変化する未来




 自分の命を狙うボスである一体の雀を目にした事で、恐怖と緊張が最高潮に達してはそのまま突破し続けると同時に、ヘリウムガスを吸った時のような自分の超高音の声に笑いが止まらなくなった私は、気絶するまで笑い続けていたらしい。


 とりあえず、命の危機は脱したから安心してね。

 気を失う直前のこれが、おばあさんからの最後の言葉だった。




 怒涛の一日だったが、過ぎてしまえば、いや、実際に体験している中でも、どこか、夢うつつだった。

 夢だったんだよ。

 誰かにそう言われたら、確実に、そうだよね、夢だよねと笑って言えるのだが。

 と言うか、笑って言い合いたいのだが。

 現実は無常である。




「よかったっす。声が高音になっても、あなたの【ゆらぎ】は変わらない。いや、それよりも、より強くなっているっす。これで、より、柔軟な【ゆらららぎ】が開発できるっす。未来に向けて、俺はやるっす。だからこれからも協力お願いするっす」


 第一に、私の声はヘリウムガスを吸った時のような高音のままである事。

 自分の声で笑い死にしそうになる事が、度々。

 家ならまだしも、学校の、しかも授業中でも笑ってしまって、先生に怒られる事を通り越して、どうにかならんかと泣きつかれた。

 私だってどうにかしたいが、どうにもならない。

 このままでは大学受験に支障をきたしかねないと危惧しているので、私も先生にどうにかしてくださいと泣きついた。

 どこか大学病院とか実力のある病院を紹介してください。


 第二に、開基君が、やたら私に接触してくる。

 開発の説明をしても、開発道具を見せても、私にはさっぱりわからないので、見せて来るだけ損である。もっと、話の通じるやつに見せて来てください。

 協力は、しょうがないからするけど。


 第三に。


「あ、」


 だめだ。笑いの後遺症が。

 私は口頭を諦めて、文章で伝えた。

 ぎんくんに擬態しているニイサに。

 そして、ニイサの肩に乗っている一体の雀に。


【未来から来て、私の声を戻そうとしてくれるのは有難いんだけど、そんなに未来と過去って行き来していいの?時空間のひずみ?とか生じて、世界が崩壊したりしないの?】

「何度も言っているが、そんなものは生じない。過去を変えようとしているわけではない。未来でおまえの身に起こった異変を元通りにする為に来ているのだからな」

【はあ。では、お願いします】

「ああ。頼みます。ボス」

「はい。中井恵様。度々訪れて申し訳ありません。一度で解決できたらよかったのですが。まだあなたの声の変質の原因がわからないので、今回も調べさせてください」

【はい。お願いします】




 未来は危機を脱した。

 まだ不安要素は残っているので、とりあえずではあるが、危機は脱した。

 私の声を犠牲にして、

 うん。

 多分、私の声が犠牲になったから、危機は脱せたんじゃないかな。

 違うかな。

 犠牲損ってやつかな。

 どうだろう。




「大丈夫だ。おまえの声は戻る。戻らずとも、おまえの歌声は最高だから、是非とも歌ってほしいのだが。おまえの命に関わるので、今はまだ求めない。声が戻った時に、頼む」

「是非とも未来にお越しになって、歌ってください。未来の中井恵様も、きっと、もう一度元気なお姿のあなたと会いたいと思っていますよ」

【はあ。まあ、そうですね。一度だけなら】




 元通りの声で歌うのか。

 それとも、

 笑いの後遺症を克服して、高音のままで歌うのか。




 今の私にはまだ、わからない。

 未来はまだ、いや、いつだって、決まっていないのだから。




【いや、でも、おばあさんの声が変わっていないなら、元通りの声になったのかな?うん?あれ?おばあさんの声って、どんなだったっけ?】











(2024.6.27)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

莠の凪 藤泉都理 @fujitori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ