第五膳『おでかけとちらし寿司』

おでかけとちらし寿司 前半

 朝起きて『おはよう』のあいさつをするのは、ずいぶんと久しぶりのことだ。


「おはようございマス!」といつも早起きの平九郎。

「……」スヤスヤと眠り続けているのはトモカちゃん。


 ちなみにトモカちゃんはあたらしく居候となった平九郎の姉だ。


「とりあえず二人で朝ご飯にしようか。トーストと目玉焼き、それでいいか?」

「ハイ! ボクは半熟のがいいデス」

「分かってる。で、醤油かけるんだよな?」

「関川サンはウスターソース、デスよね?」


 朝ごはんを人のために作るのも久しぶりだ。こんなやり取りがなんだか楽しい。キッチンに移動してフライパンにバターを溶かし、割っておいた卵をそっと入れる。しばらく焼いてからちょっと水を入れて蓋をしてしばらく待つ。


 と、トモカちゃんが盛大に寝癖のついた赤髪をかきながら起きてきた。


「あー目玉焼き、あたしも食べる! マヨネーズで!」


 食べる前からよだれをぬぐっているが、見なかったことにする。ついでに言うとかなりグラマーな体形で、だらしないパジャマ姿に目のやり場に困ったりもするが、なにも見えなかったことにする。

 ちなみにトモカちゃん、カラス天狗の実年齢は知らないが、女子高生ぐらいの見た目である。ワンルームマンションに女子高生と小学生、いよいよ犯罪臭が漂う気もするが、親子だと思うことにする。 


 ということで三人そろっての朝食が始まる。


「ねぇねぇ、セキカワ、今日の晩御飯なになに?」

 と呼び捨てで聞いてきたが気にしないことにする。あの餃子を食べて以来、すっかりオレの料理を楽しみにしているらしい。まぁうれしいんだけど、コイツ、平九郎以上に食べることにどん欲だ。したがってオレは今、ひな鳥にエサを運び続ける母鳥の心境である。


「なにかリクエストがあるかい?」


 考えてみれば晩御飯のコトを聞かれたのは久しぶりだ。

 なにが食べたいか、なんて聞くのも久しぶりだった。


「「ちらし寿司!」」


 そして姉弟同時に返ってきた答えに固まったのも久しぶりだった……


 お、おう。ちらし寿司ね。

 なかなか渋いリクエストだな。まぁ寿司よりはハードルが低いか。いや、むしろ高いか? どの程度本格的に作るかにもよる。そもそもちらし寿司っていろいろ種類があり過ぎるし。まぁ見た目はきれいに仕上げたいところだ。


 と、そんなオレの胸中を知るはずもなく、二羽のカラス天狗は期待に目を輝かせ、興奮に純白の羽を震わせている。その様子からして、ちらし寿司には何やら思い入れがありそうな様子だった。


 ちらし寿司を作るなんて何年ぶりだろう?

 そもそも具材は何を入れてたんだっけ?

 刺身系の具材は大丈夫なのかな?

 これだけ頭を使う料理も珍しい。


 そうだ! それをいっぺんに解決する方法があった!


「よし分かった、今日は一緒に買い物に行こうぜ!」


 ⇒ to be continued

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