164.天の采配

「すみません、これ貰ってくれませんか? 嫌いなブラックコーヒーが出てしまって」


 男は両手に缶コーヒーを持ち、片方を俺に差し出してくる。

「なぜに?」何か変な物でも入れられているかもしれない。俺は怪しいなと思ってそう尋ねる。


「自動販売機のボタンを左右同時に押すと左側が優先される『シークエンス制御』が機能しているか試そうと思って。そしたら、両方出てしまったわけですよ。バグですかね? 隣も同じ飲み物だったんで、ちょうど通りかかったあなたに」


 いや、もっと慎重に位置選べよ。ふつう、どっちが出てきたとしても嬉しいっていうか、自分が飲みたいものをチョイスするだろ。……という心の声を押し殺し、ありがとうございますと俺は言った。

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