第52話 VSライザ その2
試合開始の合図と共に、二機の竜機が動き出した。
「さぁ、見せてくれよ。お前の新しい武器とやらを」
「言われなくてもわかってますよ」
スカイドラゲリオンが磁竜砲を構える。
その照準はジェルミナイトに向けられていた。
「カイさん、あの武器はなんでしょう」
「あれは電磁加速式リニアレールキャノン、磁竜砲です。スカイドラゲリオン専用装備で、弾速と威力に特化した遠距離攻撃用の武装ですね」
「ほほう。ではあの大砲はどのように使うのですか?」
「簡単です。あの砲身の中に砲弾を入れ、引き金を引くだけで発射できます。ちなみに、装填数は最大六発。リボルバー式になっています」
カイの解説を聞きながら、アオイはジェルミナイトの胴部へ狙いを定める。
「ライザ様、どうなっても知りませんよ」
「へへっ、むしろ私にとっては好都合だ。一発目は受けきってやるよ」
ジェルミナイトのコクピットの中でライザは笑みを浮かべる。
磁竜砲にどんな威力があろうと、自身の機体なら耐えられる自信があったからだ。
そのままゆっくりとスカイドラゲリオンに歩みを進める。
「おーっと!? ライザ選手、余裕たっぷりにスカイドラゲリオンに接近していく! これは何か作戦があるのか?」
「いえ、アレは完全に磁竜砲の威力を舐めきっていますね。製作者としては悲しいですが、ジェルミナイトの硬さは並大抵のものではありません。仕方ない部分もあります」
カイが実況席で解説をしている間もジェルミナイトは接近を続ける。
そして、射程距離に入る直前、ジェルミナイトがいきなり足を止めた。
「かかって来いよ。引き金を引けば結果がわかるぜ」
「……ッ! だったら望み通りぶっ飛ばしてあげますよ!!」
極限まで集中したアオイは言われた通りに磁竜砲の引き金を引いた。
砲身に電撃が走り、空気を震わせる。次の瞬間、音速を超えた弾丸が一直線に撃ち出された。
轟音を轟かせ、弾丸はジェルミナイトの心臓部に命中する。
「うおっ!?」
ジェルミナイトがあまりの威力に宙を舞い、砂煙を上げて壁に激突する。
衝撃で地面が大きく揺れ、観客席の柵がギシギシと音を立てた。
目の前の出来事に、観客が静まる。
「な……なんて威力……」
「はい。今撃ったのが磁竜砲ですね。大抵の竜機なら一発で大破ですね。これは竜機のエネルギー関係なしに撃てるので、人間が竜機に対抗できる数少ない手段の一つなんですよ」
「そ、それは凄まじい性能ですね。人類の技術もそこまで進歩しましたか…………っ!? カイさん、あれ!」
アオイは砂煙の中で動く黒い影に絶句した。
「痛ってー。とんでもねぇ威力だ。流石の私でも防御の構えを取っちまったぜ……」
ジェルミナイトは機体をむくりと起こす。胴体には傷一つついていない。
中にいるライザも体を強くうったものの、いまだにピンピンしていた。
驚愕しつつ、アオイは次の手を考える。だが、焦りのせいで思考が上手くまとまらない。
「カイさん、アオイ選手は大丈夫なのでしょうか?」
「ままままぁ、だだだ大丈夫でしょうね。落ち着いてください、大丈夫です」
「カイさん!? 大丈夫ですか?」
「い、いえ、本音を言えば大丈夫じゃないです。まさか俺の最高傑作の攻撃が受けきられようとは思ってませんでしたからね。ちょっと動揺してます。それにしても、ジェルミナイトは本当に硬いですね。これはアオイも心底戸惑っていることでしょう」
アオイは焦るカイの解説に絶句する。それはスカイドラゲリオンの機能に磁竜砲を超える威力を持つ装備が無いことを意味していた。
ジェルミナイトがゆっくりと近づいてくる。
「さて、次はこっちの番だ」
「くぅ!」
磁竜砲は弾速と単発威力に特化したため、連発はできない。一発撃てばあとは時間稼ぎをするしかなかった。
幸い、機動力はスカイドラゲリオンの方が上だ。
「おい、逃げんのかよ。まぁ、賢明な判断だとは思うがな」
「くそっ……このままじゃジリ貧だ……」
スカイドラゲリオンは磁竜砲を展開し、二つの剣に変える。カイが接近戦に持ち込まれた時のために用意してくれた磁竜砲のもう一つの形態だ。
しかし、この刃ではジェルミナイトの装甲を切り裂くことはできない。文字通り付け焼刃であった。
(やれることをやるしかないか……)
「どうした? 逃げてるだけじゃ何にもできないぜ?」
「わかっていますっ!」
意を決し、アオイはジェルミナイトに斬りかかる。しかし、その刃はジェルミナイトの頑強な腕に阻まれた。
「おいおい、そりゃあ愚策だぜ。この程度で終わりか?」
「やっぱり斬れないかっ……」
「んじゃあ、こっちのターンだ。ぶっ壊れないよう防御しな」
ジェルミナイトが刃を掴む。そして、そのまま力任せに振り上げた。
「うわあああっ!?」
「ははっ、機動力を上げるために軽量化してるってのは修理屋の言った通りだったな! おかげで面白いように飛ぶぜ!」
スカイドラゲリオンが空高く舞い上がる。ジェットコースターのような浮遊感がコクピット内に響いた。
ジェルミナイトはスカイドラゲリオンを持ち上げ、ぶん投げたのだ。
「スカイドラゲリオンが空中に放り投げられたぁー! アオイ選手ピーンチ!」
「あああああ!!」
マリエルがマイクを強く握り、カイが目の前の光景に絶叫する。
このまま地面に叩きつけられれば大ダメージは必至だ。
「アオイ! なんとかしろぉ!!」
「無茶言わないで下さい! こんな状況でどうすればいいって言うんだよ!?」
「知るかッ! 解説に助けを求めんな!」
アオイはめまぐるしく回る視界の中、必死に考えるが、機体を制御するのに精いっぱいだ。
このまま激突する…………かに思われた時、マイク越しにくぐもった声が響いた。
「────アホっ! 磁竜砲の反動を使って落下軌道を変えなさい! いますぐに!」
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