第4話
翌朝、目覚めてから仕度を整え、夕食と同じ場所へと向かった。
ファナとディオンによって食事が並べられており、ぞろぞろと集まっていった。揃ってから食事は開始し、楽しい時間を過ごしていた。
その時間が終わると、再び修理の時間となった。昨日と同じ顔ぶれでやることになり、道具箱を持ってくる以外の三人だけで外に出ていた。
「あれ、剣なんて持ってどうしたんだ?」
「持ってないと落ち着かないというか」
「何かあったときのため、ですね」
そんな風に笑いながら話していた。
他愛もない会話をしばらくしていると、ようやくポールがやって来た。再び機体の修理を始める。
複雑な部分が残っているのか、何度も話し合いながら進めていても終わる気配は全く見えなかった。
しばらくしていると、食事の準備ができたようでルビスが現れた。
「ごはんできたってー」
「おう、ありがとな」
「はぁ。まだ終わってないのにな……」
ボソリと愚痴を零しながらポールは広げた道具を少し片付けていた。
「すみません……」
門の方から声がした。するとそこには、鎧を纏った男たちがずらりと立っていた。
「こちらに、ルージュ様とリージュ様はおられますか?」
先頭の男が、ニヤリと笑いながらそう問う。
二人は無意識のうちに少し前に出ていた。
「下がって」
「おや、ルージュ様、リージュ様。ハイト国へ向かわれたのではないですか? 王の命令ですよ」
「悪いな、カイル。俺たちはそれには従えない。このまま引き返してくれ」
「王子であるお二人の命令でも、そういうわけにはいきません。王の言葉は絶対なのです。それが分かりませんか?」
カイルは話しながら剣を抜き、刃を二人の方へと向ける。
「王に逆らえば命はないのですよ?」
「っ……」
「ルージュ、リージュ、俺も手を貸そう」
「あんたは怪我しないように守ってろ! ルージュ、行くぞ」
リージュがキールに向かって怒鳴るのを合図に、ルージュも剣を手にする。
それと同時に、カイルたちの方へ向かって走り出した。
カイルただ一人が動かず、兵士たちは二人へ向かっていった。
剣を交え、激しい音を響かせる。キールのときに見せた動きよりも非常に速く、圧倒的な力で兵士たちを倒していく。
だが、必要以上に傷付けようとしないため、何度も二人を攻めていく。
何とか二人で食い止められているが、圧倒的な数の差により、徐々に押し下げられている。
「お前らだけで無理をするな!!」
突然、キールが剣を手にして兵士たちに向かって振り下ろしていた。二人のように何人も簡単になぎ倒すというわけではなかったが、彼の力は十分なものとなっていた。
ルージュがチラリと後ろへ視線を向けると、ポールは機体が傷付かないようにその場で堪えるように工具で戦っていた。
一方のルビスは、屋敷の中へ駆け戻っていた。
ルビスの安全が確保されたことに安堵したルージュ。その手にある剣に力を込め、今まで以上に振りかざしていく。
その勢いに負けないように、リージュもどんどん兵士たちをなぎ倒していく。
三人が努力しても力の差はそこまで変わらず、不利であることには変わりなかった。
そんな中、動かずにいたカイルがゆっくりと動き出した。
二人の表情に焦りが現れる。
「おや、さっきまでの勢いはどうしたのですか? 引き返せと言ったのは嘘だったのですか?」
ニヤリと浮かべた笑みがやけに不気味であった。二人の背中に嫌な感覚を与える。
「うわっ!!」
すると、今までなんとか凌いでいたキールが地面に倒れた。意識はあるものの、斬られたような痕跡が見られる。
「キール!!」
ポールの視界にも入っていた。だが、自分のことで精一杯のようで、近付けるような気配はなかった。
ルージュとリージュも彼まで気遣うことはできなかった。
「もうやめて!」
背後からこの場にいないはずの高い声が響く。
一同は声のした方へと振り返る。
そこにいたのは、武器を一切纏っていない、無防備な姿のファナであった。入り口から少し前に出ており、カイルたちを追い出したいと訴えかけるような眼差しであった。
「これ以上、私の大事な人を傷付けないで。傷付けるのであれば……」
「おいっ、お前ら伏せろ!!」
ファナが両手を前に出したと同時に、何かを察したポールが二人に向かって叫ぶ。
瞬時に察し、目の前の兵士を押しやってからそそくさと逃げるように端へとそれぞれ寄ってしゃがむ。
その姿を追おうと立ち上がっていたが、突如として水滴が落ちてくる。その勢いは次第に増していき、ふと気付いたときには迫りくるように大量の水が彼らの方へと向かっていた。
それはまるで刃のように鋭くなった水であった。
予想もできない攻撃に、兵士たちの判断は鈍っていた。避けようと思った次の瞬間には、もう水の中にいた。
叫ぶ声が響き渡り、包み込むように拘束する。全員の身動きを封じ、皆に少しのゆとりを与える。
「キール、大丈夫か!?」
自らも攻撃を防いでいてくたびれているにも拘わらず、ポールはキールに駆け寄る。
「生きてるから安心しろ。それより、こいつらも気になるが、ルージュとリージュは一体……」
「それも気になるが今は自分の命を考えろ。食い止めてくれているファナのことも」
「あぁ、そうだな」
二人は立ち上がり、少し屋敷の方へと下がっていく。
ファナの隣には斧や小剣を持ったレンとディオンが立っており、彼女を守る態勢は整っていた。
「大丈夫か?」
離れていたルージュとリージュがキールたちの方へと戻っていく。闘争心は表に出ているが、彼らを心配している様子も垣間見える。
「問題ない。とりあえず、ファナの水を被らないように少し下がれ。そろそろ限界のはずだ」
「ファナ、俺たちは平気だ! 無理なら離していいぞ!」
ポールの叫びにコクリと頷き、ぐっと力の込められていた彼女の両手が少しずつ緩んでいく。
それと同時に、兵士たちを拘束していた水も緩んでいく。一気に落ちていく中に、鎧を纏った男たちも紛れていた。だが、水は地面へと吸収されていくが、それ以外のものは地面に倒れているだけである。
「ぐっ……この力は……」
ファナの拘束を耐え抜いた数名が、よろよろと立ち上がる。その中にはカイルの姿もあった。
「カイル、これ以上は犠牲者を出すだけだ」
「大人しくワード国へ戻れ」
「お、おのれ……」
立ち上がるのが辛くなり、ゆっくりと膝を付いていく。
しかし次の瞬間、近くに倒れていた兵士の剣を持ったと思うと、ファナに向かって思い切り投げていった。
「ファナ!!」
キールとリージュの横をすり抜けていったそれは、二人には咄嗟に反応できずに向かっていく。
一直線に向かってくる物体に、彼女の身体は強張って動けないでいた。
「っ!!」
キーン──
金属がぶつかり合う音が響く。
ファナの前に飛び出したディオンが、持っていた小剣で勢いよく振り回し、全身で守り抜いていた。その勢いのあまり、身体が振った方向へと引っ張られていき、そのまま倒れ込んでいった。
「ディオン!!」
悲鳴にもにた高い声が響く。それに反応してかすぐに起き上がる。だが、刃が掠れたのか腕に赤い線が浮かび上がっていた。
咄嗟になんとか反応していたようだが、凄まじい勢いは予想よりも前へと進ませていたようだった。
「いてて……。平気だよ、ファナ」
「ディオン……よかった……」
ファナはディオンの横にしゃがみ込み、身体をぎゅっと抱き締めていた。
「おい、よくもうちの家族を傷付けてくれたな」
笑顔の一切なくなったレン。全身に怒りを込めたその姿は、普段のレンとはかけ離れたものであった。
食い込みそうなほどに斧を握りしめ、その足はゆっくりとカイルの方へと近付いていく。
「我々に逆らうからですよ」
「逆らうだぁ? うちの庭で何してもいいって思うなよ」
重い一撃がカイルに向かって振り下ろされる。
その寸前、ひらりと身を翻して避ける。同時に、立ち上がった兵士数人がレンに向かって剣を向ける。
囲まれていくその姿に、彼は一人で対抗しようとしていた。
そこへキールとポールが入っていき、守るように兵士たちの攻撃を防いでいく。
「家族っていうんなら、俺たちもレンさんを守らなきゃな」
「大事な人を傷付けるなんて絶対許さねぇぞ」
「ポール、キール……」
二人の攻撃を支援するように、ルージュとリージュも剣を振りかざしていく。
「家族の問題は、家族で解決しないとな」
「他人を傷付ける理由にはならない」
猛攻は疲れ切った兵士を簡単に倒していき、下がっていたカイルへとあっという間に近付いていった。
二人の勢いは止まることなく、そのままカイルへと進んでいく。
何度かそれを防いでいくが、ルージュとリージュによる連携はじわじわと彼のペースを崩していった。
「終わりだ!!」
とうとう地面に倒れ込んだカイル。その顔面の横ギリギリのところへ二人の剣が斬り込むように向かっていった。
「は、はは……。やはり、お二人には敵いませんね」
「当然だ」
「それより、父上は他の者をハイト国へと向かわせたのか?」
「我々を向かわせたのみですが、もしかすれば、精鋭部隊を向かわせた可能性も……」
「そうか、そうだよな……」
二人はそれだけの言葉を頼りに考えていた。その中には、一刻も早くハイト国へ向かうべきだと強く思っていた。
「ルージュ、リージュ!」
するとそこへ、レンを筆頭に皆がやって来た。後ろには、ファナにしっかりとくっついたルビスの姿もあった。
「皆さん、怪我はありませんか?」
「あぁ。なんとか大丈夫だ。それより……」
「黙っていてすみません。俺たちは、ワード国の王子です」
「王子……。そんなことも知らずに、その……」
「レンさん、今まで通りに接してくれた方が嬉しいです。それに、訳ありというのはお互い様じゃないですか?」
ルージュは突然ファナの方へと視線を向け、バッチリと目が合う。
自分のことだと気付き、一瞬戸惑いながらも前へと出る。
「わ、私のこれは、生まれ持ったものだったわ。だけど、誰かを傷付けるために使いたくなくって、それで……」
「安心して、ファナ。俺たちは君のそれを傷付けるために使わないし、隠していきたい。絶対に約束する」
「ルージュ……。ありがとう」
目を潤わせながら、ファナとルージュは握手をする。
「水を差すようで悪いが、これからどうやってハイト国へ向かうつもりだ? 機体も直ってないし、さっき少し傷付けられたかもしれないし」
「そうだな……。カイル、お前たちはどうやってここまで来たんだ?」
「現状使われている浮揚機体です」
「そしたら、それを二つ使わせてもらう。カイルたちは回復次第、城へ戻ってくれ」
「はっ!」
「俺たちも手を貸そう」
「ありがとうございます」
二人は礼をすると、剣を戻して出発の準備を始める。
「ルージュ様、リージュ様……」
か細い声でそう呼ぶルビスが、二人の前に出ていく。
今にも泣きそうになりながらじっと見つめる。
「ルビスは、ルージュ様とリージュ様と、一緒に……」
「ルビス。俺たちはやらなければならないことがある。それに、さっきよりも激しい戦いになるかもしれない」
「全てが終わったら、また会いに来る。だから、それまで待っていてくれ」
「……うん、分かったよ。みんなのお手伝いして待ってるよ。だから、忘れないでね!」
満面の笑みを浮かべ、二人のことをじっと見る。堪えていた涙が流れていることにも構わず、その姿をしっかりと見送るという意思をしっかりと示していた。
そんな姿に見送られながら、二人はゆっくりと門の外へ向かって歩き出していく。
「健闘を祈る」
たった一言、レンのその声が二人に届けられる。
振り返ることもなく、片手を挙げて受け止めたことを示すと、完全に敷地の外に足を踏み入れていた。
二人はしばらく木々の覆われた道を歩いていた。
すると、カイルたちが乗り捨てたであろう多くの機体がその姿を見せた。一人が立って乗るような形をしている。
「これだな」
「ルージュ、急ぐぞ」
話しながら機体を始動させていく。静かな音を出しながら、すぐに動かせる状態へとなっていった。
その上に立って乗り、右側のハンドルを少し捻る。ゆっくりと前進していき、感覚を掴んでいく。
「行くぞ!」
リージュの叫びと同時に、思い切り捻って加速していく。二人並びながら森の中を全速力で駆け抜けてハイト国へと向かっていくのであった。
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