第7話 決戦

 まず先手を仕掛けたのはシロハ。

 大剣を軽々と振り回す彼女のホワイトフォーゲルは剣神の名に恥じず、一騎無双の戦士を想起させた。

 一直線に突撃し、スカイドラゲリオンの胴体を狙う。


 しかし、ここでアオイが修行の成果を見せた。


「ッ……危ねー、当たるかと思った……」


 危機察知能力が極限まで鍛えられたアオイはホワイトフォーゲルの重い一撃を体をひねり回避。その勢いでバックステップをして距離をとる。

 これもカイが作ったシンクロコントロールのおかげであった。


「……なかなかいい反射神経をしているな」

「この七日間で地獄を見てきたんですよ。これくらいでは終われません」

「地獄を見てきた、か……。それならもう少し本気になってもよさそうだな。初心者相手に大人げない対応をするのは気が引けたが、相手が地獄を見てきたというのなら問題あるまい」


 アオイが「やっべー、シロハ様の変なスイッチ入れちゃった」と思ったのも束の間、ホワイトフォーゲルが瞬時に距離を詰めてスカイドラゲリオンに斬りかかる。


「わッ! ちょ!? そんなッ本気にッならなくてもッ!」

「しぶといやつだな。他の竜機手でももう少し当たるぞ」

「当たったらッそこでッ試合終了ッじゃないですかッ!」


 右、左、後ろ、また左。アオイはホワイトフォーゲルの数々の剣撃をあらゆる方法で回避していく。


 なんだかんだ言いつつ猛撃をしのいでいくアオイにシロハは舌打ちをした。


(おかしい。まるで本当に竜機自体が人間であるかのような印象を受ける。

 そうでなければ、人工竜機とはいえただの竜機がここまで攻撃をかわすのには無理があるぞ)


 きりもみ回転やバク転、宙返りなどの高度な動きを回避に組み合わせていることから、スカイドラゲリオンに何らかの秘密があるのは明白だった。

 攻めを継続しながら、シロハの疑問は深まる。


 まぁ、シンクロコントロールの存在を知らないシロハからして見れば不思議に思うのも無理はない話なのだが。


 シロハは苛立ちからか、スカイドラゲリオンを一刀両断にする勢いで大剣を振り下ろす。


「────その動き、待ってました!」

「なにッ!?」


 すかさず、アオイは地面に深く突き刺さった大剣を足で踏みホワイトフォーゲルの動きを抑制。その上で足を軸に回転し後ろ回し蹴りをホワイトフォーゲルの頭部にお見舞いした。

 シロハはとっさに機体をそらせたものの、顔部分の装甲にかすり傷ができる。


「チィッ! その足をどけろ!」

「ぐぅっ」


 ホワイトフォーゲルは大剣を手放し体全体を使ってタックル。なんとかスカイドラゲリオンを弾き飛ばした。


「不覚……ホワイトフォーゲルに傷をつけられるとは」


 シロハはコックピット内でわなわなと体を震わせる。

 彼女は貴族の中ではそこまでプライドが高いほうではないが、それでも竜機手の誇りは持っている。

 十二機神姫、剣神シロハともあろう竜機手が初心者に、ましてや先制攻撃を受けたという事実は彼女の自尊心を大きく傷つけた。


 ────しかし、この震えは屈辱による震えではない。

 いや、少なからずそういう震えはあるのだろうが、それ以上に彼女を興奮させるものがあった。


 それは

 シロハは竜機スカイドラゲリオンとその竜機手であるアオイに感動を覚えていた。

 自分と対等に戦える竜機と竜機手は数えるほど、他の十二機神姫を除けばほぼ皆無と言っていい。

 故に、彼女は闘争心に飢えていた。


 そんな中、突如として現れたこの人工竜機と竜機手は彼女にとっての最高の退屈しのぎ。望んでいたもののすべてを満たしていた。

 さらに闘志に火が付き、シロハは獰猛ににんまりと笑う。


「……久しぶりに楽しめそうだな」





 一方、最強の竜機と竜機手に善戦しているアオイはというと


「痛タタ……」


 思いのほかボロボロであった。

 それもそのはず、スカイドラゲリオンのこれまでの動作はすべてアオイの動きによるものである。

 人間である以上疲労が蓄積される。もともと運動神経がいいアオイでも息切れは不可避だった。


「やべぇ……。シロハ様強ェ……。もうちょっと攻撃できるかと思ってた」


 一応、アオイはスカイドラゲリオンに剣を装備させているものの、自分の細い剣ではホワイトフォーゲルの一撃を受けきれる気がしなかった。

 どう想像しようにも、剣がへし折れる未来しか見えない。

 まさに防戦一方、ジリ貧だ。

 そう、アオイが額に汗をにじませて打開策を模索していると────


「面白い。本当に出す気はなかったが私をここまで本気にさせた褒美だ。おまえに一ついいものを見せてやろう」


 アオイはシロハの雰囲気が変わったことを感じた。

 まるで巨大な一本の剣を目の前にしているような錯覚が目に映る。

 硬く、しなやかで、危険。

 その三つがアオイの頭の中に浮かんだ。


「ホワイトフォーゲル……」


 アオイの警報がこれまで以上の警報音を鳴らす。

 これはヤバい。その言葉で脳内が塗りつぶされる。

 しかし、アオイにそれを止める術はない。

 ただ、シロハの出すを見るしかない。


 剣の主シロハは今ここに、ホワイトフォーゲルの『真名』を宣言する。

 それは誰よりも強く、そして鋭い。


「────『白剣皇セイバー』ァーッ!!」






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