第45話 修行パート 再び
それぞれの竜機に乗り込んだ二人は向かい合う。
「まず初めに、射撃系の竜機が一番注意するのは相手との距離よ。特に私みたいに射程の長いタイプはその距離が命取りになりやすいの。適切な間合いを維持しないと一方的にやられるわ」
「なるほど……」
アオイはフィリスの話を聞きながら構える。緊張しているのだ。
慣れないことをしているため、手汗が止まらない。
「じゃあ覚形を発現させなさい。磁力を発生させないと始まらないの」
「分かりました」
フィリスの指示に従い、アオイは覚形を発動させた。
スカイドラゲリオンに青い模様が浮かび上がり、砂鉄が浮かび上がる。
「一応、その力を使えば小銃の仕組みをある程度模倣できるんでしょう? 武器が完成していない今、その力で再現可能なものは再現するべきよ。そうすれば戦闘中に使えるようになるかもしれないし」
フィリスがアドバイスを送ると、アオイは言われた通りに真似を始めた。
目の前に二つの磁力界を発生させ、練習用の的に狙いを定める。弾丸は砂鉄の塊で代用した。
「これでいいですか?」
「上出来ね。それじゃあ撃ってみましょう」
フィリスは満足げに微笑む。
────バァン!
「ぐっ……!」
猛烈な衝撃に機体が悲鳴を上げる。
スカイドラゲリオンは水平方向に吹き飛ばされ、そのまま転がり止まった。
一度撃っただけで腕の関節部が外れかかっており、アオイはすぐに覚形の発動を解除する。
フィリスはその様子を見て苦笑する。
「とんでもない威力ね、的が一瞬で粉々になったわ。もしかしたら最高威力の記録も塗り替えられるかも」
「でも……撃つたびに傷つくなら……意味がありません」
「そうね、だから練習するのよ。
そう言って、フィリスは的の前に立つ。
「あなたの癖は反動を受け止めようとするところ。クランベルジュのような二丁拳銃ならいざ知らず、あなたの撃つ攻撃はもはや大砲。生身の人間が大砲の反動をそのまま受け止められるわけがないでしょう?」
フィリスはそう言うと、拳銃をを引き抜き、引き金を引く。
────バァン!!
轟音と共に弾丸が射出される。
弾丸は音速を超えて飛翔し、標的にした岩に直撃した。
弾丸は砕け散り、周囲に破片をまき散らす。衝撃で地面が揺れた。
しかし、それだけではなかった。
「ま、こんなところね」
フィリスが駆るクランベルジュは一歩たりとも動いていない。平然と立っている。
「わかった? 私とあなたとの違い」
「はぁ……?」
「要するに、あなたは銃の反動を受け止めるのに必死で、そのせいで次の動作が遅れているの。だから無駄な動きが多いし隙だらけに見える」
フィリスの指摘に、アオイはぐうの音も出なかった。
確かに彼女の言う通りだ。
先ほどの銃撃の際、アオイは反動に耐えようと身体に力を入れていた。
その結果、身体が硬直し吹き飛ばされていたのだ。
一方、フィリスは反動に身をゆだねていた。身体の力を抜くことで、銃の反動を逃がすことに成功していたのだ。
故に、彼女は不動だった。
「銃の反動を逃がすにはまず、全身の力を抜ききること。そして、それを竜機に伝達すること。分かった?」
「は、はいっ」
フィリスの指導の元、アオイは竜機を動かす。
まずは両手を軽く開き、指を折り曲げる。次に足の裏から地面に接地する感覚を感じ取る。
そのまま膝を曲げて腰を落とし、重心を下げる。
すると、自然と重心の位置が低くなる。同時に両脚に力が籠る。
そのまま重心を下げたまま、上半身を起こすと同時に一気に立ち上がる。
すると、竜機はまるで生きているかのように滑らかな動きを見せた。
そしてそのまま────撃つ。
────バァン!
銃弾が発射され、的の中心に命中する。
「へぇ、やるじゃない」
フィリスが感心しながら言った。
スカイドラゲリオンは不動とはいかないまでも、しっかりと両足で着地して見せた。
それを見て、フィリスは嬉しそうに笑う。
「アホにしては上出来だわ。やっぱり私に一時的に勝ちを納めたのことなだけはあるわね」
「はは、ありがとうございます……」
アオイは笑ってじんじんと痛む手を振って痛みを紛らわす。
しかし、コツはつかめた気がした。受け止めるのではなく逃がす、それは近距離戦闘型の竜機でも重要なことだ。
そしてアオイは数々の死闘の中でその術を身に着けていた。
「でも、まだまだね」
「えっ!?」
突然のダメ出しにアオイは驚愕する。
フィリスはそんな彼を無視して言葉を続ける。
「あれはあくまで基本よ。実戦では相手も同じように動くんだから、せめて動きながら撃てるようになるまで上達しないと意味が無いでしょう」
「そりゃあそうですけど……」
「遠距離系の竜機を扱うのはそれだけ難しいの。純粋な操作力で言ったら、私は他の十二機神姫の中でもトップの自信があるわ」
フィリスが言い切る。そして、そう言える説得力と実力が彼女にはあった。
実際、操作が難しい遠距離系の竜機で十二機神姫まで上り詰めたのは彼女だけなのだ。
「だから、十二機神姫に匹敵する動作精密性があるあなたができないということはおかしい。わかる?」
「はぁ……」
「……あなた、もしかして『できるかなぁ……』とか思っていたりしないわよね?」
「……いや、まぁ……少しくらいは」
フィリスの問いに、アオイは申し訳なさそうに答える。
するとフィリスはため息をついた。
「はぁ、まったく呆れたものだわ。まあいいわ、なら私が直々に手ほどきをしてあげる。放課後毎日ここに走って来なさい。あなたのお兄さんも連れてきて」
「え……それは……ちょっと……」
「あ?」
バァン!
瞬間、スカイドラゲリオンの頬を赤熱した弾丸がかすめた。
アオイはビクッと震える。
「アホ、返事は?」
「は、はい!」
「最初っからそう言えばいいのよ」
有無を言わさぬ迫力に、アオイは反射的に答えた。
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