第17話・ポーションマスター

「何故王子の中に金のハートがあるか、か……」


 ヴィエーディアもエルアミル王子も考え込んでいる中で、アルプは耳をぷるるっと震わせた。


「たぶん……たぶんだけどさ」


 ん? と二人の目線がアルプに来る。


「おうじさまがきんのハートがいるから、よんじゃったんじゃないかなって」


「呼んじゃった? 僕が? 金のハートを?」


「うん。たぶん、きんのハートをよんじゃったんだよ。しらないうちに。でもおうじさまはまほうりょくがわからないから、じぶんのなかにあることもわからないし、どうやってつかうかもわからない」


「……ああ、確かにそうだ」


「せっかくミルクをもらっても、おさらにいれてもらえないとのめない。くちがあかないとのめない。……あってる?」


「ああ、そう言われれば納得できる。金のハートって言う飲み物が王子って器に入ったけど、器の口が分からなくて、誰も口をつけなきゃ飲めないってわけかィ」


「うん、そういうかんじ」


 ふ~むとヴィエーディアは天井を仰いだ。


「と言うことは、王子って器に金のハートって飲み物が入ったはいいけど飲み口もないし外から見えない状態になってるわけかィ……まいったねェ」


 ヴィエーディアはガシガシと頭を搔く。


「つまり、器から飲み物を出そうと思ったら……器を壊さなきゃいけないってことかィ」


「器を壊す……どの程度?」


「さァて……魔法の要素のない人間の中に入った魔法力を取り出す方法なんて見たことも聞いたこともないからねェ……」


 ヴィエーディアも唸ってしまった。


「まほうのどうぐで、ぐぅぅってすいこむことはできないの?」


「吸い込むにも口がいるだろう? その口が今の王子の何処にあるんだィ?」


「ああ、そうかあ……」


 う~んとアルプも耳を伏せる。


魔法薬ポーションだねェ……」


 ヴィエーディアは唸った。


「今の王子から金のハートを取り出せる方法は、それこそ魔法薬しかないヨ……」


「魔法薬?」


「王子の肉体に魔法力の流れ出る出口を魔法的に作り出すのは、魔法道具じゃ無理だ。魔法薬で魔法力を蓄えている臓器に影響を与えて、魔法的な出口を創るのは、魔法薬のほかない」


「まほうのおくすりかぁ……それもぼくにはつくれないなぁ……」


「と言うか、そのような魔法薬を作ることができるのは……」


「世界広しと言えど、あの御方しかいらっしゃらないだろうねェ……」


「あのおかた?」


「そう。魔法猫様は興味ないだろうけど、このレグニム国は小さい国であるにも関わらず発言力がある……提案したことを聞き入れてもらえる力がある。それがあの御方の創り出す魔法薬なんだヨ。魔法薬の天才、世紀の魔法薬師ポーション・マスター……あの御方が生み出した様々な魔法薬こそが、この国の財産。このレグニムのお宝なのサ」


「じゃあ、あのおかた、につくってもらえばいいじゃない」


「できればとうの昔にお話に行ってるヨ」


「作ってもらうことは……難しいな」


 エルアミル王子も難しい顔をしてしまった。


「なんで?」


「魔法薬師は今、薬を作れない状況にある」


「なんで? まほうのおくすりをそれをつくるひとはこのくにのざいさんなんでしょ? なんでそのひとがおくすりつくれなくなるの?」


「話せば長くなる」


 エルアミル王子も天井を仰いだ。


「魔法薬師はレグニムの生まれ。この国で生まれ、育ち、成長の途中でその才能を見出され、国が望むような様々な魔法薬を生み出した」


「天才ってやつサ。魔法猫が息するように魔法を使うように、あの御方は天才的な閃きと勘働きで薬を生み出した。それこそ次々とネ。レグニムは金の卵を産むガチョウを手に入れたと、皆、羨ましがって、魔法薬師を手に入れられないかと模索したものサ。本人の前で言うのは何だが、ブールは第二王子と言う切り札を切ってあの御方を手に入れようとした。何とか第二王子がこちらに来ることで話をまとめたがネ。その頃だ、あの御方が自由を求めて城を逃げ出したのは」


(あれ?)


 どこかで聞いた覚えがあるような、とアルプは首を傾げた。


「レグニムは全魔法力を持ってあの御方の場所を突き止めた。そして、連れ戻して閉じ込めちまったのサ。ところが、あの御方はそれなら自分は魔法薬を作らないと言い出した。だったら出さないなら作らないの言い合いで、結局あの御方は半年も塔の中。もう分かったネ魔法猫? それがフィーリア姫様だ」


「おひめさま……まほうつかいだったの? でも、そんなにおい……」


「魔法使いじゃない、魔法薬師だよ、アルプ君」


 エルアミル王子は苦笑した。


「どうちがうの?」


「魔法薬師は魔法力を使ってるんじゃないんだヨ。様々な魔法の材料を組み合わせる膨大な知識と神がかった閃き。魔法力がなくても魔法に近いことができるけど、その為に必要な知識は半端ないしこれをこれを組み合わせれば行けるんじゃないかって閃きは魔法使い以上の才能がないとできない。魔法薬師は大勢いるけど、一人前と言えるのは魔法使い以上に少なく、一流と呼ばれる者は国が大事に大事に保護する。稀代とまで呼ばれるのは姫様だけ」


「きたい?」


「世界に二人といない、って意味だよ。どの国のどんな魔法薬師より若く、どんな魔法薬師より複雑な薬をあっさり作ってしまう」

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