第18話 VSフィリス その2
(ふん、あのスカイドラゲリオンのフォルムを見ると近距離型の竜機ね。格の違いってものを教えてあげる)
フィリスはすぐさま腰にさしてある二丁拳銃を手に取り銃口をスカイドラゲリオンに向ける。
クランベルジュの武器は銃、大剣を使うシロハのホワイトフォーゲルとは違い遠距離戦での戦況掌握を主軸に戦う竜機だ。その手数は非常に多彩。
フィリスはスカイドラゲリオンの頭部に標準を合わせ、三発の弾丸を放つ。
(スカイドラゲリオンはみたところ丸腰、この弾でメインカメラに風穴があいてアオイは────ッ!?)
フィリスはスカイドラゲリオンの前にパラパラと散る弾丸に驚嘆し、表情から笑みを消した。
スカイドラゲリオンを弾丸から守ったもの、それは────
「小手に仕込み刀ッ!?」
「ふぅ……なんとか間に合った。流石に試合開始直後にメインモニターが砂嵐になるのはまずい」
スカイドラゲリオンの両腕に伸びる二つのブレード。それを使い、スカイドラゲリオンは銃弾を防いだのだ
フィリスは目の前に立つスカイドラゲリオンが自身の持っている情報と違うことに困惑する。
「シロハの話と全く違うじゃない! スカイドラゲリオンの武器は剣だって……!」
「フィリス様。スカイドラゲリオンは他の竜機と違って進化するんですよ。剣をいちいち取り出すのがめんどくさかったので腕につけちゃいました。これなら隙も少ないですし」
アオイはしてやったり、と内心でほくそ笑みながらフィリスに言う。
スカイドラゲリオンは人工竜機が故に改造が可能。竜機の枠にとらわれない竜機なのだ。
スカイドラゲリオンが見せた突然の変形に観客席が沸き立つ。
「なんと!? スカイドラゲリオンの腕から二本の刃が飛び出した~!? そんなのアリ!? アリなんですか!?」
実況も初めての出来事に混乱。しかしマイクは離さず戦況を見守る。
「さぁ、変幻自在のスカイドラゲリオンの前にどうするフィリス選手!」
「うっさいわね! さっきはちょっと驚いただけで勝負はまだこれからよ!」
フィリスはマリエルの言葉に憤慨したものの、操縦桿を強く握り気を取り直す。
情報と違ったところで自分のやることは同じだ、と。
「これでもくらいなさいッ!」
今度は足にめがけて二発。アオイはそれを半歩引いて回避。
「チィッ、もう少し大げさに避けてくれればいいのに」
「……次はこっちから行きます。避けるか防ぐかしてください」
スカイドラゲリオンが前にかがむ。
────次の瞬間、フィリスの視界からスカイドラゲリオンが消えた。
「はっ!? なによそれ……ッ!?」
しかし、フィリスは己の経験ですぐに消えた理由を把握した。
クランベルジュの重心を傾け後ろに飛ぶ。
「フッ……縮地ねぇ……。今のは少し焦ったわ」
フィリスは己の残像をブレードで切るスカイドラゲリオンを見て額に汗をにじませる。
少しでも判断が遅れていれば、アオイの一撃は致命傷となっていただろう。
「あんたも恐ろしいわね。縮地ができる竜機手なんて数えるほどしかいないわよ。いったい誰に教わったの?」
「企業秘密です。でもまぁ、おいそれと真似出来るものでもありませんけど」
「へぇ……!」
話をはぐらかされたような気がして、フィリスの怒りメーターが上昇した。
今は五十パーセントといった具合である。
フィリスの理性がメラメラと燃えているとは気づかず、アオイはそのまま言葉を続けた。
「普通の竜機手は同じ事をやってもきっとできないと思います。(竜機の)構造が違いますし」
「そうなの。私と(頭の)構造が違うって言いたいの」
「まぁ、仕方のないことなんですけど。努力でどうこうなるものでもありませんよ」
(ブチィ!)
フィリスの我慢が限界に達し、フィリスの脳内の毛細血管が何本か切れた。
十二機神姫でも一、二を争うプライドの高さを持つ彼女にとって『竜機について挑発される、しかも平民であるアオイに』というダブルパンチは到底看過できるものではない。
クランベルジュの操縦桿がミシリと嫌な音を立てる。
「あんた、燃やす」
「なんでッ!?」
「決定事項よ。ハチの巣にしてあげる」
怒りに染まったフィリスの心は、煉獄のようにたぎっていた。
(ああ、完全に私のせいだ……)
歓声が轟くコロシアムでただ一人、シロハはひどく鈍重な空気を漂わせながら試合を観戦していた。
「おーっとぉ!? ここにきてフィリス選手、アオイ選手に向けて銃を乱射! アオイ選手、この猛攻をしのぎ切れるか!?」
「ああ……ああ……!」
シロハは目の前で起こっている激戦に力なく手を伸ばす。
(私のせいだ……。私がフィリスにアオイは剣を使うと教えたばかりにアオイが……!)
シロハは自分が嘘の情報を流したせいでそれを信じたフィリスが激怒しているのだと盛大に勘違いしていた。
ましてや、そのとばっちりがアオイに向かっているのだと考えると思うと身が引き裂かれるような思いがした。
金属音が聞こえるたびに、シロハの心がズキリと痛む。
シロハがそんな苦しみに悶えながらうつむいていると
「少し席を変わっていただけるかしら? ……ご協力ありがとう。シロハさん、ご機嫌麗しゅうございます」
シロハの隣に、他の生徒とは毛色も雰囲気も違う少女が行儀よく座る。
それにシロハは、心底機嫌の悪そうな視線を声をする方向にずらした。
「……ああ、アイーダか。私に何の用だ」
「そんな陰険な顔をしなくてもいいですのに……。ワタクシはただあなたと語らいに来ただけですのよ。アオイさんと親交のあるシロハさんならこの戦いもワタクシ達とは違った見方ができると思いまして」
アイーダはスカートを払いながらシロハに朗らかな笑みを浮かべる。
この笑顔が、シロハにはとても普通ではないように思えた。
「それにしても、アオイさんの竜機さばき。並みの腕前じゃありませんね。この学園にあの俊敏な動きができる人が何人いるでしょうか」
「さぁ? だがアオイのスカイドラゲリオンは人工竜機だからな。従来の常識を簡単に超えてくれる。何があってもおかしくはない。その竜機手であるアオイもまた同じだ」
「ふふふっ、それは面白そうですわね」
シロハはアイーダのなにか企んでいそうな態度に不安を覚える。
アイーダがこの試合に向ける目は一観客としてのものではなかった。
例えるなら商人のような、対象をくまなく見て値踏みする目だ。
「ここでアオイ選手! なんと走り始めた! クランベルジュを中心として円を描いていく!」
と、ここでスカイドラゲリオンが弾幕を掻い潜るように走る。
それを見た二人は、「ほう」と短い感嘆を発した。
「なかなかいい手ですわね。一定の距離をとって隙を伺うのは対遠距離型竜機の常套手段ですわ」
「だが、それは同時にフィリスが最も見てきたありきたりな手段と言える。無論、それを許すフィリスではない。どうする、アオイ」
二人はアオイの動向に注目する。
シロハの言う通り、フィリスにとってアオイの行動は予想の範囲内であった。
フィリスがアオイの動きを予測し、銃口とスカイドラゲリオンが重なるタイミングに合わせて弾丸をばらまく。
「勝負アリ、ですわね。一秒後にあの人工竜機は弾丸の雨に貫かれる。当たり所が良くても試合の続行は不可能でしょう」
「……普通の竜機だったらな。しかし、スカイドラゲリオンは例外だ」
「シロハさん、何を言って……ッ!?」
アイーダはコロシアムで起こった出来事に目を見開いた。
「これはすごい! アオイ選手、左ブレードを地面に突き刺し軌道を無理やり変更! そのままクランベルジュへと距離を詰めていく! いやー、あの弾幕は私とハーフォニウムちゃんなら当たってましたね」
「あ、ありえませんわ!? あのタイミングの攻撃は不可避、もしアオイさんがフィリスさんの弾を撃つタイミングを予測していたとしてもあの手際で回避から攻撃へと転じるのは至難の技なはず……」
アオイの見せた回避に会場がどよめく。
驚いていないのはシロハぐらいのものだ。
シロハは口を半開きにするアイーダに向かって自慢げに言う。
「言っただろう? 人工竜機に常識は通用しないと。アオイの反射神経と動体視力もさることながら、スカイドラゲリオンの精密性とポテンシャルに関しては他の有象無象の竜機など足元にも及ばない。故にアオイがやろうと思えば何でもできてしまう。私がアオイを相手した時は、そのスカイドラゲリオンの万能さが何よりも恐ろしかった」
「……シロハさんはそのスカイドラゲリオンの万能性の理由を知っているとでも?」
「どうかな。そんなに気になるなら直接本人に聞いてみるといい。ちょうど竜機の格納場所がたまたま近いのだしな。話しかけるのは容易い」
「ッ! ……ええ、是非そうさせてもらうとしますわ」
アイーダが体をびくりと震わせる。
しかし、シロハはこれ以上追求することはしなかった。
「まぁ、今は目の前の試合を見よう。……だが、分かっているな?」
「あら、なんのことですの?」
「……ふん」
シロハが鼻をならし、アイーダは小さく舌打ちをする。
そんな険悪なムードを醸し出しながら、二人は試合を分析しつつ勝敗を見守った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます