第6話

 何かに呼ばれたような気がした。


 そう思ったルージュはすっと手を伸ばしていた。だが、自分の目の前には何かが遮っており、少し伸ばしたところでぶつかってしまった。


 原因が何かを確かめようと目を開けると、暗闇が目の前に広がっていた。


「えっ……?」


 予想外のことに驚き、両手を動かせる範囲で動かしていく。


「いてっ」


 左側に何かがぶつかったと同時にリージュの声が聞こえた。再び同じところを掴む。


「痛いっつってるだろ!」


 叫ぶと同時にルージュの腕を強く掴むリージュ。その力は殴りそうな勢いであった。


「悪い」


「せめて優しくやれよ。その勢いがあるんだったら目の前のやつにぶつけてくれ」


「やっぱり何かあるのか……。よし、二人で押すぞ」


 リージュに掴まれたままの手を動かし、目の前の何かに手を当てる。その隣にリージュの手が並び、二人同時にぐっと力を入れて動かそうとする。


 すると、光が少しずつ見えてきて案外簡単に動いたかのように見えた。順調に見えたそのとき、勢いよく動き出していく。


 そのまま二人は思い切り前によろけるように倒れていった。


「キャッ!」


「うっ!」


 同時に、すぐ横から女性のような高い声が短く聞こえた。しかし、あまりの衝撃に二人はその姿を確認できないでいた。


「大丈夫……? その格好……ハイト国から来たのかしら?」


「! ハイト国を、シムカのことを知っているのか!? ここはどこなんだ!?」


 聞き慣れた単語を耳にしたリージュは、声のする方を向いて矢継ぎ早に問う。


 そこには、ラフな格好をした黒髪の長髪の女性がやや困った表情で二人を見ている。


「落ち着いて。そんなにいっぺんに言われても困るわ。とりあえず、私は[[rb:三月 > みつき]]よ」


「三月、あんたはシムカとは一体どんな関係なんだ?」


「どんな……うーん。やり取りしている国の一つ、かしら? ここは、ごく僅かな国としかやり取りしていない、極東の閉鎖的な島国だから。誰かを、しかもこんなクローゼットの中に送るなんて、シムカちゃんらしいわね」


「そうか……。教えてくれてありがとう。俺はリージュだ。隣で倒れてるのは双子の兄のルージュだ。俺たちはワード国の王子で、シムカからは勝手にここへ送られただけだ」


「そう、よろしくね」


 三月はリージュに対してニコリと微笑み、その場でしゃがみ込む。倒れたままの二人に手を差し伸べる。


「怪我はないかしら?」


「あぁ。この程度問題ない」


「いてて……勝手に話を進めるな。ここがどこか分かったとしても、俺たちは早く戻らないといけないんだぞ」


「何か事情があるようね。でも、二人にはやってもらいたいことがあるの。それが終わったら、えぇと、ワード国に送ってあげるわ」


「……何かをやってもらうには別のことをやれっていうのか。仕方がない。で、それは何だ?」


「それは明日教えるわ。今は夜だからもう休んで。あなたたち、とても疲れて見えるから。あっ、部屋はここを使っていいわよ。それじゃ」


 ヒラヒラと手を振りながら、三月は部屋から去っていった。


 嵐のように過ぎ去っていった彼女に、二人はしばらく呆然としていた。


「はぁぁぁ」


 盛大な溜め息とともに、リージュは目の前にある二つのベッドの片方に横たわる。


「いつまでやるか分からないことをよく引き受けたもんだな」


「仕方がない。一体どこなのか位置も分からない状態でどうやって帰ればいいのか分からない。それに、島国と言っていたからそう簡単には動けないはずだ」


 ようやく立ち上がって移動をしたルージュは諭すようにそう説明しながら移動する。リージュの隣のベッドに腰掛けようと、剣を下ろしながら近付いていく。


 すると、リージュの足がルージュの膝を引っ掛ける。そのまま崩れるようにリージュの横に倒れ込むと、彼の腕がぎゅっと身体を抱き締めていた。


「おっ、おいっ!!」


「クッションになってくれたって、いいだろ? それに……」


 さらに近付いたと思えば、今度は顔を埋めるように下を向く。


「それに、ルージュが近くにいると、何だか安心する」


「……分かったよ」


 リージュの行為を受け入れ、ルージュもそっと身体を包み込む。


 しばらく休もうと目を閉じると、二人はあっという間に眠り込んでしまった。

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