第43話 方針転換
「まったく! もし貴族街に来るのなら私に話を通しておけとあれほど言っただろ! おかげでこちらはてんやわんやだったのだぞ!」
「だって兄さんが……」
「言い訳無用だ!」
シロハが頬を膨らませながらアオイを睨む。
それに対してアオイはバツが悪そうに俯いた。どうして自分が怒られないといけないのか、甚だ不思議な話である。
ちなみにカイはここにはいない。竜機格納庫で研究に没頭しており、シロハが怒っていることさえも知らない。ある意味一番おいしい立場にいる。
「フィリスからのタレコミがなかったらと思うと恐ろしい。もう二度とこういう真似はしないでくれ。我が家の存亡に関わる」
「はいぃ……」
「……で、お前の兄は今どこにいる」
「竜機格納庫。結構ヤバめな武器を作ってる」
「武器? ……もしかして竜機のか!?」
「あ、ああ……ちょっまっ! そんな鼻息を荒くするな! 近い近い近い!」
「さっさと教えろ! 何を作ってるんだ!?」
シロハはアオイの肩を掴み、激しく揺すり始める。
感情が急転直下だ。思考が追い付けない。
興奮したシロハは思いをはせながら言う。
「ああ、私もホワイトフォーゲルの武器を作ってもらいたい。もう少し火力を追い求めたくてな。アオイが覚形を発現させたのだ、私も負けていられない」
「『
全力の『断罪の剣』をもろに受けたアオイとしてはたまったものではない。シロハの発言に身震いが止まらなかった。
「まぁ、そんなことはさておき、お前の兄は何を作っているんだ?」
アオイは渋々カイが作ったものを説明する。
すると、説明を聞き終えたシロハは納得したように何度か首を縦に振った。
「なるほど、拘束具と必殺技用の武器か」
「一応人間用に小さくした小型試作品を貰っているんだけどね。イマイチ使い方がよく分からなくて……」
「ふむ、小銃のようだが……ちょっと貸してみろ」
「あっ」
アオイが止める間もなく、シロハはカイが作った磁力装置を手に取る。
銃にしては余計なパーツが多く、ずっしりと重い。もはや別の装置と言われても過言ではなかった。
「ほう、不思議な形をしているな。初めて見るぞ」
「その引き金を引いて弾を射出するらしい」
「じゃあやってみようか」
「えっ?」
シロハは興味深そうに呟くと、カイの作った小銃を両手で構えた。
照準を前方の岩に合わせ、躊躇なくトリガーを引く。
────すると、シロハが射出した弾とは反対の方向に吹き飛んだ。
訳が分からないアオイを尻目に、シロハの体が宙に浮かぶ。
「ぐへぇ」
情けない声を出しながら、地面に倒れ込むシロハ。
彼女は涙目になりながらアオイを見た。
「想像……以上だ……。反動が……」
「そう、だな……。予想以上の……パワーだ……」
粉々に砕けた岩に二人は絶句し、声も出ない。
カイはもしかしたら破壊神になろうとしているのかもしれない、そう思えるほどの威力だった。
アオイはシロハに手を差し伸べる。
「大丈夫か? 立てる?」
「すまない、少し休めば歩けるようになると思う」
シロハは申し訳なさそうな顔をしながら、アオイの手を取る。
そして、ゆっくりと立ち上がった。
「それにしても凄い銃だな。これが磁力の力なのか?」
「そうみたい。兄さんいわく、二つの磁力界の間に反発する力を発生させることで弾丸を加速させているとか。理論上は音よりも速いって」
「よくわからんが、あの修理屋は天才なのだな。これが竜機のサイズになる、しかも覚形で自由自在に使えるとなると対策が難しくなるぞ。なにせ不可避の弾丸だからな」
シロハはカイの発明品を見て感心する。
アオイも彼女の言葉に同意するように何度も首肯した。
これは強力な武器になる。そんな確信をもって。
「ところでアオイ、もしこれを使うとなると、アオイの主力武器は遠距離武器となるな」
「え?」
唐突にシロハが話を切り出す。
「いや、いままでアオイは剣を主体に戦ってきただろう? だがこの発明品を使うとなると剣での立ち回りはできなくなるはずだ。そうなると、戦い方自体を根本的に変える必要がある。違うか?」
「確かに……」
近距離武器で戦ってきたアオイにとって、それは盲点だった。
しかし、シロハの言う通り、これからは銃がメインの戦い方になるだろう。
それは今まで培ってきた経験と技術が通用しないことを意味していた。
「あいにく、私のホワイトフォーゲルは遠距離武器に対応していない。故に明確な助言はできそうにないな」
「うーん、そうだなぁ……」
アオイは顎に手をやり考える。
自分の知り合いに、遠距離武器を専門に扱う竜機手なんて一人しかいない。
「アドバイスを聞くならフィリス様か……」
「それが妥当だろう。フィリスなら何かしらのノウハウを知っているかもしれない。やみくもに戦法を研究するよりも誰かに教えてもらった方が効率的だ」
「出し渋りそうだけど……ダメもとで行くか」
アオイはフィリスの反応を予想しながら、重い腰を上げた。
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