第49話 傍若無人と不幸体質
「「…………」」
竜機格納庫の中、スカイドラゲリオンの前に来たアオイとシロハは目の前の光景に絶句する。
そこにあるのは磁竜砲が大小様々なコードに繋がれて、まるで一つの機械のように組み合わさった姿だった。
「えーと、これはどういう状況?」
「私が聞きたいぐらいだ」
困惑したアオイの問いに、シロハが答える。
犯人はわかっている。このやり取りは様式美のようなものだった。
アオイは大きくため息をつき、犯人を召喚する。
「カイ兄さん!また勝手にいじくりまわして!!」
「うるせぇなぁ……。昨日から徹夜しててクッソ眠いんだよ」
スカイドラゲリオンの中からスパナを持ったカイがあくびをしながら出てくる。
彼の目の下のクマを見る限り本当に寝ていないようだ。
「何なのこれ! 道の邪魔になってない!?」
「おお、よくぞ聞いてくれた弟よ! これは『磁戒竜(ドラグマ)』が纏う磁力を再現するために必要でな。大量の電気を消費するがそれなりに再現性がある……」
「だからってこんなに大量の電線使っちゃダメだってば! 危ないし!」
アオイが目を吊り上げるが、カイはまるで相手にせず、額のゴーグルを目につけた。
「兄さん。まだ話は終わっていないぞ」
「いいから黙れ。今大事なところだ。最終実験に向けての調整をやっている」
「最終実験なんて後でやってよ!まずは配線の整理から……」
「後でできねぇから今やってんだよ。そこまで時間も無いし」
なにやらブツブツ言いながらカイが作業を続ける。なんとまぁ傍若無人な兄だろうか。
しかし、アオイはめげることなく説得を試みる。
「じゃあせめて道いっぱいに配線を広げるのだけはやめてよ。スカイドラゲリオンのお隣さんはアイーダ様のパルマークスなんだよ?ブちぎれられたらどうするの?」
「大丈夫だ、許可はとってある。『パルマークスのメンテと引き換えなら好きにしていいですよ〜』って」
「やだ、兄が無敵すぎる」
カイが自分の知らない間に人脈を広げていることにアオイは口を押える。芸は身を助けるとはまさにこのことだ。
すると、シロハが首を傾げた。
「おい、修理屋。さっき言ってた『最終実験』ってなんだ?まさかもうすぐ何かが起こるのか?」
「ん、ああ、そうだ。そういやアオイにも言ってないといけなかったな」
「え、俺に?」
カイは仕事を中断して立ち上がると、平然とゴーグルを外して言った。
「アオイ、今から一週間後にライザ様と戦え。それが『最終実験』の内容だ」
「……は?」
突然告げられた内容にアオイはポカンとする。
そして、一拍遅れて頭が事態を理解し始め、戸惑いの声を上げた。
「ちょっと待ってて兄さん。なんで急にそんなことになるの?」
「実は磁竜砲の材料費だが、それをライザ様に肩代わりしてもらっているんだ。竜機の開発だってタダじゃねぇ」
「「ええっ!??」」
驚きのあまりアオイだけではなく、シロハまでも声を上げる。
「待て、それはどれくらいの額だ!? 返済しないといけないなら我が家が連帯しないと……」
「いや、シロハ様に迷惑をかける気は無いんで安心してください」
「俺に迷惑は……?」
「めっちゃかける」
「おいいいいい!!」
アオイは思わずツッコミを入れる。
すると、カイはケラケラ笑いながら説明を始めた。
曰く、そもそも竜機開発にかかる費用はかなり高額であり、とても庶民が払えるような金額ではないらしい。そこで、カイはライザから提案を持ちかけられた。
その提案とは『資金援助をする代わりに新生スカイドラゲリオンの初試合をオレと組ませてくれ』というものだ。
最初は戸惑ったカイだったが、カイは磁竜砲の最大火力を知りたいと思っていたところである。そして、ライザの竜機であるジェルミナイトは竜機の中で最も頑丈な装甲を持つ。磁竜砲の試射には持って来いだ。
カイは開発を進めることができ、ライザは最近話題のアオイと戦うことができる。こうしたウィンウィンの関係により、アオイの知らないところで試合が組まれたのだ。
一通りの説明を終えたカイはスッキリした表情で後頭部をかく。
「いやー、ライザ様の提案が無かったら磁竜砲は完成しなかった。感謝しかない」
「なんでそんなにのん気でいられるのっ!? ライザ様って十二機神姫だよ!? また俺に死ぬような思いをしろっていうの!?」
「別に負けても失うものが無いんだからいいだろ。それに戦ってもらわなくちゃ俺が困る」
「理不尽!!」
言葉を聞いたアオイは頭を抱える。
カイは相変わらずのマイペースぶりを発揮していた。
「おい、修理屋。私はこの話を聞いていないぞ」
「そりゃそうです。今初めて言いましたから」
「どうして私に言わなかった! アオイと戦う権利が発生するなら私はいくらでもお金を出したぞ! 頼るならまず私だろう!」
「シロハ!?」
「くそ、なんて天才的発想をしてくれたんだライザ……」と悔しがるシロハ。やっぱり十二機神姫は全員狂っているんだなとアオイは思う。
この業界は奇人か変人か狂人しかいないのだ。
「兄さん、本当に戦わないといけないの?」
「大丈夫だ、いつも通りやればいい。お前の実力を見せつけてやれ」
「えぇ……」
いつの間にか窮地に立たされたアオイは目に涙を浮かべのであった。
(やっぱりこうなるんですかぁ……?)
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