鉄筋と田んぼと雀




 未来にて。


 私を、おばあさんを、ニイサを待ち受けていたのは。

 無造作に、大雑把に組み込まれた鉄筋。

 水が浸かった田んぼ。

 そして、この頃姿をあまり見なくなった無数の雀たちだった。


 あれがボスださっさと歌え。

 ニイサに急かされた私は、何でもっと情報をくれなかったのか、何でもっと綿密な、いや、綿密でもなくていいから作戦を立てなかったのか、ぶっつけ本番が一番ダメだよと不平不満を巡らせながら、校歌を歌った。

 それはもう自分の命を守る為に、必死に歌った歌いまくった。

 けれど。

 それではダメだとニイサに言われた私は、いつの間にか、ニイサの身体から顔だけではなく全身が抜け出していた。


「い、いやいやいやいや!ちょっと、中に入れてよ!」


 敵ではないかと疑いながらも、身体の中に居た方がまだ安心感があった。

 剥き出しの身体(いやちゃんと洋服は着ているけれども)になって強くそう感じてしまい、回れ右をしてニイサの元へと駆け寄ったのだが、ニイサはダメだと言っては、ぴょんぴょんぴょんと鉄筋に飛び移っては、どこぞへと行ってしまった。あっという間に姿を消してしまったである。

 おばあさんはニイサに取り込まれたままである。

 つまり、私は置き去りにされた。というわけだ。


 やっぱり、罠だったのだ。

 ボスから指令が出ていたのだ。

 抹殺するのはオレがする、おまえは連れて来るだけでいいとか何とか。


 ボスである無数の雀たちは、不気味なほどに微動だにせず、私を凝視している。

 いや、私が気付かないだけで、あの愛くるしい漆黒の円らな瞳から、何やら怪しいビームでも発射していて、私の命を蝕んでいるのかもしれない。


 もしかしたら、私の歌も、効果が皆無かもしれない。

 逃げ足が速ければ、すたこらさっさと逃亡を図るのだろう。

 しかし、私の脚力は逃亡を図るには絶望的である上に、そもそも足はもう使い物にならなかった。ニイサに置き去りにされた私の足はもう、動かす事ができなかったのだ。

 だったら、

 だったらもう、今の私のできる事は。

 歌、のみである。











(2024.6.25)



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