第6話 お披露目
「むぅ……遅いな」
シロハは平民街から少し離れた平原にてイライラした表情を隠しもせずに呟く。
ホワイトフォーゲルの正面モニターには戦いの見物に来た子供たちが「スゲー!!」と無邪気に叫んでいる退屈な映像が延々と流れていた。
やっぱり、人口の竜機なんて夢物語だったか……。
そもそも、人工竜機なんて国が前々から実現しようと研究していたものだ。貴族の耳に届くほどの修理屋とはいえ、普通の平民がそう簡単に竜機を作れるわけがない。
そうシロハは頬杖をして、失望の八つ当たりもかねて最大火力で店を切ってやろうかと考えていた────その時だった。
「おーいシロハ様ぁー! 俺のこと、覚えてますかー!?」
ふとモニターに意識をモニターに戻す。
「あれは……」
ホワイトフォーゲルの前では、いつぞやの男が手を大きく振って
シロハの注意をひこうとしていた。
確か……人工竜機を作っていたゴーグル男だ。
シロハは機嫌の悪さを表した威圧まじりの低い声で
「修理屋か。何のようだ」
「なんか怖い言い方しますね……。まぁいいです。実はシロハ様がお待ちかねのアレが完成したので連絡を入れておこうと思いまして。急に飛び出して来たらビックリするでしょう?」
「ッ! 完成したのか!? 人工竜機!」
「しましたよ。俺の底力をなめないでください」
白い歯を見せるカイの立てた親指に、思わずシロハの口の両端が上がる。
少なくとも、人工の竜機と戦ったと他の十二機神姫に自慢できる。
悔しがる
ゴーグルの微調整をしたカイはわざとらしく咳ばらいをしてシロハを含めるその場にいた人の注目を集める。
「ふぅ……っさて! もったいぶって焦らすのもあれですし、さっさと登場させてしまいましょう! これが俺の最高傑作にして世界初の人工竜機! その名も─────スカイドラゲリオンです!」
カイが高らかに宣言した瞬間、空から勢いよく群青の竜機がカイの後ろに着地する。
その衝撃で大地が揺らぎ、木にとまっていた鳥が一斉に飛び立つ。
「うお危ねぇ! 踏む潰す気かアオイ! 兄ちゃん死ぬぞ!」
「兄さんが邪魔だったんだよ。結構操作が大変なんだからね。この竜機を動かすの」
危うく踏みつぶされかけられ憤慨するカイに、アオイの仕草に連動したスカイドラゲリオンが指を差す。
まるで、カイとスカイドラゲリオンが会話しているように見えた。
その様子を見たシロハは歓喜に震える。
(すごい……あの滑らかな動き、まるであの竜機に人間の精神がそのまま乗り移ったかのようだ。従来のものでは……いや、精密動作の点ではホワイトフォーゲルも上位に入るがあの動きをまねできるかは怪しい。あの竜機がどういう仕組みでそうなっているのかは知らないが……なんとしても手に入れないとな)
彼女の思考はすでに自分が後ろ盾になっている企業のことなどどうでもよくなっていた。もともと興味があったわけではないが、今は頭の片隅にとどめておくことさえもったいない。
恍惚としたシロハはじっくりと吟味するように目の前の青い竜機を見る。
太古の遺物と現代の技術。本来の竜機にはないパーツや今の時代ならではの機能美を追求し、シンプルかつ大胆な設計を使ったスカイドラゲリオンはまさに唯一の竜機。どんな貴族だってのどから手が出るほど欲しいに決まっている。
この機種に名前をつけるなら新旧融合型。これまでにはなかった新時代の竜機だ。
シロハの胸で、好奇心がたぎる。
────と、自分の世界に入っていたシロハを通信音が妨げた。
「シロハ様、私です。この度はぜひともあの愚か者どもに天罰をお与えになってください。……約束が
「……ああ、わかっている」
空気の読めない製造企業の幹部の言葉でシロハは現実に引き戻される。
思考が遮られたことに腹が立った。
(やはりこの男は金があるだけのポンコツだ。こんなことなら父上の頼みなど聞かなければよかった。……もっと違う状況であれば、もっと楽しく戦えただろうに)
シロハは心の中で深いため息をついて、ホワイトフォーゲルの操作に集中する。
今はあの竜機をどのように倒すか。それだけを考えるように頭を切り替えた。
さっさと終わらせよう。あの竜機のことを考えるのはそれからだ。
「始めるぞ。準備はいいか」
「ん? ……ああ、少し怖いけど頑張ります」
「そうか────それでは行くぞ!」
ホワイトフォーゲルが一歩を踏みこみ、戦いが始まった。
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