第2話 依頼
俺ら盗賊が依頼を受けるのは、個別。
依頼者とは直接会わず、依頼の紙をもらい依頼をこなす。金のやり取りは、ギルドを通してのもの。
そんな依頼の管理は俺の仕事。
盗賊ギルド応接室。
「……で、依頼ってなんでしょうか?」
俺は目の前座っている依頼者に声をかけた。
依頼者はフードを深く被っていて、顔は見えない。
直接依頼をしてくる者というのは、ロクなやつらじゃない。何があってもいいように、ポッケに入っているハンカチを握りしめる。
「そ、うだ。依頼、依頼だ」
依頼者は思い出したかのように、横においてあるカバンからボロボロの紙を取り出した。
ところどころ破けていて、シミもついている。
だが、かろうじて文字は読めるようだ。
『 【依頼】
王城に隠されし剣を盗み出せ
【報酬】
500億ジュール 』
目を疑った。
「ご、500億ジュールですか?」
「あぁ」
依頼者は変わらない声のトーンで答えてきたので、嘘ではないらしい。
声から用意があるというのも予想できる。
「王城に隠されている剣。……どこにあるのか、検討もつかないと?」
「あぁ」
「なるほど……」
俺はもう一度依頼書をじっくり眺める。
依頼者が、依頼書を取り出したときに見えた手。その手ではこの豪快な字は書けない。
すなわち後ろに依頼者のことを俺に依頼させに行かせた、誰かがいるということ。
……そういえば以前マインが魔法で他者の視覚を、リンクさせることができると自慢げに話していた気がする。
「王城に忍び込んで、剣を盗む……。それで500億ジュールか」
依頼者を別の人間にし、本物の依頼者はどこからか盗み見している可能性。
依頼内容は一歩間違えれば、俺たち全員の人生が終わる。
そう考えると、500億ジュールは妥当だ。
俺はこんなリスクを犯して大金を手に入れたくはないので、断りたい。だが……。
「仲間と相談させてください。流石に、こんなリスクを背負った依頼は俺の一任で受けられない」
「……あぁ」
✙
「と、言うわけなんだ」
「いいじゃないその依頼! 受けましょ。受けるのよ!」
「そ、そ、そ、そんなに金もらえたら一体何人女抱けんだよぉおおおお!!」
ザイとマインは、目を輝かせながら言ってきた。
あやしい依頼者のこと、今までで断トツ危険な依頼だということを全て話したというのにこの反応。
「なぁ、いいか。正直俺は今回の、あんまり乗り気じゃない」
「へ? なんでだよ。お前、俺らと同じで金大好きじゃなかったのか?」
「いやまぁ金は大好きなんたけどさ……。なんだろ、なんか嫌な予感? というか、裏がある依頼者が出してきた依頼なんてロクなもんじゃないと思うんだ」
「はっ! 逆に聞くがこれまで裏がない依頼者なんていたか?」
「そう言われるといないんだけど……」
「だろ! じゃあ依頼受けようぜ」
俺はザイの説得に、首を縦に振りそうになった。
だがどうしても俺の中で今回の依頼はなにか引っかかって、受ける気になれない。
「でもなぁ〜……」
「もう! どうしたのよリーダー。いつものリーダーなから、受けないなら受けない。受けるなら受けるってすぐ決断してたじゃない」
俺は確かにそうだ、とマインの言葉に自分のことながら思った。
今回の依頼、あまりにも大きいリスクを背負うので受けたくない。だが受けなければならない、という使命感が頭の中で渦巻いている。
その渦巻きは、盗賊としてまたとないチャンスを逃すまいという本能なのか。
「わかった……。受けよう、うん。受けることにしよう」
「やったぜぇ!! 俺は億万長者だッ!!」
「やっほー!!」
二人はまだ依頼を受けると決まっただけなのに、まるで依頼を遂行したかのような反応をしてきた。
「チッ……うるせぇんだよ」
どこからか、俺たちのことを迷惑がっている声が聞こえてきた。
この酒場のような場所は、いつも来ている盗賊容認の酒場じゃない。たしかに少しうるさくしすぎたかもしれない。
「なぁ二人と……」
二人のことをなだめようとしたのだが、もう対面の席にいなかった。
どうやらもう遅かったようだ。
「んっぐっ」
「おいてめぇ……今俺たちのに向かって舌打ちして、うるせぇだとかのたまりやがっな?」
「はっ、なんなのよこれ。全然金持ってないじゃない」
ザイは男の胸ぐらをつかんで睨めつけ、マインはその男の持ち物である財布を漁っている。
これじゃあ、盗賊ではなくただのチンピラみたいじゃないか。
「ザイ、マイン。そこらへんにしとけ。……舌打ちされた程度で何そんな頭にきてんだ。依頼、受けんだろ」
「そうだ依頼だ! 俺ら億万長者だぁ〜!」
「こんなゴミ同然の男の財布なんて、漁る必要なんてなかったんだわ!」
俺が呆れながら店を出ると、二人は急に明るくなりついてきた。
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