第53話 VSライザ その3
「────アホっ! 磁竜砲の反動を使って落下軌道を変えなさい! いますぐ!」
「っ、そうか!」
それはフィリスの声だった。
その言葉を聞き、アオイはすぐにジェルミナイトを捕捉して磁竜砲の引き金を引く。
反動で重力に逆らい、スカイドラゲリオンの機体が宙でもう一回跳ねた。
「いったぁ!? おまっ、空中で弾丸を当てるとか化け物か!?」
「あいにく、無茶ぶりをする師匠がいるものでね! このぐらいの芸当ができないと遠距離竜機手は務まらない!」
「そんなことねぇよ! フィリスを基準に考えるな!」
撃ちだされた弾丸がジェルミナイトを強襲すると共に同時に、体勢を立て直したスカイドラゲリオンが華麗に着地する。
起死回生の一手に、観客席が沸き立った。
「ちょっとフィリス!? 実況席に殴り込みなんてどういう要件なんですか!?」
「うっさいわね! あんた、実況の立場を利用してカイさんを口説こうとしてるでしょ! バレバレなのよ!」
「そ、そんなことは……」
「はい、カイさん。私も実況に混じりますので少し席を詰めてください」
「お、おう……」
フィリスが二人の間に割って入り、マイクを奪い取る。
「アオイ、今から言うことを耳をかっぽじって聞きなさい」
「は、はいっ!」
「ジェルミナイトは『不落』なんて呼ばれているけれど、それでも脆弱な部分はあるわ。関節部よ」
「なっ!? マジですか!?」
「ええ、ジェルミナイトの弱点はそこ。だから、あなたはそこに攻撃を集中させればいいわ」
「ちょっとフィリス! お前実況の癖に勝手に喋りすぎだろ!」
「ライザ、あなたもどうせカイさんからスカイドラゲリオンの弱点を聞き出してるんでしょ。これでイーブンよ」
「そりゃないぜ……」
ライザは図星を突かれ押し黙った。
スカイドラゲリオンは磁竜砲を構え、ジェルミナイトを牽制する。
「お、おいアオイ。フィリスの言うことを真に受けるんじゃないぞ。確かにジェルミナイトは関節部が弱点だが、それでも並大抵の攻撃じゃ傷一つつかないんだからな」
「わかっていますよ。でも、撃たなきゃ死ぬのは俺なんで」
「お前もなかなか修羅場を潜り抜けてきたんだなぁ。同情するぜ……」
アオイとライザが軽口をたたき合う中、ジェルミナイトが動き出す。
ジェルミナイトは両腕を交差させて防御姿勢を取ると一気に距離を詰めた。
そして、磁竜砲をの銃口を掴む。
「修理屋が言ってたんだが、その武器は銃形態の時に銃口を掴まれると剣形態に変形できなくなるらしいな。つまり、てめーはもう戦えない」
「…………」
「遠慮なくぶん殴らせてもらうぜ!オラァッ!!」
ジェルミナイトが拳を振り上げる。間違いなく、全力の一撃だった。
…………しかし、ライザは忘れていた。
スカイドラゲリオンはもともと近接型の竜機である。そして、アオイ自身も近接戦を得意としていた竜機手だ。
ライザが得意とする間合いは、アオイも得意とする間合いである。
次の瞬間、ジェルミナイトの右腕に歪な音が走った。
「なっ……!?」
「関節部が弱いんでしたよね。なら別に磁竜砲で狙わずとも『締める』ことができる」
「そうだな……お前には『関節技』があったな。アイーダの試合を思い出しておくべきだったぜ」
スカイドラゲリオンの左手がジェルミナイトの右肘を掴んだ。
そのまま力任せに引きちぎらんばかりに力を入れる。
ゴキンッ!!という鈍い音と共に、ジェルミナイトの肘が悲鳴を上げた。
「何やってんのよアホ! あんたは遠距離竜機手でしょうが! そのまま勝ったら承知しないわよ!」
「フィリス、もう出て行ってくださいっ! 生徒会長に言いつけますよ!」
「やれるもんならやってみなさいよ! その前にあんたをギタンギタンにしてやるんだから!」
「あのーお二人様方、実況する気はあるんですか? …………えー、俺だけでも実況をするとしますかね。さて、ライザ様はアオイが近接技も使えるということを完全に失念していたようです。機械というのは瞬間的な衝撃には強いんですが、継続的に圧力をかけられることには弱い傾向にあります。ライザ選手、この状況にどう立ち向かっていくのでしょうか」
腕を完全に固められ、身動きが取れなくなったジェルミナイトに、アオイは容赦なく負荷をかけていく。
「このっ……こんな拘束、ジェルミナイトの馬力なら……!」
「ぐっ……」
それでも、ライザは抵抗を続けた。
ジェルミナイトが強引に身体を動かして束縛から逃れようとする。
徐々に拘束が外れ、自由を取り戻しつつあったが──────────。
「力ではジェルミナイトに勝てないことぐらいわかってるんですよっ!」
「何ッ!?」
突如、スカイドラゲリオンの腕部から鉄線が飛び出し、ジェルミナイトを絡めとる。
以前、カイが発明したワイヤーを使った拘束具だ。
「もともとは射出して相手を拘束するものなんですがねっ! ある物はすべて使います!」
「おまっ、それは反則だろ!」
「ライザ様も知ってたでしょっ! スカイドラゲリオンは進化する竜機、天然とは違うんですよ!」
関節部にワイヤーが引っかかり、完全に動けなくなる。
無理に動けば関節に負担がかかる、ジェルミナイトが誇る怪力が仇となっていた。
「なんと、一転攻勢! 今度はアオイ選手がライザ選手を手玉に取っています!これはカイさんの作った武器ですね!」
「ま、まぁそうですね。正しい使い方じゃありませんけど」
「いっけぇアオイ!そのまま至近距離で磁竜砲をぶちこんじゃいなさいっ!」
フィリスが大声で叫ぶと同時に、アオイは磁竜砲を奪い返すとの銃口を装甲の隙間に差し込む。
コックピットの中で、ライザが苦笑する。
「くそっ、オレがこんなに苦戦するなんて久しぶりだぜ。誇っていいぞ」
「褒められて光栄です。ですが、引き金は引かせてもらいます」
青色の爆発が二機の竜機を包んだ。
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