第16話・きんのハートのしめすさき

 地団駄じたんだを踏むストレーガを無視して、ヴィエーディアは行進を再開した。


(すっごくおこってたけど、だいじょうぶ?)


(大丈夫大丈夫。反論できなくて腹を立ててるだけの自称一流魔法使いを怒らせたところでどうってこたないサ)


 てくてくと歩きながらヴィエーディアはあースッキリしたと気分よさそうに歩く。


「おや、ヴィエーディア殿」


「今日はその猫がお相手ですか?」


「あァ。いい天気だしねェ」


「相変わらずの変わり者で」


「あたしがまともになるのは世界が終わる時だけなんでネ」


「じゃあごゆっくり!」


 城の人は、ヴィエーディアが言った通り、今更ヴィエーディアが何かやらかしたとしても驚きやしないらしい。変な道具を猫につけてそれを頭に乗っけて歩いていても、誰も文句も苦情も言わず、世間話すらできるほど。


 アルプはそんなヴィエーディアの頭の上で、匂いを嗅いでいる。


 今のアルプの残った魔法力は、全て同じ魔法力を感知するために使われている。


 そして、敏感になったアルプの鼻は、ある匂いを嗅ぎ取った。


(におい……!)


「はいよォ、あたしは仕事兼お散歩でネ。早く姫様にお会いしたいもんですよ」


 話を適当に切り上げ、ヴィエーディアはアルプに意識を向けた。


(あったかィ?)


(うん、ぼくのきんのハートのにおい……!)


 感知魔法をアルプと連結しているヴィエーディアも、その気配を感じ取った。


(間違いなさそうだねェ。今のお前さんの気配と同一。こっちから来てるかァ)


 ヴィエーディアはアルプを頭にのせたまま庭園に踏み込んでいく。


 アルプが意識を向けた方向に、ヴィエーディアは歩いていく。


(うん、ぼくのハートのにおいはこっちからする)


(そうかィそうかィ……おっとちょっとまずいかな)


(何が?)


(この先は客人用の離れの宮殿だねェ……。あたしが入り込むのはマズいかな)


(ぼくがひとりでいく?)


(いやそりゃマズい)


 ヴィエーディアは頭をガシガシと掻いた。


(あたしが魔法猫のなりかけを連れて歩いてるのはみんな知ってる。その猫が単独で他国の客人のいる部屋に入ってみなヨ。あたしがいつもの奇行じゃなくて何か企んでると思われて捕まるヨ。そして何されるか分からない。なりかけとは言え魔法猫、魔法猫を自分のものにしたい王侯貴族はこの城にはぞろっといるからネ)


(じゃあどうするの?)


(しょうがない、あっちはこっちの目的知ってるし、正面突破と行くかィ)


 ヴィエーディアは胸を張って、真っ直ぐ庭園を突っ切って行った。



     ◇     ◇     ◇



 他国の王族が宿泊するナーラ宮殿に、ヴィエーディアはひょっこり顔を出した。


 当然、今の宮殿の客人はブール国のエルアミル王子とその一行だ。


 客人がいる今、許された者しか入れない宮殿に、すたすたとヴィエーディアは歩いていく。


「ん?」


 警備をしていたリッターが、薔薇の茂みから出てきたヴィエーディアアルプ乗せを見つけて槍を構え……力が入らない声で誰何すいかする。


「ヴィエーディア殿? ここはエルアミル王子の寝所でございますから……」


「何かあたしに見られてまずいものでもあるんですかィ?」


「いや、そうじゃなくて……」


「ヴィエーディア殿か?」


 扉が内から開かれ、金の髪のエルアミル王子が姿を現す。


 チラリとアルプを見て、そして視線をヴィエーディアに降ろす。


「お散歩中で?」


「まあそんな所ですねェ」


「ちょうどいい所に。これからお茶にしようと思ったのですがいつもの顔ではつまらぬもの。魔法の勉学も兼ねて私とお茶を一緒させていただけませんか」


「あたしは構いませんが、そっちには構うのがいるんじゃないんですかねェ」


 リッターは露骨に渋い顔をしている。ルイーツァリは綺麗にスルー。ストレーガはまだ戻っていないが、戻ってきたら怒り狂うことだろう。


 だが、エルアミル王子は頷いた。


「どうぞ、ご一緒に」


「じゃあ失礼させてもらいますヨ」


「リッター、ルイーツァリ、しばらくこの近くに人を寄せないように」


「……はい」


「了解しました」



「本当によかったんですィ?」


 王族しか飲めないような高級なお茶を一口飲んでから、ヴィエーディアは聞いた。


「ああ。こうでもしないとアルプくんとも話せないからね」


「……やっぱりお知り合いでしたかィ」


「おうじさま」


 アルプはヴィエーディアの様子を見て大丈夫なのを確認してから声を出した。


「ああ、アルプくん。やっぱり……そうなのかい?」


「うん」


 アルプはひげを立てて頷いた。


「やっぱり、おうじさまから、ぼくのきんのハートのにおいがする」


「王子から、ハートのねェ……」


「匂い違いということはないのかい?」


「有り得ない、と言えるネ」


 ヴィエーディアは紅茶で唇を湿して首を振った。


「今の御猫様には、あたしの感知魔法と魔法道具を組み合わせて、金のハートを確実に嗅ぎ取れるようになっている。あたしと御猫様の共同魔法をお疑いになられるって言うんなら別だけど」


「それはないよ。……しかしどうやって金のハートが僕の中に入り込んだんだ? 僕は魔法力を持っていない。だから自分の中に魔法力があるなんて言われてもさっぱりだ」


「ン~」


 ヴィエーディアはアルプの魔法力と自分の魔法力をかけ合わせて、王子を見る。


「ああ、間違いない。エルアミル王子、あんたから間違いなく金のハートの魔法力がするわ」


「一体どうして……」


「御猫様は? 元々の持ち主はどうなんだい?」


「ぼくはわかんない……だけど、おうじさまからぼくのハートのにおいがするのはまちがいないんだ」


「そうだねェ……あたしも間違いなく感じるよ」


 ヴィエーディアも難しい顔をして同意した、

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