8
宮本達に連れられ、宙色は建物の二階の打ち合わせ室に来ていた。中央には木製の長机が置かれ、その周りを十数個の椅子が囲んでいる。
「適当な椅子使っていいよ。あ、バランスボールだけは辰巳さんの私物だからダメだけどね」
「意外と健康志向な人なんですね……」
「いやあ、単に新しいものが好きなだけだと思うけどね」
宮本はそういって笑いながら椅子に腰を下ろすと、手に持っていた紙をバサバサと広げた。ト書きのような文章が何枚にもわたってつづられている。
「宮本さん、それって……」
「これ?今作ってるアニメの脚本だよ。一応完成まで行ってる」
宙色が適当な椅子に腰かけながら聞くと、宮本は軽い調子で答えた。
「ってことは今から始めるのって……」
「うん、絵コンテ作業。一応七ロマのアニメ制作は私がシナリオ書いて、中井君が絵コンテって割り振りだから」
宮本は資料を広げながら淡々と語る。しかし、アニメにおける絵コンテと言えば、小説におけるプロットや漫画におけるネームにあたるもので、すなわち作品の根幹そのものだ。そんな大事なものを、シナリオ担当が徹夜明けの状態で創ってしまってよいのか。なにより、あくまで部外者の自分がいる場所でそんな大事な作業に取り掛かってよいのか。
そんな宙色の胸中を察したのか、宮本はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「何?宙色君、せっかくなのに見ていかないの?」
「いや、むしろ自分なんかが見ていっていいもんなんですか?」
「はっ!別に構いやしないよ」
宙色の疑問を笑い飛ばして、宮本はどっかりと椅子に腰かける
「見られて減るもんでもないし、宙色君真面目だから盗作とかもしないでしょ?というか、盗もうと思って盗めるもんじゃないからね」
そう、宮本があまりに自信満々に語るので、宙色の方が思わず中井の方を伺う。水を向けられた中井は宮本ほど堂々とはしていなかったが、確かな笑顔とともに宙色に椅子を勧めてきた。落ち着いた様子の中井に促され、宙色も遠慮がちに椅子を引く。
「せっかくだから、宙色君も思ったことあったらどんどん意見してよ。はい、これ作品のプロットと脚本」
宙色が椅子に腰かけると、今度はそう言って製本された脚本を渡してくる。商業作品ではないとはいえ、あの『七月のロマン』の未発表の作品の脚本を、自分のような部外者が目にしてよいものか。
そんな宙色の心境を察したのか、まだ何も言っていないうちに宮本がニヤリと笑いかけて、言い放つ。
「大丈夫大丈夫。読まれて困るようなことは何もないよ。なんせこの作品は、」
そう語る宮本アリスは、まるで既に知っていることを話すかのように得意げな顔をしていた。
「初めから、傑作になるって決まってるんだ」
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