炎獄の魔弾編
第12話 王立学校にて
王立学校、それは次世代を担う人材を養成する国内唯一の学校。
────そして、貴族の、貴族による、貴族のための学校である。
この学校に入学するためには貴族出身、または貴族の推薦状が必要だった。
だが、それ故に学校内の設備はもちろん学校周辺の地区さえ充実している。
図書館、飲食店、服飾店、その他諸々……。
学校周辺で手に入らないものはない。そう言わしめるほどであった。
そこでついた別名が『学園都市アルヴェルト』。国の最先端をゆく町だ。
……現在、その中心の王立学校の校門前にて、
格式の高さを感じさせる立派な造り、この国の建築家達のの粋がふんだんに表れている。
「アオイ、ここが王立学校だ。すごいだろう?」
「税金いくらかけてるんだろう……」
学校の存在感に圧倒されたアオイはシロハの言葉に場違いなあいづちを打つ。
ここに来るまでの道中でも、アオイはアルヴェルトの物価の高さに驚きっぱなしだった。
かねてからの貧乏性な性格と修理屋の帳簿をつけていたのため、お金には敏感なのだ。
貴族であるシロハにとっては日常のものでも、庶民であるアオイにとっては別世界の産物に見える。
「さぁ行こう。紹介したい場所がたくさんあるのだ」
「あ、ああ……」
動揺する自分を気にもせずさっさと校門をくぐるシロハに、早速アオイの心が折れかけた。
トホホとうなだれつつ、重い足取りで進んでいると────
「キャー! シロハ様よー!」
突如、近くにいた女子生徒が声を大にして叫んだ。
そして人は人を呼び、さらに人を呼ぶ。
「わっ! ホントだ!」
「ラッキー! 最近見なかったのに!」
どうやら、お目当てはシロハのようである。
アオイとシロハが困った時には、どうしようもない人だかりがシロハとアオイを囲っていた。
アオイとシロハの状況を端的に表すなら『時すでに遅し』である。
「あー。……シロハ?」
「……うむ!」
なにを表した「うむ!」かはよく分からなかったが、自分のおかれている状態が非常に厄介になっていることをアオイは理解した。
群衆はじりじりとアオイとシロハに近づいていく。
そして──
「どいてっ! シロハ様が見えないでしょ!」
「あーれー!?」
「ああっアオイ!……ああくそっ、人混みがっ!」
学生の一人にはねられたのを皮切りに、アオイはあれよあれよと人だかりの外へと流される。
シロハもなんとか手を伸ばすも届くことはない。
はたから見れば悲劇の別れに見えなくもなかった。
「ひでぶっ!?」
群衆の波にもみくちゃにされたアオイは集団を抜けた勢いで前につんのめり、全身を地面にたたきつけた。
おろしたての制服が汚れたのを見て、アオイは本気で兄のところに帰ろうか考える。
「まったく、つくづく俺はついてない……。おーい、シロハー。……聞こえていなさそうだな」
群衆のあまりの熱狂ぶりにアオイはシロハの救出を早々に諦め、先に校内に入ることにした。
シロハが学生たちを一身に受け止めているため歩きやすいと感じたのは内緒である。
肩についた砂ぼこりをはたきながら、アオイが校舎へと続く階段を上っていると
「本っ当に馬鹿ね。群がったところで何になるのかしら」
階段に座って、一人のツインテール少女がため息をつく。
視線の先にはとり囲まれるシロハとそれをとり囲む集団。
紅色の相貌からは心からの憂いが感じられた。
「……ねぇ、そこの地味男。あんたはどう思う?」
「…………」
「あんたよあんた! 今スルーしようとしたぁ!」
「ええ? 俺ですか?」
校舎に入る寸前に突然かけられた問いにアオイは自分を指さす。
この少女も貴族だ。アオイにとってはあんまり話したくはない相手である。
少女はどこかつまらなさそうな目をアオイに向けて
「そーよ、このウスラトンカチ。発言を許すからなにか言ってみなさい」
「え、ええ……そりゃあシロハがそれだけみんなに愛されているっていうことじゃないですか? 有名人や自分が知っている人がいたらそこに行きたくなる。人間の
アオイがおずおずと答えると少女は目を細める。
「……ふーん。あんたはあそこに混じらなくていいの?」
「え? 混じって何の得が?」
「……あんたはそう考えるのね。意外だわ」
アオイの返答をきいた少女はスッと立ち上がりアオイに向き直る。
「とりあえずバカからアホにワンランク昇格してあげる。感謝しなさい」
「わ、わーい?」
とりあえずアオイは両手をあげてみる。なぜこのような行動をとったのかはアオイ自身も分からなかった。
アオイが少女の言葉に喜んでいいのかわからない複雑な気持ちになっていると
「す、すまないアオイ。邪魔が入って身動きが取れなかった……」
人だかりを散らすことに成功したシロハが息絶え絶えで階段を上ってきた。
「……む?」
シロハは階段の手すりに座る少女に目を向ける。
それに合わせて、少女は小さく犬歯をのぞかせて笑った。
「シロハ、あんたこの庶民をえらく気に入ってみているようね。名前の呼び捨てまで許して」
「……フィリスか。アオイに何かしたのか?」
「何もしてないわよ。今のところは、ね。この前会ったときにあんたが楽しそうにコイツの話をしていたから、どんな奴だろうと思ってただけ」
ツインテールの少女、フィリスは長い金髪を揺らめかせながら鼻をならした。
アオイはシロハの言った『フィリス』という単語に反応し、シロハに問う。
「シロハ、フィリスってあの?」
「そうだ。『炎獄』フィリス、私と同じ十二機神姫の一人だぞ」
「ええっ!?」
さっきまで話していた少女が十二機神姫の一人だということを知り、アオイは素っ頓狂な声をあげる。
そういえば、テレビで見たことがある。特徴的なツインテール、そしてそれを束ねる赤いリボンで気づくべきだった。
────しかし、気づくべきだったのが……
「その……なんというか……。言いにくいけど……」
「ああ、テレビに出るときはカメラアングルとシークレットブーツの合わせ技で背が高く見えるようにしている。察してやれ」
「あんたが全部言っちゃってるのよッ!」
「イタァ!? なんで俺ェ!?」
フィリスに脛をけられたアオイはその場でうずくまり悶絶する。
ズボンにはくっきりと靴あとがついていた。
「シロハ、私のプリチーボディにケチをつけるようだったらこの庶民と一緒に燃やすわよ? なんでもあんた、この庶民に竜機で負けたそうじゃない。腕前が落ちたんじゃないの?」
「アオイに負けたのは事実だが、フィリスはまだアオイとスカイドラゲリオンの恐ろしさを知らない。それに私はまだおまえのクランベルジュに燃やされるほど落ちぶれてはいないぞ。その前にホワイトフォーゲルで切り捨ててくれる」
お互いに眉間にしわを寄せてバチバチになる二人。
アオイが間に入れば確実に消し炭になりそうな雰囲気が流れる。
しばしにらみ合った後、フィリスはシロハの目から視線を外した。
「ふん、言ってくれるじゃない。せいぜい頑張ることね。あんたが十二機神姫から落ちて、嫌な奴が後釜に入ってきたらどうするのよ」
「うん? なんのことだ?」
「な、なんでもないわ。……とにかく! 私はあんたのお気に入りをとやかくするつもりはない。ちょっかいをかけるようなくだらない真似はしないわ。じゃあ」
フィリスは顔を赤くして、その場をはぐらかすようにきびすを返す。
「────あ、あとこれは忠告ね。そこの庶民」
「俺?」
声を掛けられてきょとんとするアオイに、フィリスは流し目を向けて言った。
「あんた、庶民のくせに変に素質をもってるから狙われやすいわよ。いい意味でも悪い意味でも」
「「……?」」
「それじゃ。忠告はしたわよ」
首を傾げる二人を背に、フィリスはハンと鼻をならして校舎に入っていった。
……ついでに、アオイの中でフィリス=ツンデレという方程式ができた。
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