第42話 兄ちゃん、戦いは発想だよ!
「……どゆこと?」
アオイは困惑した表情で兄を見る。
「おお、アオイ。おはようさん」
「兄さん……それはなんなんですか……」
「オレが思いつく限りはトラバサミ……だな」
続いてライザが顔を引きつらせる。
カイがスカイドラゲリオンの前で作っていたのは、巨大なトラバサミであった。
しかもただのトラバサミではなく、挟む部分がドリルになっている。
アオイは恐る恐るその兵器を指差す。
「あの、それってどういう意図で作ったんですか?」
「いや、これ作ったの昨日なんだけどよ。竜機試合で使えるかなって思ってさ」
「どういうことです?」
「説明しよう!」
首を傾げるアオイに、カイが待ってましたと言わんばかりにゴーグルを外す。
そして彼は二人の視線を独り占めしながら語り始めた。
「まずこの武器についてだが、これは敵の動きを封じるためのものだ。普通のトラバサミの役割もあるが、『
「えっ?」
「『
カイがわざとらしく涙を流すふりをする。
しかし、すぐに「だが────」と言葉を付け加えた。
「そこで俺は考えた。『影響を受けないのなら、影響を受ける物をくっつければいい』とな」
「……」
「例えば鉄の塊をくっつけるとかだ。それで相手の動きを封じて、そこを狙って攻撃する。あるいは敵の竜機を丸ごと引き寄せることも……」
「いや、そんなに上手くいくわけがないだろ!? 竜機の質量を考えろよ!」
とうとう我慢できなくなったライザが声を上げた。
しかしカイは全く動じず、むしろ得意げな笑みを浮かべている。
「それがうまくいく術をこれから教えるんだよ、お嬢ちゃん。……で、話を戻すが、アオイ。磁力が引き寄せと反発の力であることは十分知ってるだろ?」
「ええ、まあ一応」
アオイはそう言いながら自分の乗機であるスカイドラゲリオンに目を向ける。
「でも、竜機にこの鉄の塊をくっつけるのは無理があるよね。相手だって警戒するし」
「その通り! だからもっと強い力で、かつ効率的に相手を拘束する必要があるんだ」
そう言うと、カイは両端に二つの球のついたワイヤーを取り出した。
「これなーんだ?」
「知らないよ」
「そりゃそうだ。俺の発明品なんだし。まぁ見てな、そんまま動かず立ってろよ。下手したら球が当たって骨折するから」
「え?」
カイがアオイに向かって謎の道具をぐるぐると回す。
そして遠心力が十分にのったところで────投げた。
ぴんと張られたワイヤーがアオイに当たり、両端の球が慣性の法則により独自の軌道を描いていく。
アオイは突然の出来事に反応できず、その場に立ち尽くしたままワイヤーに体を縛られてしまった。
「うわぁ!?」
「よし、成功だ」
アオイは身動きが取れないまま地面に倒れ込む。
それを見届けると、カイは満足そうに口角を上げる。
「ちょっと兄さん!? 何してんの!?」
アオイは必死に体を動かそうとするが、彼の体はがっちりとワイヤーに固定されていた。
すると、アオイの視界に影が映る。
「お前、どさくさに紛れてオレのパンツ見ようとしてたな。残念でしたー、今日のオレはスパッツでーす」
「誰も得しませんよ、ライザ様のパンツなんて」
「意外と失礼なこと言うなお前。少しは需要があるだろ」
ライザはそう言うと、アオイの目の前でくるっと一回転してみせる。
彼女の履いているスカートがふわりと浮かび上がり、健康的に引き締まった太腿があらわになった。
アオイは顔を赤くしながら目を逸らす。
「はいはい、セクハラで話の腰を折るな。……ところでお嬢さん、もし竜機の試合で相手がこのように拘束された場合、あなたならどうします?」
「はい! ボコボコにします!」
「その通り。……そこでこれだ」
カイはそう言うと、銃のような物を取り出す。
先が二股に別れ、それぞれの先端に奇妙なパーツがついている。
「それは……?」
「これも俺の発明品だ。磁力の力で弾丸を加速させて一気に射出する。理論上は音速の10倍で飛ぶんだぜ」
カイはアオイの眉間につきつけながらニヤリと笑う。
アオイの顔がみるみると青ざめていく。
「まぁ、ここでぶっ放したら警報機が鳴って警備員が飛んでくるほどの威力だし、まだまだ実験段階だから撃たないけどな。だが、必殺技としては十分な火力だ。……アオイ、この発明品、『
「う、うん」
アオイは怯えながらもなんとか返事をする。
しかし、ライザは目を輝かせていた。
「スゲー! それ、オレのジェルミナイトの装甲も貫けるかな!」
「ジェルミナイト? ……ああ、多分貫ける……よな? あの竜機は『断罪の剣』でようやく傷がつくぐらいだが……」
「その銃貸してくれ! 撃ってくる!」
「肩が外れるぞバカ」
興奮するライザを落ち着かせるカイ。
そんな彼らの様子を見て、アオイはげんなりとした表情を見せた。
「あのー、このワイヤー外してくれませんかねぇ。きついんですけど」
アオイが不満げに呟く。
しかし、二人がアオイに気づくのにはもうしばらくかかるのであった。
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