第19話 炎魔王
「くっ! 速いッ!」
フィリスはクランベルジュのコックピット内で、自分の思い通りにならないアオイにイライラを募らせる。
いままでの相手なら当たっているはずの弾道も、この竜機は難なくかわしてくる。その上、自分の弾幕をかいくぐり一撃をいれようとさえしてくる。
フィリスがアオイを強者と認めるのに、迷う余裕なんてなかった。
(このままだとジリ貧ね……。でも、『
フィリスの頭に、自身の切り札の存在がよぎる。
しかし、スカイドラゲリオンの全貌が見えていないフィリスにとって、ここで全力を出すのは大きなリスクを伴った。
(……いや、四の五の言っている時間はないわ。覚形をするのは気に食わないけど、私がアオイに全力で向き合わないでどうするのよ。背に腹は代えられないッ!)
フィリスは切り札をきることを心に決め、スカイドラゲリオンと距離を置く。
「フン、意外にしぶといわね。想像以上よ」
「ハァ……ハァ……そ、そうですか……」
「ええ、誇っていいわよ」
息切れしながら、アオイはフィリスの言葉に苦笑する。
アオイの体力もまた、厳しいところに差し掛かりつつあった。そこにフィリスの余裕を含むセリフである。
それはアオイにとって凶報以外のなにものでもない。
「……だからね。私はあんたに本気でぶつからないといけないって思ったの。アオイも本気でやっているんだから、礼儀ってものよね」
アオイはぎくりと身をこわばらせる。
この感じはシロハと戦った時と同じ感覚、アオイの考えうる最悪のパターンだ。
アオイの本能が、これ以上フィリスに時間を与えてはいけないと警笛を鳴らす。
(まずいッ!)
アオイは全力でクランベルジュの懐に縮地、ブレードを構える。
(届け────!)
スカイドラゲリオンのブレードが空気を切り裂き、クランベルジュの胴体へと向かう。
────しかし
「残念ね。予想通りよ」
クランベルジュの周囲が歪む。
空気が揺らめき、魔王を覆う外套と化す。
アオイは急激に上がる気温の中で、己の体温が下がるのを感じた。
そして、恐れていた単語が聞こえる。
「クランベルジュ────『
ブレードが魔弾に撃ち抜かれ宙を舞う。
スカイドラゲリオンの背後にブレードが突き刺さる音を聞いたアオイは、己を危機を感じその場を離脱した。
そのあと、スカイドラゲリオンがいた地面にいくつもの穴があく。
「どう? きれいでしょう? 私の魔王」
「これ以上ないくらい凶悪ですねぇ……」
「ありがとう、誉め言葉として受け取っておくわ」
赤々と燃える魔王を統べる女王がアオイの返答に顔をほころばせる。
何人もの竜機がこの魔王の前に散っていったことを、アオイは嫌というほど知っている。
膨大な熱量で溶けてしまったブレードの断面が、『
「でましたっ! クランベルジュの『
実況にも熱がこもり、コロシアムのヒートアップ。アオイだけがその場で青ざめている。
そんな中、フィリスはさらに深い笑みを浮かべた後、覚形発動と共に禍々しく変形した銃口を目の前の標的にを向ける。
「せいぜい楽しませなさい。勇者アオイ」
クランベルジュが引き金を引くと、赤熱した魔弾がスカイドラゲリオンを貫かんと迫る。
その魔弾はより速く、より凶悪に赤い線を空間にひいていく。
「ッ!」
「あら、思ったよりも反射神経がいいのね。この魔弾を避けることができる竜機手を、私は二人しか知らないわ」
フィリスが面白そうに言うが、アオイは全然笑うことができなかった。
(くそっ……フィリス様にとって、かするぐらいは当たった内に入らないのか……。どうなってるんだ、その基準)
そう、アオイは魔弾の直撃をまぬがれただけで、スカイドラゲリオンの頬には赤い弾道がしっかりと写し取られていた。
つまり、アオイが少しでも気を抜けばスカイドラゲリオンは魔弾の餌食になるということである。
「さぁ、踊り狂いなさい」
フィリスは続けざまに魔弾を速射。
無慈悲な弾の嵐が着実にスカイドラゲリオンの身を削っていく。
「アッハハハハハ! よく耐えるわね! 最高よ! その調子で足掻かあないと貴重な竜機に穴が開くわよ、もっともっと避けて見せなさい!」
時間を重ねるたびに速射速度がさらに上がり、弾幕の密度が増していく。
戦況は魔王の手によって完全に支配されていた。
(どうする、どうすればいい! 下手に動けば弾に当たる、かといって動かなければそのまま負ける!)
アオイは歯を食いしばりながら考える。
体力も無尽蔵ではない。すでに限界は超えており、気力だけで体を動かしているような状況だ。
活路が見いだせないまま、焦りだけがアオイの心に募っていく。
と、ここで
「……ん?」
スカイドラゲリオンの足にカツンという音、
そこにあったのは、先ほどクランベルジュに撃ち抜かれたブレードの刃であった。
(……一か八か、これで……)
それを見たアオイの頭に、一つの打開策が浮かぶ。
しかし、それは策というにはあまりにも相手に依存していた。
アオイはなんとか弾幕の合間を縫って、刃を地面から引く抜く。
「……ふーん、なんか企んでいそうね。あんたのことだわ、どうせ厄介な作戦なんでしょ」
フィリスは奇怪な行動をとるアオイに怪訝な目を向けた。
今は有利な状況、流れを変えられるのは避けたい。
だから────
(変なことをされる前に、決着をつける!)
フィリスは、自分の最大最強の技を構える。
銃口に出現する二つの火球、その温度は空気をも焦がした。
それを見たアオイはぎょっとする。
「フィリス選手! アオイ選手を壁際に追い込んでから、追い打ちの『
アナウンスに従い、観客席の生徒達がクランベルジュの正面をさけるように割れる。
クランベルジュの前に残されたのは、アオイとスカイドラゲリオンのみとなった。
「覚悟しなさいッ! これが私の最大出力、火傷で済むといいわねッ!」
二つの火球が一つに溶け合い、さらに輝きを増す。
その中では、弾けんばかりの熱の奔流が対象を燃やし尽くさんと渦巻いていた。
(やるしか────ないッ!)
もう時間が残されていないと悟ったアオイは、一か八かの賭けに出る。
それと同時に、魔王の炎も撃ち出された。
「────緋色に染まれ、『
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