第47話 アオイの憂慮
「ふふっ、アオイさんも男の子ですね。そういうところも私は好きですよ」
「俺は悪くないんですけどね……」
バイト先のレストランにて。千切りキャベツを量産し続けるアイーダにアオイはうなだれる。ちなみに、訓練所の一件はアオイがアイーダに頼み込んでうやむやにしてもらったため、今は元通りになっている。
しかし、これでアオイはアイーダに大きな借りを作ってしまった。アオイの今後が心配である。
「そういえば、アオイさん。ライザさんから聞きましたよ、新しい武器を手に入れたようですね。それも強力なものを」
「あ、うん。……あれ? どうしてライザ様と会ったことを?」
「ライザさんが嬉々として言いふらしておりましたもの。『あんな破壊力のある武器は見たことが無い』とね」
その時のことを思い出しながら、アイーダは楽しげに微笑んだ。
「ぜひとも私も拝見したいものです。アオイさんの新たな力を」
「そんなこと言っても俺は絶対にアイーダとは戦わないぞ。
アオイはきっぱりと言い放つ。
あの時、彼が感じた恐怖は計り知れないものだった。
それ故に、アオイは絶対にアイーダと戦うつもりはない。
「そうですか……それは残念です」
本当に残念そうに肩を落とすアイーダ。
アオイは罪悪感を覚えるが、やはり彼女との戦いは避けたいと思う。
それに、現在スカイドラゲリオンはカイが改造している最中である。完成するまでは戦うことはできない。
「そう言えばアオイさん。一つ気になることがあるので訊いてもよろしいでしょうか?」
不意にアイーダが手を止めて、アオイに話しかける。
「ん、なんだ?」
「あなたのお兄様、カイさんですが、どこかの研究機関に所属していたりするんですか? 竜機を作る技術力は一朝一夕で身につくものではありません、きっと何かしらの組織に属しているはずでしょう?」
アイーダはカイの竜機を作った腕前から、カイが何らかの組織に所属しているのではないかと推測する。
たった一人で竜機を完成させ、ましてや改造するなんて常人のやることではない。きっとなんらかの理由があるはずだ。
しかし、アオイは平然と答えた。
「いや、全然。兄さんはただの修理屋ですよ。まぁ、本業は修理屋のくせに無駄に開発なんてしてるけど」
アオイの言葉を聞き、アイーダは思わず苦笑した。
「すごいですわね。私は竜機をたしなんでいる身として王宮の直属技師とは何度か交流したことがありますが、カイさんほどの技術者は知りませんわ。あなたのお兄様は一体何者なのでしょうね?」
「さぁ……。昔から天才だとは思ってるんだが、兄さんのことはよく分からない」
「そうですか……じゃあ、私の家の技師として召し抱えれば……ふふふっ」
「アイーダ?」
「んんッ、いいえ、何もありませんわ」
急に不気味な笑い声を上げたアイーダを不審に思い、アオイは首を傾げる。
すると、アイーダは慌てたように手を振った。
だが、その目は全く笑ってはいなかった。
そして、彼女は唐突に話題を変える。
「アオイさん、休憩の時間はもうすぐ終わりではありませんこと?」
「ああっ、いっけね。もうこんな時間なのか」
時計を見てアオイは慌てて仕事に戻った。
*****
時刻は既に深夜0時過ぎ。
アルヴェルトはもうすでに静まり返っており、きらめく星が夜道を照らしている。
しかし、アオイは寝付けずにいた。
理由は単純明快。スカイドラゲリオンの新しい武器、磁竜砲についてだ。
当たれば一撃必殺の超ロマン砲、それはすなわち、外せば超大惨事であるということの裏返し。
その威力を目の当たりにして、アオイは悩んでいた。
自分の家族が作ってくれたものだから、絶対に外したくない。
でも外したら目もあてられないことになるだとろう。
ならばどうすれば良いのか? 答えは出ない。
そんなことを考えているうちに、いつの間にかアオイは自身の竜機の前に立っていた。
「散歩がてらにここまで来ちゃったけど、特に来た意味は無いんだよねぇ」
アオイはスカイドラゲリオンの前に座り込み、また思案にふける。
今頃、兄は竜機関連の開発につかれてコックピットルームで寝落ちしているのだろう。と苦笑いを浮かべながら。
『浮かない顔をしておるな、貴様』
「っ!?」
景色が一瞬で変わり、気づけばアオイの目の前には青銀色の髪を持った女が鎮座していた。
スカイドラゲリオンの真名と同じ名前を持つ女性、ドラグマである。
白い空間に引きずり込まれた事実にアオイは混乱する。
「何を驚いている? ここは我の領域だ、我がここにいることなど当たり前ではないか」
ドラグマは呆れた表情でため息をつく。
一方、アオイは納得がいかないという顔だ。
「そりゃそうだけど……いきなり現れるとびっくりするじゃん」
そう言ってアオイは拗ねるように口を尖らせる。
そんな彼を見たドラグマは、再び深い溜息をついた。
「全く、相変わらず覇気がない奴め。それで、一体何を考えていたのだ?」
「うーん……そうだなぁ……。武器のこと、かな」
「ふむ……そうか」
アオイの言葉に何か思うところがあったのか、ドラグマは顎に手を当て考え込むような仕草をする。
「たしか、貴様らは磁竜砲と呼んでいたな。アレはいい武器だ。天を裂き、地を穿つ。我にふさわしい威厳と破壊力を持つ最強の矛となるであろう」
「そりゃあそうなんだけどさ、撃ったら危ないって言うかさ……」
アオイは言い淀み、言葉を詰まらせた。
言いたいことは分かる。しかし言葉にできない。
そんな彼の様子を見て、ドラグマは察したかのように口を開いた。
「引き金を引かなければ死ぬのは貴様だぞ」
「……分かってるよ、それくらい。でも、やっぱり不安なんだ。あれは兄さんが俺のために作ってくれたものだしさ。どうしても使いこなしたくて」
「確かに、アレは我の力を最大限に引き出す武器だ。制御にはそれ相応の覚悟と技術が必要だろう」
「そうなんだけどさ。だけどあんな高威力の武器、使ったことがないから怖くって。もし誰かを巻き込みでもしたらと思うと……」
遠距離という不慣れな戦闘スタイルに加え、磁竜砲が持つ膨大なエネルギーを完璧にコントロールするのは至難の業だ。
そんな中、敵だけを撃ち抜く自信がアオイにはない。
すると、ドラグマは頬杖をついて言った。
「それなら別に撃ち抜かなくてもよいのではないか?」
「へ?」
「自分が得意なところに落とし込めばよい。そうすれば仲間を傷つけることもなかろう」
アオイは目を丸くして驚く。
言っているがわからない。
「それはどういう……」
「知らんわ。それは貴様が考えること、我の頭に頼るでない。……しかし、一つ言えることがあるとすれば、貴様にまだまだ未熟ということだ。目の前の常識にとらわれず、本質を見失うな」
ドラグマはアオイを指差す。
その表情は少し怒っているようだった。
「まだまだ荒削りとはいえ、貴様は我の認めた男だ。この程度のことで悩むなど情けないにも程があるぞ」
「いや、悩んでるっていうより俺はただ心配してるだけで……」
「黙れ、貴様も覇者を名乗るのなら我の真意を悟ってみよ。さすれば我が覇道の一端を理解できるだろう」
ドラグマがそう言って指を鳴らすと、景色が一変して格納庫に戻っていた。
アオイは戸惑った様子で辺りを見回す。目の前にドラグマの姿はなかった。
まるで夢でも見ていたかのような感覚だ。
だが、アオイの身体の疲労感が先程の出来事は全て現実であることを証明している。
「何なんだよ、自分の得意なことに落とし込めって……」
アオイは首を傾げながらもドラグマの言葉を反芻し、寮へと歩き出した。
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