165.お箸

「箸の使い方教えてほしい。そろそろ日本人じゃないってバレそう」と純日本人顔の女が懇願するもんだから、俺は、え? と一瞬思考が停止した。


 食堂のカウンター席で一人黙々と食事をしていたら、俺の隣に座ってきて、アクリル板越しに話しかけてくるなんて、何かのイベントでも発生してしまったのかと俺は混乱する。


 話を聞くと、彼女は帰国子女で、フォークやスプーンだけで食べられる洋食しか頼まないことを食堂のおばちゃんに訝しく思われているのではないか、と心配しているようだった。

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