第3話 『ダメな兄』

「......ホカノオンナノニオイガスル」

「そ、そりゃするだろ。学校行ってんだから」


 俺が帰宅して手洗いうがいをしていると、いきなり後ろから花織かおりに抱きしめられて、匂いを嗅がれた。俺がうがいを終えて鏡を見ると、怖い目をした彼女が映っており、先ほどの言葉を呟いたのである。


「......違う。これは、お兄ちゃんに触れてるよ」

「な、なんでそんなこと分かるんだよ......」

「濃さ」


 どうやら、匂いの濃さの話をしているみたいなんだが......納得できないから。大体、人が触れただけでその人の匂いがするなんて、人間の嗅覚では判断できないんじゃないか?いや、中にはそういう凄い人が居るかもしれないけど......それが花織なのか?


「正直に!」

「......あいっ!」


 怖い顔で鏡越しに睨まれて、空飛ぶ青い猫みたいな返事をしてしまった。


「えっと、教室で挨拶された時に触られました」

「誰に?」

「隣の席の女子に」

「違う。私は誰かを聞いてるの。名前を聞いてるの」

「名前を聞いてどうする気ですか?」

 

 さっきまで無表情で俺に責め立ててきた花織の表情が少しだけ微笑んだような表情を浮かべた。


「別に。何もしないよ」

「お、俺身内から殺人犯がでるのは嫌だなぁ......」

「私は何もしないよ。ただ、その人が自分から......」

「お、落ち着け!悪かった!俺が悪かったから!」

「お兄ちゃんは何も悪くないよ。その女が悪いの。だから、罰を受けてもらわないと」


 俺は花織の暴走を止めるために、抱きしめられている腕を解いて身体を反転させて、花織と目を合わす。

 花織は俺より身長が低いので少しかがんで視線の高さを合わせて、そのままキスをした。

 

「お、落ち着いたか?」

「う、うん。嬉しい......もっと」


 花織が俺の首に手を回し俺を引き寄せてキスをしてくる。今度のは舌を入れてくるタイプのキスだった。

 昨日の花織との一部始終が脳内再生され.......俺の聖剣が抜かれる準備をし始めた。


「......ふぁ、ふぁふぉふぃ」


 俺は花織を無理矢理引きはがし、冷静になろうとする。俺と花織はれっきとした正真正銘の兄妹なんだ。これ以上危ない橋を渡るのは止めないと。


「ぶー、もっとしたかった.......なーんだ、そういうことか♪」


 花織が頬を赤らめながら俺の聖剣を見つめている。


「こ、これは!違うんだ!」

「隠さなくていいよ♪私が鎮めてあげるから」

「だ、大丈夫だから!自分で何とかできるから!」


 結局花織を止めることは出来なかった。いや、力づくで止めようと思えば止めれたんだろうけど......止めることが出来なかった。

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