餃子と共同作業 後半
まぁ子供には餡の中身なんてたいして興味はないだろう。
それでも餃子はキャベツ派と白菜派の二つに分かれると思う。
「なぁどんな餃子が食べたい?」
「えっと……カリっとしてるやつがいいデス!」
「それは焼き方だな、オッケー。中身はどんなのが好きだ?」
「うーんと、トロってしてるやつが食べたいデス」
「カリッ、トロ~だな。オレもそういうのが好みだ。ちなみに白菜とショウガとニンニクとネギとニラと、それからシイタケと大葉、こんなかで苦手なのあるか?」
シイタケ、大葉、の名前が続いたところで、スッと視線が下に落ちた。
「……ど、どれも大丈夫デス」
嘘つけ。あんまりにも態度が分かりやすくてニヤけちまう。
「シイタケと大葉は苦手なんだな? 大丈夫、入ってなくても美味いから」
ホッとしたように見上げてくる。
そう。話してみなくちゃわかんないことがたくさんあるってことだ。
それからオレは肉餡作りに取り掛かる。
ちなみにオレは白菜派。トロっとした食感なら断然こっちたど思う。で、まずは白菜とニラをみじん切りにして、粗塩をふり、塩もみしてやる。
その間に豚の赤身ひき肉に塩コショウ、みそ、しょうゆ、オイスターソース少々をいれ、そこにみじん切りのネギ、すりおろしたニンニク、しょうがを加えてゆく。
「よし、平九郎、この白菜をギューって絞ってこん中に入れてくれ、思い切りやっていいぞ」
「ハイ、セキカワさん!」
平九郎は塩揉みした野菜を両手ですくうと、全身の力を込めてギューっと絞り出す。するとまぁ、びっくりするほど水が出てくる。それが楽しいのか、もう口も利かずにギューっと絞っては『これでいいデスか?』とそのたびに聞きながら、ボールに投入してくる。
「うん。ばっちりだ。その調子で頼むぜ」
そんなこんなで最後にごま油を足してよく練れば肉餡の完成。皮は市販のものを使い、あとは向かい合わせに座って餃子を包んでゆく。
「まぁ最初は無理しないでいい。こうやって端っこに水をつけて、ひだひだを作ってギュッと指先で抑えるんだ、こんな感じだな」
「すごい! ちゃんとギョーザになった! 売ってるやつみたい!」
「だろ? でも結構簡単なんだ。やってみな」
向かい合って作業していると、なんとなく話もしやすいものだ。
ということで、オレは一つ気になってたことをさりげなく聞いてみる。
「この前話してた断食の修行さ、始めたらもうずっと食べられなくなるのか?」
「ハイ。トモカ姉さんはそう言ってました。自然にある霊力が食べ物の代わりになるそうです」
「霊力か。それってうまいのかな?」
「うーん。分かんないデス、食べたことないデス」
「平九郎はごはん食べるの好きか?」
「セキカワさんの料理はどれもおいしいデス!」
なんて話したところで餃子の完成だ。
さっそくフライパンを温め、丸く並べて焼き始める。
「オレはビール。平九郎にはご飯な。タレはなんか好みがあるか?」
「ボクは醤油がいいです」
「わかった。オレは酢醤油にラー油。まぁいろいろ試してみたらいい」
底に焼き目がついたところで水を投入し、蓋をして待つこと数分。水気がなくなったところで油を足してもうひと焼き。これでパリッとした焼き色がつくのだ。最後に大皿をフライパンにかぶせ、クルッとひっくり返して完成だ。
「では食べよう! 二人で作った究極の餃子だ」
「いただきマス!」
さて。今日の出来はどうかな?
グイっとビールを飲んで、さっそく焼きたてを一口。
カリっと皮が破れて、香ばしい香りがひろがり、とろりとした熱々の肉餡がこぼれだしてくる。ニンニクとニラの癖のある香りが、豚肉と絡み合い『これぞ餃子!』という味になっている。うう、たまんないな! これだよ、これ!
「はふはふ、今回も完璧っ!」
「ハイ! すっごくおいしいデス、ハフッ」
平九郎も同じくハフハフ言いながら、満面の笑みだ。
「おっ、こっちは平九郎が包んだやつだな」
「こっちはセキカワさんが包んだ奴デス、お肉がいっぱい詰まってマス」
パリッ、ジュワーっと餃子を味わう。熱っっ、ハフハフ。食べだしたら止まらない。それにこの酢醤油がまた合うのだ。ラー油のピリッとした辛さもまたいいアクセントになる。
そうそう塩もみした白菜がこのトロっとした感じに一役買っている。肉餡全体に甘みがつき、最後に加えた隠し味とともに複雑で奥深い味わいになっているのだ。
まぁとにかく理屈抜きに焼きたての餃子はうまい。キリっと冷えたビールを飲みかながらだと、無限に食べれそうな気がするくらい。
「そういえば……愛宕山から逃げちゃった兄さん、最後に餃子を食べに行くって出て行ったんデスよ」
ハフハフいいながら平九郎がつぶやく。
「そういや、なんか兄さんがいたって言ってたな?」
「ハイ。修行が始まる前に餃子を食べたいって出て行って、そのまま戻ってこなかったんデス」
「そりゃまた変わった奴だな」
「ヘイジロウ兄さんは変わり者って有名でしたから。でもこの餃子を食べたら、なんだか兄さんの気持ちも分かった気がします」
「そういうものか?」
「だって餃子がこんなにおいしいなんてボク知らなかったデス! こんなにおいしいなら、修行したくなくなるのもわかりマス!」
「こりゃまずいもん食べさせちまったかな?」
「まずくなんかないデス。でもトモカ姉さんには怒られそうデス。フフフ」
平九郎がニコニコっとそう言った時だった。
「やっと見つけたよ、平九郎!」
窓の外にもう一人のカラス天狗が浮いていた……
~終わり~
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