第50話 ?????

 少女はライザと向かい合っていた。


 ライザに呼び出され、多少不機嫌ながらも彼女は口を開く。


「それで、話というのはなに」

「いやぁさ、一応アオイと戦える目途が立ったからお前に伝えておこうと思って。オレの役目は果たせそうだ」

「…………」

「おいおい、もうちょっと喜んでくれてもいいだろ。お前に言われた通りにやったんだし」


 ライザがそう言うと、少女はフンッと鼻で笑い答えた。


「私はあの男の成長が見れればよかっただけ。別にあなた以外でもよかった」

「ふぅん、まあいいけどさ。そう言われるのはわかってた」

「知ったことじゃない」

「つれないな〜」


 ライザはニヤケ顔のまま頭を掻いた。

 そして、思い出したように口を開く。


「あ、そういやアオイの兄に会ったぜ。人工竜機の開発者だ」

「そう……」

「いやー、アイツの話が結構面白くてさ。なんでも『竜機にはそれぞれモデルになった人物がいるかもしれない』って言っててよ」

「…………」


 突然、少女の動きが止まった。そしてゆっくりとライザの方を振り向く。

 その表情からは何を考えているのか読み取ることはできない。


「私もその考えは笑い飛ばしたさ。竜機にモデルなんているわけないってな。でもそれを大真面目に話しやがるんだよ。あの兄ちゃんは」

「……だから?」

「いや、それだけだ。んでもよー、オレはアオイよりもアオイの兄の方が注目を向けるべき人間だと思うぜ。きっと何かあるはずだ。何かとんでもない秘密が」

「……くだらない。たかだか一整備士の戯言」


 少女は吐き捨てるように呟いて踵を返す。

 そのまま立ち去ろうとする彼女に、ライザは声をかけた。


「おっ、どこ行くんだ?」

「……仕事」

「そうかい。んじゃ頑張れよ。先に謝っておくが、オレは負けないぜ。お前の野望もここまでってことだ」

「……」


 そう短く会話を交わした後、少女は無表情でその場から去って行った。

 彼女の背中が見えなくなると、残されたライザは大きなため息をつく。


「ったく……。相変わらず愛想のねぇ奴だよなぁ」


 *****


「大変なことになりましたねぇ、アオイ先輩。シロハ先輩、フィリス先輩、アイーダ先輩ときまして次はライザ先輩ですか。アオイ先輩はモテますね」

「そんなこと言ってる場合!? 俺、今度こそ殺されるよ!? いや、マジで!!」

「ファイトですよ、アオイ先輩。頑張ってください」


 プライベートスペースにて、エルが呑気に微笑みながら応援を送る。しかし、アオイの表情は優れなかった。


「いやいや、無理だって! 相手は十二機神姫だよ!? 勝てるはずがないじゃん!」

「今まで三人の十二機神姫を撃破しているアオイ先輩が何を言っているんですか。それに今回は模擬戦ですから死にはしません。安心してください」

「いや、そういう問題じゃなくて……」

「大丈夫です、アオイ先輩の実力は王立学園中の知れるところとなっています。それともアオイ先輩、今までの試合がマグレ勝ちだというんですか?」

「うっ……」


 アオイは言葉に詰まる。


 確かにアオイはこれまでの戦いで常に全力を出してきた。だが、それでも竜機試合が好きになれない。


 今回だってそうだ。

 ライザとの試合で勝つ自信など全く無い。


「まぁ、アオイ先輩の言いたいこともわかりますよ。『どうして自分ばかりが』と不安になる気持ちもわかります。ですが、いつだってアオイ先輩はそんな絶望的な状況を切り抜けてきました。大丈夫、アオイ先輩ならできます」

「……ありがとう、エル」

「いえ、当然のことを言ったまでです」


 エルはいつものように優しく笑う。

 その笑顔にアオイは少しだけ救われた気がした。


「そういえばアオイ先輩。ライザ先輩の竜機、ジェルミナイトですが、なにか具体的な攻略方法は考えているんですか」

「それが思いついていたら苦労しねぇよ……」

「ハハハ、そうですよね」


 竜機の操縦室で項垂れるアオイを見て、苦笑するエル。


 ジェルミナイトは竜機の中でも特に異端と呼ばれる機体だ。

 その由縁は装甲の硬さにある。ジェルミナイトの機体は全身が鋼鉄に包まれており、いかなる攻撃も通さない。まさに難攻不落の動く城だ。


 そして、ジェルミナイトは武器を持たない竜機。

 故に近接戦闘に特化しており、接近を許してしまえば一方的に蹂躙されてしまう。


「ジェルミナイトってアオイ先輩のスカイドラゲリオン並みに反則級の竜機なんですよねぇ。覚形を発動されてしまえば勝てる竜機なんてほんの一握り。実力云々じゃなくて機体の性能が物を言う戦いになりますよ」

「だから余計に怖いんだよ……」

「それでも、勝てる竜機はいます。例えばシロハ先輩のホワイトフォーゲル、彼女は『断罪のジャッジメント』でジェルミナイトに傷をつけています。不可能じゃありませんよ」

「むしろ、『断罪の剣』レベルじゃないとジェルミナイトにダメージを与えられないんだよ。『断罪の剣』は全竜機の中で最も威力の高い攻撃だぞ?生半可な攻撃は弾かれるし、そもそも当てることすら難しい」


 アオイは大きなため息をついた。

『断罪の剣』がジェルミナイトに傷をつけたのはアオイも知っている。竜機界隈でも有名な話だ。


 しかし、この話には裏がある。実はジェルミナイトはその攻撃を受けてもなお大破しなかったのだ。

『断罪の剣』の衝撃でライザが気絶したためシロハの勝利となったが、もしもライザが気絶しなければ負けていたのはシロハだったという説が濃厚である。


 つまり、ジェルミナイトを壊すには不可能。勝ちを狙うなら操縦者の意識を刈り取る衝撃をジェルミナイトに与える必要がある。


「それこそ無茶ってもんだろう。俺にそんな芸当ができるわけない」

「確かにそうですね」

「あーもう、マジでどうしたらいいんだ……。エル、何か良い作戦はないのか?」

「僕ですか……」


 アオイの言葉を聞いて、エルは顎に手を当て考え込む。

 しばらく沈黙した後、彼はこう答えた。


「無理ですね。希望的観測で言うと、アオイ先輩が『断罪の剣』に匹敵する必殺技を編み出すしかないかと。まぁ、そんなことができるならアオイ先輩はここまで苦労しているわけがないんですがね」

「は……はい」


 あまりの正論さに反論できず、アオイはただ返事をするしかなかった。

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