第34話 王都
王都までの道中、騎士団の俺への扱いは実に丁重だった。
たぶん騎士たちはフレア…否、フレアーヌの部下で、丁重に扱うようにと言われているのだろう。
とはいえフレアーヌ自身とは同じ馬車ではないため話すことができなかった。できればこういう機会だし、最後に彼女が何を思って行動しているのか腹の内を探れればと思ったのだが、そうそううまくはいかない。
そもそも俺はこれからどうなるのだろうか。
死刑になったら痛いんだろうか?
もしかしたら拷問を受けて国家反逆罪とやらの思惑をはかされるのかもしれない。俺は痛みにも苦しみのも耐えられる気がしないから、すぐ相手の思惑通りのことを喋ってしまうだろう。
考えれば考えるほど悪い方へ思考がいってしまい頭がおかしくなりそうだ。
どうなろうがこれから来る現実を回避できる力なんてないし、それを考えられる脳みそは持ち合わせてない。エルヴァネのような頭脳も、レージェストのような力も、ヨルドのような機転も、俺はなにも持っていない。現状は素っ裸で砂漠に放り出されたようなもの。ただ貴族というだけで、彼らのようなすごい仲間を得ただけの男だ。俺には何もない、その現実だけがヒリヒリと目の前に横たわり俺を締め付けてくる。
「あの、俺これからどうなるんでしょう」
俺は同じ馬車に乗っている眉間に皺を寄せた若い兵士に聞いてみた。
しかし彼は俺の言葉などまるで聞こえてないようで、何もない正面の方を変わらず見続けている。
俺の声が小さくて届いてないのかもしれない。そう思い、もう一度少し大きな声でその兵士に語りかけると、ちらっとこちらを見て、すぐにまた正面を見る格好に戻ってしまった。
「余計なことは喋らない決まりですので」
騎士はそう一言だけ付け加えてくれた。仕事熱心な人なのだろう。誰が見ている訳でもないのに、言われたことを忠実にこなす。さすが国の騎士団だと思った。
道中は長く暇なのでここにメイドのアンでもいたらよかったのにと思った。彼女がいれば、ずっと同じ景色が続いている道だって飽きることなんてないだろう。彼女の見る景色はなかなかに独創的で唯一無二な感性を持っているため、外の景色を少し見てるだけでぽんぽんと面白いことを言ってくれる。
やれあの雲が白パンに見えるだの、あの雑草の茂みには
「ゲシュタル様、王都が見えてまいりました」
馬車の横に馬が一頭寄せられ、その馬に跨るフレアーヌからそう声がかかった。俺は彼女の視線の先を目で追う。
すると、まさに物語で出てくるような洋風の城と城下町、そしてそれを大きく囲む城壁が草原の中に壮大に佇んでいるのが見えてきた。
「すごい…」
ポロッと本音が出てしまう。何回も来てるのにはじめて来たような俺の感嘆の声を疑問に思ったのかフレアーヌは少し眉を寄せ、しかしそれをうまく解釈してくれたようで俺に続いて王都の感想を漏らす。
「何度見ても、やはり王都は素晴らしいですよね。この王都を守る騎士であることを誇りに思います」
「あ、そうですね! 何度見ても良い!」
王都へ続く巨大な門には警備の兵がたくさん居て、通る時のその視線が痛い。いつかはくることになるとは思っていたが、まさか罪人となってこの門を潜ることになるとは想像してなかった。罪人でなかったら彼らの視線はもう少し軽く見れたかもしれない。
城下町を騎士団先導のもとずいずいと進み、ついに城の前までやってくる。遠くからみるよりもやはり間近で見る方がその迫力は凄まじく、壁の風化で削れたところにさえその長い歴史を感じ、畏れを抱く。
馬車から降り、広く暗いどこだかわからない場所を突き進み、豪華な階段を登る。すると一層豪華な大きな扉の前にたどり着いた。
「王の間です。ここから先はお一人となります」
フレアーヌはそういうと、周りにいた部下たちを少し下げ人払いをした。
「ゲシュタル様。私はあなたの志を支持しています」
「!」
「だからこそ王の前では嘘をついてはいけません。
王は鋭い方です。ゲシュタル様は少し顔に出やすいところがあるので、すぐ嘘は見抜かれてしまうでしょう」
「フレアさん…あ、フレアーヌさんでしたね。ありがとうございます」
「フレアでいいですよ」
やはりフレアーヌの本心はわからない。時折見せるその表情は、暖かく優しい。しかし、王国騎士の1人である彼女が罪人に助け舟を出すだろうか?
エルヴァネの話を聞く限り、今の王は愚王だ。この国を悪い方向に転がしている張本人。相当なクズかもしれない。もし彼女の助言のように本心を言ったが最後、首がとぶこともありえる。
「ゲシュタル様、それでは扉を開けます」
「…はい」
心臓がすごい速さで鼓動するのが伝わってくる。生唾をごくっと飲む音がフレアに聞かれていないだろうか。ここまで来たら俺も男。覚悟を決め、立ち向かうしかない。
はじめから怯えていては、どんなことも上手くいきっこない。今は俺を助けてくれる味方もいない。俺は1人で戦わなければいけない。
「(落ち着け、俺)」
握りしめ汗で湿った手を解く。肩の力を抜き、扉が開くと同時に足を踏みだした。できるだけ堂々と。今だけは丸まった背筋をスッとあげ、視線は高く。
王の間は光が存分に入るような構造になっているようで、薄暗かった扉の前までとの差で目が眩んだ。王の顔は光で見えない。
部屋の中央あたりで足を止め、膝を地面につけ頭を下げる。
「デロンド・ゲシュタルでございます」
一瞬の沈黙が永遠にも感じられる。ヨルドに教わった通りにやったが何か間違っていただろうか、などといったことが頭を駆け巡る。しかし誤りではなかったようで、王は口を開いた。
「
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