夜の街に立つ将校
「それで、足取りは掴めたのか?」
「はっ、捜索範囲は広げていますが、未だ捕捉出来ておりません。やはりあの女の部隊です。見つけるのは困難かと…」
夜の町にその将校は立っていた。中将以上の者特有の白のロングコートを羽織り、紙タバコを加えているその男は、部下の兵士の報告を聞くと加えていたタバコを投げつけた。
「それでも“陸軍第一大隊"の兵士か?」
鋭い眼光に兵士はたじろぐ。
「ひぃぃ、すすすいません!」
「なんでもいいから情報持ってこい、このタコ!早くいけ!」
男は兵士に蹴りを入れ吹き飛ばし、懐からタバコを取り出して火を付けた。側にいた違う兵士を呼び坂道を上がっていく。
「それで、あの中にはまだ誰かいるのか?」
「はっ、三名の市民が薬で眠らされておりました。この食堂を営むアキタトウジロウ氏、妻のアリス氏、長女のアキ氏と確認しました。三名とも負傷はありません。先程トウジロウ氏が目を覚ましたので、現在事情聴取を取っております」
「他には?」
「はっ、実はこの家にはもう一人の息子がいるようなのですが、中や付近を捜索しても見つかりませんでした」
「その情報は何処からだ?」
「近隣の住人への事情聴取からです。名前をマサノリと言うそうで、第三六支部の第三庁舎食堂で働いていたそうです」
「何?」
「あの女の部隊も同じ社屋にありました。接触していた可能性が高く、重要参考人として捜索を急いでいます。さらに…」
「他にもあるのか?」
「えぇ。これはあくまで噂としての情報なのですが、このマサノリという人物が実はアルヴェロン家の死んだ長子、タカ=アルヴェロン少将の一人息子だと言うのを総務局の同期に聞きまして。あくまでも噂として頭に留めていたのですが、このタイミングでのこのマサノリという人物の失踪がどうにも関係していると思いまして。お耳に入れておいた方が良いかと」
「なるほど…あの"竜眼事件"のが…」
「ですがあくまでこれは確証の無い話です」
「いや、何かあるかもしれない。その件はお前に任せる」
「はっ。畏まりました」
「それと、さっきこの家の奥さんの名前だが」
「はっ、アリスというそうです」
「その奥さんの経歴を調べろ。報告が上がり次第、私が直に聴取する」
「はっ。畏まりました!」
部下はそのまま男から離れていった。
男は立ち止まる。目の前には"アキタ食堂"と書かれた看板が立つ店があった。
アキは扉の閉まる音で目覚めた。
「ここは?」
まだ意識がはっきりしない中で徐々に周囲の情報を得ていく。
「お父さんの、部屋?」
そこでようやく意識がはっきりした。
「マサノリ!」
意識を失う前、マサノリの叫ぶ声が聞こえた。
「私、それで…わからない…」
窓を見ると、閉まったカーテン越しにまだ夜だという事がなんとなくわかった。
アキは起き上がろうとした。瞬間、隣から口を塞がれた。
「アキ!静かに!」
隣で布団の中にいたのはアリスだった。
「ーーー!?」
「静かにして!」
聴き慣れた声にアキは沈黙した。
「いい子ね。あのね、落ち着いて聞いて…」
口を塞がれたままアキは小さく頷く。
「マサノリがいなくなったの。私が気が付いたらお父さんは軍の人に連れて行かれるし、全く状況が分からない。何より…」
アキはアリスの身体中の毛が逆立つのを感じた。
(お母さん、怒ってる?)
部屋の奥から叫び声が聞こえてきた。アキにはそれがトウジロウのものだとすぐに分かった。
(お父さん!?なんで!?)
アキが異変に気が付いたのを察したアリスは感情を押し殺した小声で囁く。
「アキ、首だけ動かして返事して…」
アキは縦に首を振る。
「どこか痛い所はある?」
横に首を振る。
「今すぐ、動けそう?」
少し考えて縦に首を振る。
「今から私の言う通りに動ける?」
更に縦に首を振る。
「じゃあ、今から言う事をちゃんとするのよ。手を離したらそこから始めて」
アキは首を縦に振った。
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