第4話

 歩くこと半日、2人は無事に目的の遺跡へたどり着いた。


「もう探索は済んでいるから罠は気にしなくていいけど、魔物が棲みついている可能性はあるから注意してくれよ」


 冒険者として経験豊富なクレイが前に立ち、入口の扉を開ける。

 そして慣れた動きで松明の用意をしようとするが、その動きをバニラが止める。


「フラッシュライト」


 詠唱とともにバニラの持つマギスフィアが発光する。

 マギテックとセージの技能しか持たないバニラは戦闘では役に立たないが、初歩の魔動機術であるフラッシュライトは松明よりも明るく、水などで消える恐れもないのでこういったダンジョンの探索には重宝することを知っていた。


「おぉ~、やっぱ魔動機術ってすごいな」


 クレイが感心した声を出し、松明をしまう。

 初めて挑むダンジョンでは魔法の明かりと松明と両方を備えた方が万全ではあるのだが、今いるのはすでに探索済の遺跡である。

 それに純戦士であるクレイにとって、片手が塞がるのはいかにも具合が悪かった。


 褒められたバニラは、おもわず両耳がぴくぴくと動いてしまう。


「うちのパーティにも、バニラみたいなマギテックがいてくれたら安心なんだけどなぁ」


 クレイが冗談めかして言う。

 彼がバニラを誘うのは初めてではなく、そのたびにバニラは心臓が跳ねるほど嬉しくなり、しかし自分の隣にいながらシリィのことを見ているクレイを想像すると、耐えがたいほど悲しい気持ちになってしまう。


「……わたしは今の仕事が気に入っているから」


 結局、バニラはいつもの断り文句を口にする。

 もちろん嘘ではない。だが、クレイと2人でダンジョンに潜っている今の時間の方が何倍も充実を感じるのも本当のことだ。

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