた。

「こらっ、穂香。家の中で走らないで。いい歳して……」

母親の会話を遮って、私は質問した。

「ねぇ、筍ってどうやって調理するの?」

「はっ?」

母親の素っ頓狂な声が聞こえた。


ルナの期待が大きく膨らむ。

だって、なんか解決の糸口が見つかったって感じがするんだもん。

何で地球に戻ったのかは分からないけど、私には直感があった。


『またあっちの世界にも戻れるだろう』

楽観主義といえばそうなんだけど、根拠のない自信があったのだ。


数日後、私はサラドレン国に戻ってきた。

不思議なことに、地球で数日過ごしたにも関わらず、こっちで起きたらちゃんと寝た日の翌日だったんだから、そりゃあもうびっくり。

驚いたけど、意外に驚いてないんだよなぁ。本人だって、矛盾してるのは自覚済みなのだ。でも、意味不明だと自覚しつつも、上手く説明できないんだから仕方がない。


それに私にはミッションがあるのだ。

そう、私はついに筍の調理方法を発明したのだ!!

『いや、言葉は正確に使おうよ』と、穂香が呆れているような気がするが、地球では先人の知恵を借りるというのが正しいが、サラドレン国では『発明』でいいのだ、たぶん。


私は喜々としてマコムを呼んだ。

「マコム、ちょっと買い物をお願いしたいんだけど」

私は慌てて必要な物をメモ用紙に書き出す。

慌てていたので、殴り書きになってしまったけど、読めればなんでもいいと思う。

国立学院の授業で、文字にも品格が現れるという指導のもと練習されられた記憶が蘇り、苦笑する。

「お嬢様、こんなもの何に使うんですか?」

メモ用紙を確認したマコムが怪訝な表情をする。

ふっ、ふっ、ふっ、これが私の発明よ。

サラドレン国では画期的な大発明になるんだから。

「いいから、どうしても必要なの。至急、探して貰える?」

「かしこまりました」

これで、手はずは整った。

次の山の視察までに材料が揃えは完璧。

農民や商団の皆、お父さんや兄の驚く顔を思い浮かべるとニヤニヤが止まらない。

農民の皆は、エグみのある筍を美味しいと食べてくれたけど、商団の皆やお父さんや兄は微妙な顔してたもん。


でも、お父さんはその後、真剣な顔をして私に言ったんだよね。

「いいかい、ルナ。筍が食べれるということは、しばらく秘密にしてもらえるかい。ここにいる他の者たちも同様にだ。口外したものは厳罰に処すからな。」

何で、あんなこと言ったんだろ……

エグみが酷くって、世に出せるものじゃないから?

そりゃあ貴族にあんなエグみのある食べ物を売ったら、うちの商団が処罰されちゃうかも。

そっか、だからなのかなぁ、あんなこと言ったのは……

でも、美味しく調理できたら、皆に公表してくれるわよねっ。

私はこのとき商売というものが全然分かっていなかったのだ。

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食卓の魔法 @MIKU-2nd

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