易々スヤスヤ




 未来にて。


 私は共にニイサの身体に取り込まれているおばあさん(現在の中井恵)に、或る懸念を伝えた。

 これは、罠ではないか。


「罠ですって?」

「そうですよ。よくあるじゃないですか。本とかテレビで。いかにも悪人面の人間が、実は味方ですよ組織に嫌気がさしちゃって~とか笑いながら近づいてくるものだから、警戒心が薄れて、危機的状況で助けられちゃったりもして、味方だと安心しちゃって。でもやっぱり、最後の最後で裏切るんですよ。自分は組織に忠誠を誓った身だ悪いな。とか何とか言って命を奪おうとするんですよ」

「………つまり、今は味方の振りをしているけれど、ボスの元に辿り着いた途端、豹変するわけね?私たちを抹殺しようとするわけね?」

「そうですよ。それしか考えられませんよ。どうして信用しちゃったんですか?どうして敵の身体に易々とスヤスヤと取り込まれてるんですか?」

「あなただって、人の事は言えないでしょうに」

「私は気絶している間に勝手に取り込まれていたんですよ?意識があったら抵抗していましたよ必死に」

「あらでも困ったわ。そんな事、思いつきもしなかった。だめねえ。年を取ると。優しく接してくれる全員が善人にみえてくるんですもの」

「だから、高齢者は詐欺に引っかかりやすいんですかね?」

「どうかしら?人それぞれ、高齢者もそれぞれよ。でも。あら。どうしましょう。がっちり固定されていて逃げられないし。どうして現在の開基君に助けを求めなかったの?結構な時間一緒に居たのに」

「あの時は思いつかなかったんですよ」

「しょうがないわねえ」

「何か、武器とかこっそりもらってないんですか?現在の開基さんに」

「いいえ。頑張れよ。応援しているからなって。必死に無事に帰って来る事を祈ってるからなって、見送られただけね。【ゆらららぎ】の製作に必死だったし。他の事を考えている余裕はなかったのかも」

「役に立つのか立たないのかよくわからない人ですね」

「そんな事を言わないの。とりあえずお願いしましょうよ」

「ニイサさんにですか?命乞いですか?」

「命乞いなどしなくても命を奪わないと言っただろうが」

「信用できません」

「信用するわ」

「現在。じゃなかった。過去?ああややこしい。私が居た世界でぎんくんを操っていたのはあなたなんでしょう?開基君の手紙には書いてなかったけど、さっきおばあさんに話を聞きました。私に歌わせる為だって。より正確に私に擬態する為にって。それだって本当かどうか。隙あらば、ってやつじゃないんですか?」

「疑い深い子ねえ。もっと人を信用しないとダメよ」

「命が懸かってるんです。疑い深くもなりますよ」

「ふん。まあいい。好きなだけ疑っていろ。疑うだけでおまえたちは何もできないのだからな」

「歌う事はできますよ」

「俺は【はぐさ】ではない。ゆえにぎんくんのようにおまえの歌声で制止しない。っふ。だから、刺客として旧タイプの俺が選ばれたわけだがな」

「大丈夫ですよ。大丈夫。話していればわかりますよ。ニイサさんは私たちを殺したりしません。ニイサさんが信用できないなら、私を信用しなさい。あなた自身を信用しなさい」

「………自分自身を信用するって、実は一番難しいって、知ってますか?」

「ああ言えばこう言う子ね。まあいいわ。思春期真っ盛りですもの。それでいいわ」

「万事解決だな」

「ええ」

「いや何も解決してないんですけど」

「無駄話は終わりだ。辿り着いたぞ」


 ニイサの言葉に、私は意識を初めて、おばあさん(現在の中井恵)とニイサ以外に向けた。

 そこで待ち受けていたのは、











(2024.6.25)



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