第9話

 クレイを見送ったあと、ようやく歩ける程度まで回復したバニラは部屋の探索を開始する。

 先ほどマナサーチに反応したものが何なのか気になったのだ。


 果たして、部屋からはいくつかの魔晶石と、一枚のバーサタイルが見つかった。

 バニラは注意深くバーサタイルを確認する。

 年代や型式からいって、ここに来る原因となったバーサタイルと同年代のもののようだ。


(不思議現象の原因を探すために来たはずなのに、それどころじゃなくなっちゃったな……)


 バニラは慣れた手つきでバーサタイルを起動する。

 それがどんな内容だとしても、部屋の外で暴れる魔動機をどうにかできるとは思えなかったが。


 再生が始まった途端、一人の女性が姿を現す。


「よくここまで連れてきてくれました。御礼を言わせてください」


 豊かな金髪を持つその女性は、深く頭を下げる。

 いや、実体に見えるがホログラムだ。


 バニラは恥ずかしながらそれに気づくのが遅れた。

 そのくらい、今まで見たことがないほど現実に近い映像だったのだ。

 バニラが驚きのあまり声を出せずにいると、ホログラムの女性はそのまま言葉を続ける。


「ここには<大破局>以前、小さな集落がありました。しかしたび重なる蛮族の侵攻に屈し、滅びが目前にまで迫ったとき、一人の魔動機術師が立ち上がったのです。……彼は、ジーンは優れた魔動機術師でした。そしてこの集落を守り続けるため、自らの精神をあの魔動機械に転移するという禁忌を犯したのです。……その試みは成功し、蛮族を追いはらうことには成功しましたが、彼だけは今になってもその使命から逃れられずにいるのです」


 女性が涙を流す。

 落ちた涙は床に当たり、ポリゴンの欠片となって霧散した。

 彼女は強い眼差しでバニラを見据えると、力強く宣言する。


「彼にまだ意識が残っていれば、きっと私だと分かってくれるはずです。さぁ早く!」

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