第48話 自身の長所
「なぁシロハ」
「ん? なんだアオイ」
「俺の長所って何だと思う?」
ここは学園の食堂。
いつものようにアオイはシロハと一緒に昼食を食べていた。
そして今、彼は唐突にそんな疑問を投げかけたところだ。
その質問に対して、シロハはパンを口に運んでから答える。
「ん~そうだな……。アオイは優しいところが長所だと私は思うぞ」
「いや、そう言うことじゃ無くて……竜機試合で俺と戦ってた時、何が一番怖かったとかあるだろ」
アオイが求めているのはそういう意見だ。
しかし、シロハはうーんと頭をひねる。
「改めて聞かれると難しいな。アオイの操縦技術は本当に凄かったから一概にどれとは言えないが……強いて言えば動きだ」
「動き……?」
アオイは不思議そうに聞き返す。
そんな彼に、シロハはうんと大きく相槌を打った。
「アオイは私と違って戦いの中で成長するタイプだろう? だから動き一つ一つがどんどん鋭くなっていく。フィリスの時やアイーダの時だってそうだ。相手の行動を把握し、それにあった対応策を瞬時に考える。極限状態において、アオイの頭の回転は常人よりも遥かに速いんだと思うぞ」
「そう、なのかなぁ?」
そう言われるも、いまいちピンときていないようだ。
アオイにとって戦いとは命の危険に晒されるもの。生き残るために必死に頭を回転させるのは当然のことなのだ。
しかし、そんな彼を見てシロハはレタスを口に入れながら言う。
「竜機手にはそれぞれの黄金パターンというものがある。いわば定石だな。ベテラン竜機手同士の戦いとなれば相手をいかに自分の黄金パターンに誘い込むかが勝負の鍵となってくる」
「なるほど。シロハの場合は相手の竜機の脚部に損傷を入れて、動けなくなったところを一撃必殺の『裁きの剣』を叩きこむ、みたいな?」
「うむ、そうだ。いちいち相手に合わせて作戦を変えるよりも、こちらの強みを最大限活かせる戦術を相手に押し付ける方がはるかに簡単。試合の中で余計なことを考えずに行動できるからな」
シロハの言葉にアオイが納得したように小さく何度も首を振る。
「アオイもそろそろ黄金パターンというものを考える時なのではないか? いちいち相手の行動を把握して戦略をたてるのも限界があるぞ。覚形を発現させた今なら尚更だ」
「ん〜そうなんだけど……」
やっぱり思いつかないものは思いつかない。
そもそもアオイは今まで戦ってきた相手が強者ばかりだ。どの試合でも弱者であったアオイにとって、自分の黄金パターンを相手に押し付けるというのがイマイチ想像できないのだ。
「別に強制はしないがな。相手に合わせて戦略を変えるというのも厄介極まりない。だが柔軟に対応するよりも、剛胆に我を貫き通した方がいい結果を生むことがあるぞ」
「そうか……ありがとう」
「礼を言われるほどの事でもない」
アオイは考え込み、食事の手を止める。
確かに、いつもギリギリの戦いをしていたのでは心臓に悪い。シロハの言う通り、自分にあった戦法を確立したほうが楽だ。
「……………」
「どうしたのシロハ?」
「いや、アオイと竜機について話してふと思い出したことがあってな。お前の兄についてだ」
「ん? 兄さんがどうしたの?」
アオイが首をかしげると、シロハが肩をすくめ、小声で言った。
「貴族の間でもお前の兄は少々話題になっていてな。竜機のメンテナンスを頼もうとする女の竜機手が後を絶たないらしい」
「なんで女だけ……ああ、顔か」
理由が容易に想像できたことに、アオイは苦笑いする。
カイは整った顔をしており、女性に好かれやすい容姿をしている。わざわざ庶民にメンテナンスを頼む物好きが現れるのは必然とも言えた。
「今はなぜかフィリスが睨みをきかせて追い払っているが、それも時間の問題だ。いつ女たちが押し寄せてくるかわかったものではない」
シロハの表情はどこか深刻そうである。
この学園には王族、貴族などの上流階級の人間しかいない。
そんな場所で兄の人気ぶりを見せられれば、弟として複雑な気持ちになるのは無理もない。
アオイが沈んだ様子で言う。
「兄さんのメカオタクっぷりはどうにかならないかな……」
「仕方がないさ。それだけカイの腕が良いということの裏返しでもある」
「それはわかってるけどさ……」
「……そこで、だ」
シロハの表情が変わった。彼女は意味深げにほほ笑む。
「アオイ、お前から頼んホワイトフォーゲルのメンテを頼んでみてはくれないだろうか?」
「……それが本題ですかぁ」
「わ、私は他の女どもとは違って下心などまったく無いぞ。純粋に竜機手として興味があるだけだ」
シロハが慌てて釈明するも、アオイはジトっとした目を向ける。
彼女が本気で言っているのはわかるが、それでも疑わずにはいられない。
アオイはため息をつくと、諦めるように言う。
「わかったよ……。頼んでみるよ。兄さんもホワイトフォーゲルの構造なら喜んで見たいって言うだろうし」
「感謝する!」
その言葉を聞いてシロハはホッとしたように胸を撫で下ろした。
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