第2話 幼馴染(男)

 ウチの幼馴染、星野聡明はヤバい奴っス。


 神出鬼没、スリルジャンキー、トラブルメーカー、宇宙人等、物騒な異名を大量に持ってるっス。週末には日本各地を移動し、長期休暇になれば世界中を旅するトラベラー。非現実的なレベルでの放浪癖と、漫画の主人公みたいな特別な力を持っている疑惑のある、正真正銘の変人っス。


 ただ、変人の癖して、聡明はとても多才なんス。何ヶ国語も話せるマルチリンガルで、生活能力やサバイバル能力もずば抜けてるっス。ウチ自身天才なんて呼ばれてるっスが、多分本当の天才は聡明みたいな奴の事を言うと思うんス。


 いやまあ、どんなに多才で凄い奴であっても、放浪癖とそれに伴うアレやコレが酷すぎて、結局変人という結論に落ち着くんスけど。


 そんで当然の事ながら、聡明は周囲から浮いてたっス。


 いやまあ、当然っスよね。小学校では出席よりも欠席の方が多かったし、その理由が病欠では無く、何処かしらを放浪していたっていう、小学生にあるまじき理由なんスから。


 中学校になってからは、余計に酷くなったっス。流石に平日は普通に学校に通うようになったっスけど、土日祝日は日本の何処か、長期休暇は外国をふらっと旅するっていう、訳の分からない生活をしてたんスよアイツは。


 いやもう、兄妹みたいな付き合いをしてるウチですら、聡明の放浪癖にはドン引きっスよ。何がヤバいって、殆ど全てが一人旅、尚且つ基本自腹って事っスよ。日本国内なら兎も角、どうやったら外国まで一人で移動出来るんスか? 中学生の癖に、どうやってお金を工面してるんスか? おじさんもおばさん、聡明のお父さんもお母さんも、不思議そうにしているし、本当にアイツは謎っス。


 幼馴染で兄妹のようなウチですら、聡明の事はよく分かっていないんスから、当然他の子は聡明を警戒してたっス。お陰でウチと聡明を、皆どうにかして引き離そうと色々がっ策されたりしたっス。皆の気持ちは嬉しかったっスけど、無駄な心配というか、ぶっちゃけ余計なお世話だったっス。確かに聡明は色々と謎なヤバい奴ではあるっスけど、悪い奴では断じて無いっス。むしろ何かあった場合、とても頼りになる良い奴なんスよ。……まあこれを皆に言ったら、余計に引き離されそうになって大変だったっスけど。


 あ、一応断言しておくっスけど、ウチと聡明は恋人とかでは無いっス。有り得ないっス。確かに聡明は幼馴染で、兄妹みたいなもんで、大好きっスよ? でもそれは家族愛の範疇であって、恋愛感情では無いっス。というか普通に考えて、あんな極まった放浪癖の持ち主を、どう異性として好きになれと言うんスか。幼馴染じゃなかったら、まずお近付きになりたいと思えない人種っスよ、アイツは。


 ウチが聡明と一緒に行動するようになったのは、やはり親の繋がりがあったからっス。パパとママに頼まれたんスよ。聡明の事をどうか見守ってくれって。……もうこの時点でツッコミどころ満載っスよね。何で聡明の心配を、ウチの親がしてるんスか。


 どうもウチの両親は、聡明の両親に昔っから振り回されたみたいなんス。パパとママ曰く、聡明の両親は奔放過ぎる弟と妹といった立ち位置だったみたいらしく、それはもう色々と苦労したんだとか。だからこそ、聡明が生まれた時、ウチの親は決心したらしいんス。この子があの二人に振り回されそうになったら、助けてあげようって。……まあ結果としては、その奔放過ぎる聡明の両親を持ってして『ウチの息子は地球外生命体』と言わしめる、モンスターチャイルドだった訳っスが。


 まあウチからすれば、あの親にしてこの子ありって言うか、どっちも地球外生命体みたいなもんだと思うんスけど。だって中学生の一人旅、それも海外旅行を黙認してる時点で、相当にアレだと思うんスよ。……まあ八割諦念な気もするんスが、未だにウチの両親は聡明がいなくなると心配してるんすから、実の親はもっと心配しても良いんじゃないかと思うっス。最近だとお土産を頼んでますからね、おじさんとおばさん。


 っと、脱線したっス。


 兎も角、星野聡明って奴は、超弩級の変人で、旅人なんス。


 だからこそ、聡明が受験したって聞いて、本当に驚いたっス。更に受験した学校を聞いて、尚且つ合格したと聞いて、もっと驚いたっス! だって聡明が受験したのは、ウチと同じ帝櫻学園だったんスからっ!


 聡明の事だから、てっきり中学校を卒業したら、そのままバックパッカーとかになって、一生旅するのだと思ってたっス。だから同じ学校に通えるって聞いて、まだ一緒に居られるって分かって、不覚にも泣いちゃったっス!


 ただ不思議だったのは、何で進学を、それも帝櫻なんてところに通おうなんて思ったんっスね? こう言っちゃアレっスけど、聡明のお家はそこまで裕福じゃないっス。失礼を承知で言うなら、少し貧乏な部類っス。まあその理由が『バリバリ働いて家庭に中々居れないより、貧しくてもしっかり家庭の時間を確保する』というおじさんの信条なので、十分に幸せな家庭ではあるんスが。……ただ、その家庭の一部である聡明が、そんなに家にいないんスよねー。まあ、おじさんもおばさんも納得してる事ではあるっスから、ウチが口を出す事でも無いっスか。


 で、この前理由を訊いてみたんスよ。そしたら『父さんと母さんが、高校と大学は行けってな。色々自由にさせて貰ってるし、これぐらいは守らないとって思ってなー。んで、帝櫻は特待生だと色々得だし、尚且つ家から近い。後はアレだ、折角三年も通う事になるんだから、楽しみたいだろ? だから帝櫻にしたんだよ。あそこ、俺達とは正に別世界って感じだからな』だそうっス。流石は幼馴染と言うか、半分同じ考えだったっス。 そして後半は、如何にも聡明らしい理由で、お腹抱えて笑っちゃったっス! ウチの事をよく馬鹿とかアホとか言うっスけど、聡明の理由も十分馬鹿っぽいっス!


 まあ、サラッと特待生を取ってる当たり、やっぱり聡明は優秀なんスけど。帝櫻の特待生枠って、三つしかなかった筈で、求められるレベルも偏差値七十以上だった筈っス。ウチでもちょっとは勉強したのに、何であっちこっちふらふらしてる聡明が特待生なんスか。そこはちょっと納得いかないっス。


 んー、でも聡明も一緒となると、中々に騒がしい高校生活になりそうっスねぇ。聡明、どうしようもないぐらいにズレてるっスから。変なトラブルを起こさないと良いんスけど……。


 まあ良いっス。そうなった時は、ウチがしっかりフォローすれば良いっス! もう何年も聡明のフォローをやってきたんスから、慣れたもんっス!


 早く学校始まんないっスかねー。

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