第24話 剣神、よき友となるために

「ふむ、覚形とな?」

「ああ、フィリスからそろそろ発現させろと言われてな。だけどそんなポンポンと発現させられるもんじゃないし……」


天気のいい休日の事。アオイから覚形について相談され、シロハは顎に手を当てる。


「なかなかフィリスも無茶を言うものだな。他人に覚形を発現させろと命令するなんて。前代未聞だぞ」

「そうなんだよ……。だけど個人的に俺も気になってはいるんだ。やっぱり竜機の覚形には男心をくすぐられるものがあってさ」

「で、覚形を発現させている私にアドバイスを求めにきたと」

「端的に言えばそうだな」


アオイに頼られ、シロハはちょっぴり嬉しくなる。十二機神姫という立場上、このように誰かから頼られるということは少ないのだ。


「いいぞ、私が答えられる範囲で答えてやる。どんな質問でもいいぞ!」

「そ、そうか。それはありがたい」


机に手をついて前のめりになったところをなだめられ、シロハは椅子に押し戻される。


しかし、アオイが竜機に興味を持ったということはシロハにとって朗報なのだ。

もしアオイの人工竜機が覚形を発言させれば竜機界は大いに沸き立つだろう。

それだけでもアオイをこの学園に連れてきた甲斐があったというもの。


興奮で身をそわそわさせつつ、シロハはアオイの様子を伺う。


「で、で、で。何が聞きたいんだ?」

「落ち着けってシロハ。そうだな……まずは覚形を発現させたときのことは覚えているか?」

「ああ、覚えているぞ。だいたい六年前ぐらいのことだな。その時私は不覚をとり、ホワイトフォーゲルの左腕を失っていた。そして相手がホワイトフォーゲルの首を切ろうと武器を振りかぶった時────聞こえた」

「声が?」

「ああそうだ。ホワイトフォーゲルの声が」


アオイの言葉にしっかりとした言葉で頷く。


「その時は幼かったから何が起こったかは分からなかったが、自分のすべきことだけが頭に残っていた。あとは呟いただけだな、『白剣皇セイバー』と」

「おお……! で、どうなったんだ?」

「いや、気づいたら相手の竜機がガラクタになって地に伏していた」

「……は?」


アオイの拍子抜けした顔にシロハは淡々と告げる。


「私もまるで分からなかった。他の見ていた奴らから事情を聴いて分かったのだが、私はそいつに断罪のジャッジメントを放っていたらしい。もちろんその時の記憶もないし、目の前で二つ割れた地面を見て一番怖かったのは私だ。うん、漏らしたかもしれない」

「えぇ……」


真顔で言ったゆえにドン引きしてしまうアオイ。傍から見たらただのカオスである。

そんなアオイを気にすることなく、シロハは


「それからだな、覚形が使えるようになったのは。やはり覚形はいいぞ。心に余裕が生まれる」

「そ、そうなのか……。その……シロハ。その覚形の発現に予兆とかはなかったのか? どんな些細なことでもいいんだが」

「予兆? ……ああ、そういえば噂程度だが、覚形の発現の条件みたいなものを聞いたことがある」

「ほんとか!?」

「だが、本当に眉唾物だぞ? 現状証拠だけをかき集めて得た机上の条件だ」

「ソレでもいい! 教えてくれ!}

「あ、ああ……」


シロハはずいぶん前に家族から聞いた話を話す。

その話というのも、今は廃れた貴族が独自に研究していた資料から導き出された説らしい。


「その発現の条件だが……『竜機と竜機手が共鳴する』ことがは発現の条件だそうだ」

「……なにその抽象的な表現」

「わ、私にそんな目を向けられても知らないぞ!? 本当に研究資料に書かれていた言葉を私は一字一句話しただけだ!」


シロハは白い目をするアオイに必死で弁明する。

知らないったら知らない。言った自分ですら分からない言葉なのだ。


シロハの必死さが伝わったのか、アオイは椅子にもたれかかり空を見上げた。


「はー、まったくわからないじゃん。共鳴ってなんなのさ」

「私にもわからん。理屈はその研究した貴族と過去に竜機を作った古代人にしかわからん。……だが共通点というか、発現した場所に傾向はあるぞ」

「え?」


アオイが眉をピクリと動かし聞き耳を立てる。


「それがそのまま覚形の発現に直結しているかは分からないが……、最初に竜機が覚形を発現させるのは決まって試合中だ。竜機の練習の段階で発現した話は聞いたことがない。私も白剣皇セイバーは試合中に発現させたし、たしかフィリスも闘技場内で発現させていた。おそらく、十二機神姫も全員試合中に覚形を発現させているだろう」

「へぇ、そうなのか……」


少なくとも、竜機と共鳴とかいう漠然とした論文よりも具体的な情報だった。


「それなら……俺ももうちょっと真剣に竜機と向き合った方がいいのかもな。試合中に覚形を発現させやすいのなら試合形式の練習とかも考えたほうが────」

「それなら私が付き合うぞ! ちょうどアオイにリベンジしたくて秘策を……」

「無理無理無理! 十二機神姫と試合形式の練習なんて命が何個あっても足りんわ!」

「むぅ……」


良かれと思った言葉を否定され、シロハは頬を膨らませてぶすくれる。

ちなみに、その秘策というのはアオイに近づかれる前に覚形を発動させて裁きの剣ジャッジメントを放つというものである。アオイの発言はあながち間違いではなかった。


「練習相手はエルにでもやってもらうよ。アイツも竜機を持っていそうだし。剣神様のお相手は俺には厳しいぜ」

「そんな……人工竜機の覚形の最初の相手という誉ある権利が……」

「そんな誉あることか? それ」


悔やむシロハ。まぁ、もし人工竜機が覚形を発現させたとすればその時の試合は竜機史に語り継がれることになるだろう。そう考えると案外誉あることなのかもしれない。


そんなシロハにアオイはため息をついて


「まぁ、ありがとな。もしかしたら試合をしなきゃならないときがあるかも知れないし、その時にできるだけ覚形を発現させれるようにするよ」

「ああ、是非そうしてくれ。むしろ私と戦ってくれるまで試合は組ませんぞ」

「わかった……おい待て、そんなことできるのか?」

「当たり前だろう? アオイとスカイドラゲリオンの管理名義は私の家だ。私の家が了承しなければ竜機を試合に出すことはできない。竜機界だって一枚岩ではないのだ」

「マジかよ……」


衝撃の事実にアオイはがっくりとうなだれた。


そんなアオイの様子を見てシロハはほくそ笑む。

してやったり、事実上スカイドラゲリオンはシロハの家が所有しているようなものなのだ。シロハがゴーサインをだせばアオイは竜機試合をしなければならないし、逆にストップをかければアオイは竜機試合ができない。


現状シロハはアオイの意見を尊重したいと思っているものの、その方針はその気になれば簡単にひっくり返せるものである。


「お前……それを狙って俺をこの学園に入学させたんじゃないだろうな?」

「どうだかな。だが我が家が所有しているということでアオイは竜機界での権利が守られていると言える。もし我が家が所有を放棄すれば目も当てられないことになるぞ」

「うっ……」

「と、いうのは冗談だ……が、冗談になるかは私の判断次第。私が優しくてよかったな、ハハハ」


シロハは軽く笑うが、アオイは依然として青ざめたままだった。

首根っこを掴んでいるぞというシロハなりの脅しにも聞こえる。


「もう歯向かいませんよ、剣神様。俺の牙は修理屋の時にもがれました」

「私としては歯向かってくれた方が躾と称して試合ができるのだがな……これも冗談だ。そんな顔しないでくれ。まぁ、スカイドラゲリオンの覚形を見たいと思う気持ちは私も同じだ。私が相手じゃないとしても、ちゃんと私がいる前で発現してくれよ?」


そう言ってシロハは「応援している、友として」とアオイに激励を送るのであった。

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