第46話 磁竜砲

 それから毎日、授業を終えた二人は訓練場へとやってきた。


 フィリスの指導はスパルタだった。


「ほら、もっと素早く動いて」

「はい……!」


 竜機を操縦するアオイは必死に竜機を駆る。

 スカイドラゲリオンは他の竜機とは違い専用のスーツを装着することで竜機の操作が可能となる。

 しかし、それは繊細な操作を可能とすると同時に、操縦者のミスが竜機に現れやすいことを意味していた。


 そのため、アオイの操作技術が未熟だと竜機は簡単に言うことをきかなくなる。

 極限まで集中したアオイをもってしても、スカイドラゲリオンの動きはぎこちないものだった。


「違う、動きを止めるんじゃなくて流れに乗るの。動きを止めたら相手の思うつぼよ」

「は、はいっ!」


 考えるな、感じろ。全ては無意識の下で。

 ある意味、この練習はかつてカイに課せられた修行と通じるものがあった。


 磁力砲の反動を利用して後方に移動。さらに背部に磁力界を発生させて反動を受け止め、力を反発させて次の攻撃に活かす。


 アオイはその技を習得するために、反動を利用するという発想から逆算し、自らに反動を受ける力を加えていた。

 しかし、それでは動きに無駄が出てしまう。あくまで離脱の応用に過ぎない。


 反発の際の硬直に合わせ、緋色の弾丸がスカイドラゲリオンの肩を打ち抜く。


「ダメね、発想はいいんだけどその後隙を狩られるわよ。もっと意識して動きなさい」

「は、はい……」


 アオイは苦悶の声を上げる。

 彼のスカイドラゲリオンは既にボロボロだ。装甲が剥がれ内部のフレームが見えている箇所もある。


 それでも、彼は立ち上がる。フィリスはそんな彼を冷たく見つめる。


 彼女は別に彼を嫌っているわけではない。ただ、彼女は自分の指導に妥協を許さないのだ。

 それもアオイは痛いほど理解している。彼女はアオイに厳しいのと同じくらい自分に厳しいのだから。

 だからこそ、彼女の期待に応えたいと強く願う。


 アオイはまた立ち上がり、磁力砲の構えをとる────と


「おーい、アオイー!」


 訓練場の観客席から一人の男が手を振る。


「あ、兄さん」

「うっわー、スカイドラゲリオンがボロボロじゃねぇか。修理しないといけないのは俺なんだぞ……?」


 そう言ってカイが顔を引きつらせる。


「あ、あの、すいません……」

「まあ良いけどさ……。あっ、フィリス様。弟がご無沙汰してます」

「っ……か、カイさんもお元気で何よりです」

「あ、ありがとうございます。それにしても……(クランベルジュは)相変わらずお美しいですね」

「いえ、そんなことは……」


 クランベルジュの中で照れるフィリス。その頬はほんのりと赤く染まっている。

 その様子はまるで乙女のようだ。


 そんな兄の言葉にアオイはジト目をする。


「兄さん、何で来たの……」

「実の兄に向ってその言い草はなんだよ。遅めの反抗期か? ……まぁいい。今日はお前に特大プレゼントを持ってきたんだ」

「特大プレゼント?」

「ライザさーん、持ってきちゃってー!」


 カイがそう叫ぶと、どこからともなく黒い竜機が現れた。


「よっ、アオイ。オレに黙って面白そうなことをやってるじゃねぇか。オレも混ぜてくれよ」

「げっ、ライザ!? どうしてアンタが出てくるのよ!」


 コンテナを引きずるジェルミナイトにアオイは驚き、フィリスは顔をしかめる。

 どうしてここでライザが登場するのか二人には分からなかった。


「兄さん、どういうこと?」

「ついに完成したんだよ、お前の磁力を利用した武器が。ライザ様にも手伝ってもらってな」

「えっ、マジ?」

「おうよ。アオイ、今からそれを試すぞ」


 そう言うとジェルミナイトはコンテナを開け、中に入っていたものを取り出す。

 それはアオイの持つ試作型の磁力砲を大型化させたような外見をしていた。

 二つに分かたれた穂先ともいうべきバレルは、それぞれ左右にスライドする機構を持つ。間にはコイルのようなパーツが取り付けられており、そこから青白い電流のようなものがバチバチッと音を立てて流れていた。


「これが……スカイドラゲリオンの新しい武器?」

「そうだ。名付けて磁竜砲。正式名称は電磁加速式リニアレールキャノンだ」


 アオイはまじまじとその新兵器を見つめる中、カイが得意気に語りだす。


「こいつは竜機の中でも遠距離系に特化したスカイドラゲリオン専用の装備。従来の銃とは比にならない速度で撃ちだされる弾丸は、竜機の装甲を貫き、敵を一撃で破砕する威力がある。 まだまだ話していない機能もあるが……これさえあればどんな強敵にも勝てるはずだぜ」

「へぇ~、凄いな」


 カイの説明を聞きながらアオイは感心したように呟く。

 だが、そんなカイの熱弁を冷めた目つきで見つめる少女がいた。


 フィリスである。


「ライザ、これの開発にあなたが関わってるわけ?」

「まぁ資材調達は私がやったな。主に助手のようなことをやってた」

「そう……まあいいわ。それで、これはいつから使えるの?」


 フィリスがそう尋ねると、カイは少しだけ残念そうな表情を浮かべる。


「今すぐ使える……が、威力が高すぎてまだテストできてないんですよね」

「……なら、丁度いいわ。アオイ、早速この場で試し打ちしてみなさい」

「はい! 分かりました!」


 アオイは元気よく返事をする。

 彼は意気揚々とスカイドラゲリオンに乗り込み起動させる。

 そして、目の前に出現したターゲットマークに照準を合わせる。


「『磁戒竜』」


 さらに覚形を発現させて弾道を固定させて引き金を引く。


 すると、巨大な砲身から弾丸が発射され、音速を超える速さで飛んでいく。

 着弾と同時に激しい閃光と共に爆発が起こり、爆風が辺りに広がる。


 アオイは衝撃で吹き飛ばされそうになるのを堪え、スカイドラゲリオンを着地させ、砂煙が舞う訓練場を見る。


「……兄さん、コレやばくないか?」

「ああ、超ヤバいぞ」


 アオイが冷や汗をたらしながら言う。

 視界の先では、的どころか訓練場の壁を貫通し、訓練場の外まで大穴が開いてしまっていた。

 壁の向こう側は外になっており、その先には更地が広がっている。

 その光景を見てアオイは唖然としていた。


「兄さん、フィリス様、どうしよう……」

「お、俺は知らないなぁ……」

「わ、私も知らないわよ。ライザのせいでしょ!」

「何でオレ!? いや、火力を突き詰めようって言ったのはオレだけどさ! というか、撃てと言ったのはフィリスだ!お前が責任を取れ!」

「どうして!?」


 この後、アルヴェルト中が大パニックになったのは言うまでもない。

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