第4話・きんのハートのにおい
「フィーリア、君が頷いてさえくれればここから出してあげられる。欲しいというなら宝石もドレスも好きなだけあげよう。だから……」
「そんなもので
「いや、そうじゃない。ただ、君は……」
「わたくしは、貴方の本音が聞きたいのです、エルアミル様」
「僕は……」
エルアミル王子は少し顔を伏せていたが、きっと顔をあげた。
「僕は……ジレフールが大事だ」
決意を込めた瞳。
「ジレフールの為なら何でもやると決めた。フィーリア……君とのことも」
「ようやくエルアミル様の本音が聞けた気がしますわ」
アルプの黒い毛を撫でながら、フィーリア王女はほう、と息を吐いた。
「では、その覚悟を、しっかりと行動に移してくださいまし。ジレフール様が大事なら、できるだけお急ぎにになった方がよろしいかと。口先だけなら何とでも言える……王子、貴方の本音が、口だけとは言われないように」
「……ああ」
エルアミル王子は立ち上がった。
「僕だ。出る」
扉の向こうに声をかけると、鎖がぐるんぐるんと外れて、鍵が開き、騎士と魔法使いの老人が待っていた。
ふと、アルプは顔をあげた。
なんだか、においが、する。
「では、フィーリア、近いうちにまた」
「ごきげんよう」
再び鎖が巻きついて鍵がかけられ、四人の足音は下へ下へと遠ざかっていく。
その音が、アルプにも聞えなくなって、安全だと確認してからアルプはフィーリア王女を見上げた。
「いまのがエルアミルおうじさま?」
「ええ」
フィーリア王女は軽く肩を
「アルプさんが来たと知って、様子を
「なんで?」
「この塔は、レグニム国とブール国の両方の魔法使いによって封印されているのですわ。わたくしを出さないために」
「でも、ぼくがきたから?」
「ええ。どうやってこの塔に入って来たかが不思議だったのでしょう。塔を出入りする方法は二つ。物理的に上り下りするか、魔法で入ってくるかですわ」
「そうか。だから、ぼくがまほうねこかだなんてきいたんだ」
「そうなんです。アルプさんが魔法猫だなんて知られたら、わたくしたち、引き離されてしまいますわ。だから、塔によじ登ってきた猫さんと言うことにしたかったのです。……ごめんなさい、相談もなしで」
「ううん。ぼくこそごめんなさい」
まほうのちからがあれば、かんたんにおうじょさまをそとにだしてあげられるのに。
そう言ってしゅんと尻尾の下がったアルプに、よしよしとフィーリア王女はその頭を撫でてくれた。
「アルプさんがいてくれるだけで、いいんですのよ」
「でも」
「こうやってお話ができるだけで、充分わたくしは満足していますのよ。だから、自分には何にもできないなんて、思わないで」
「おうじさまって、まほうねこつれてるのかなあ?」
「エルアミル様が? ……さあ。確かに高貴なる者は魔法猫を欲しますけれど、エルアミル様が魔法猫を連れていると聞いたことなんて……」
「じゃあ、やっぱりきのせいなのかなあ」
「エルアミル様に、何か、ありましたの?」
「きんのハート」
「金のハート? エルアミル様がアルプさんに感謝していたのですか?」
「ううん、そうじゃない。かんしゃのこころじゃなくて、それがまほうねこのなかにはいってきて、きんのハートになるの。おうじさまから、そのきんのハートのにおいがしたの」
「金のハートの……?」
フィーリア王女は不思議そうに考え込んだ。
「もしエルアミル様が魔法猫を連れていたとしたら、……アルプさんが魔法猫だってことにすぐに気付いたはずですわ。アルプさんは魔力を完全に失ったわけではないのですから」
「うん……」
「何故エルアミル様からそんな気配がしたのかしら……」
「わからない。だけど、わかることがたったひとつあるんだ」
「何ですの?」
「あのきんのハート……ぼくのだった」
「ええ?」
「ううん、そんなかんじのにおいだったってだけなんだけど」
「でも、アルプさんはこの塔の近くで魔法の力を失ったんですわよね?」
「……うん」
「わたくしは良く知らないのでお聞きしますが……魔法猫さんの魔法の力は、猫さんによって違うものなんですの?」
「うん、においがちがうんだ。ひとはきんのハートはきんいろのちからっておもってるけど、ほんとはまほうねこいっぴきいっぴきでちがうの。うん、きょうだいとかでにてるにおいもあるけど……」
「アルプさんには御兄弟は?」
「いっしょにうまれたのはろっぴきだけど、ぼくいがいはみんなただのねこだった」
「ただの、猫?」
「うん。まほうねこのおとうさんとおかあさんからうまれても、こどもがまほうねこになるとはかぎらないんだって。ぎゃくにふつうのねこからまほうねこがうまれることもあるっておかあさんいってた」
「そう、なんですの」
「でも、ぼくのまえにうまれたきょうだいがまほうねこだったってきいてるから、もしかしたらそうなのかもしれない。だけど……」
「気になるなら調べてみてはいかがかしら?」
「しらべる?」
「ええ。貴方の瞳、この塔に来てから随分金色がかってきました。わたくしを連れ出すことはできなくても、自分だけがこの塔を出ることは出来るでしょう?」
「できるけど……それじゃおうじょさまがひとりぼっちになっちゃうよ」
「ああ、なんて嬉しいことを言ってくれるのかしら!」
フィーリア王女はアルプをぎゅっと抱き締めた。
「構いませんのよ。貴方が外で見て聞いたことを教えてくれれば、それだけで。もう半年塔の中、外のことはさっぱり分からなくなってしまいました。アルプさんが外のことを聞いて見て教えてくれれば、わたくし、充分幸せですのよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます