第5話 人工竜機スカイドラゲリオン

「オッラァ! 動かしてやったぜこの野郎!」


 裏倉庫につながるドアを勢い良く開けて、カイが店の中に転がり込んでくる。

 顔はいつも通りやつれていたが、今日だけは笑顔だった。

 破顔するカイは何気なく懸垂けんすいをしていたアオイの手を掴むと、そのまま倉庫に引きずり込む。

 アオイの視界が散らかった。


「ちょ!? 兄さん!?」

「見ろよアオイ! これがおまえの乗る竜機、『スカイドラゲリオン』だ!」


 アオイはくらくらする頭を覚まし、兄が示す方向に目を向ける。


「わぁ……」


 そして、短く驚きの感嘆符を発っした。

 息を荒くして言うカイの後ろには、群青のカラーにメタリックに光るボディ。そして竜機にしては異質に点滅するコアを持つロボットがチェーンでつられていた。

 今にも動き出しそうな精巧な作りがアオイの視線を釘付けにする。


 それはどこに出しても恥ずかしくない立派な竜機である。カイが一から作ったとは思えない、最高の仕上がりとなっていた。


 兄が本当に竜機を完成させてしまったことにアオイは息をのむ。


「す、すごい……」

「だろ!? これが兄ちゃんの二年の結晶だ! それにコイツにはほかの竜機にはない特別な仕様を施してあるんだよ。これに関しては本家以上だな」


 そう言ってカイは高笑いを響かせる。

 本人も会心の出来であったらしく、感情が激しく高ぶっているようだ。

 口を半開きにするアオイの反応にひとしきり笑ったカイは、そのあとに「ふぅ」と一息ついて


「いいか、アオイ。これからスカイドラゲリオンの仕様の一端を見せる。よーく見ててな」


 アオイがきょとんとする中、カイがすぐそばの机に置いてあった黒い手袋をはめる。

 そして手を軽く振ると────


「手の動きが……竜機と連動している?」

「そう! この仕様こそ俺が作ったスカイドラゲリオンだけの新システム、名付けて『シンクロコントロール』だ! ……まぁ、あまり離れたところから操作ができないから普通の竜機と変わらず搭乗者が必要なのが難点だが精密動作のレベルは段違い。このコントロールスーツを着て乗るだけでスカイドラゲリオンは搭乗者の動作そのままに動く。よって、おまえが俺に隠れて夜まで竜機の勉強は完全に無駄だったんだよ」


 カイの手と同じようにスカイドラゲリオンの手がブイサインを作る。この竜機に対するカイの自信が現れていた。

 アオイの心は兄のすごさと勉強に対するむなしさで半々になった。

 この兄、王宮技師になればいいのに。そう強く思った。

 アオイは複雑な感情にのまれながらも、自分の思考を言葉にする。


「はぁ。つまり、これまでの弟イジメは俺を強くするためだったってこと? そのなんちゃかスーツとやらを着れば竜機を自由自在に動かせる。ということは竜機手の強さがそのまま竜機の強さになる。そういうことでしょ?」

「我が弟ながら勘がさえてるじゃないか。その通り。この一週間でおまえはすさまじい回避能力と忍耐力を手に入れた。これならシロハとホワイトフォーゲル相手でも十分にりあえるはずだ。発想力の勝利ってやつだな」


 人機一体、それを体現したスカイドラゲリオンは竜機が目指す一種の至高になっていた。

 もしかしたらシロハをギャフンと言わせることができるかもしれない。そう思えるほどに。

 これでもかと弟に自慢して満足したカイは、スカイドラゲリオンに見惚れるアオイの肩をポンと叩いて寝室へと歩いていく。


「これで俺にできることはすべてやった。あとはアオイ次第だぜ」


 期限タイムリミットまで、あと十五時間。

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