第25話 ひなげしの形

 ひなげしの形がうまく描けないのだと彼はいった


 ふんわりとまるみを帯びた

 やわらかなおわんのような形

 細い茎の先に咲かせる花は

 薄紙のような、繊細な赤


 キャンパスに描かれたそれは

 どこからどう見てもひなげしで

 そこにある鉢植えのひなげしより

 ずっとひなげしらしいひなげしで

 いったいなにがダメなのか

 あたしの目にはさっぱりわからない


 このこだわりこそ、彼を天才たらしめる所以――かどうかは知らないが

 彼はひなげしの鉢植えをじっと、ただただじっとみつめている


 その視線を一身にあびて

 ひなげしの花もなんだかすこし恥ずかしそう


「ひなげし、むずかしい」


 つぶやきながら彼はスケッチを手にとる

 最初からやり直そうというのか


 彼が自分で描いたひなげしの形に納得するまで

 まだ当分かかりそうだ


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