第2話 風になれたら

 ヒューヒュー

 ゴーゴー

 暴れる風に浮かぶきみのほほ笑み


『風になれたら、嵐を起こしてぜんぶ壊してやるの』


 いつも穏やかにほほ笑んでいたきみが

 穏やかにほほ笑んだままそんなことをいうものだから

 ぼくはひどく驚いてしまったんだ


 今ならわかるような気がする

 きみだってほんとうは怒っていたんだ

 きみがいちばん怒っていたんだ


 だけど


 きみより先に家族が泣いてしまったから

 きみより先に友だちが怒ってしまったから

 きみは笑うしかなくなった


 怒りも悲しみも

 不安も恐怖も悔しさも

 悟りきったような静かな笑みの下にぬりこめて


 ヒューヒュー

 ゴーゴー

 たけり立つ風にきみの声を聴く


『風になれたら、嵐を起こしてぜんぶ壊してやるの』


 きみが消えてしまったあの日から

 いつしかぼくは、知らないうちに嵐を待ち望んでいる


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