孤独のカフェ巡り
人狼探しの三人同時恋愛関係を始めてから二ヶ月近く。
朝と夜は妹の
登下校はもちろんのこと、休日も三人のうち誰かと出かけることが多いため、一人の時間というものがほとんど無くなっていた。
美少女三人と付き合って、どんな時間もいちゃいちゃと。
全国の男子諸君からの嫉妬で呪い殺されそうな環境ではあるが、あいにくと九曜は、これまで嫌われ者のはみ出し者で通してきた人間だ。
人恋しさに他人に絡みに行くこともなく、どちらかといえば孤独を愛するタイプに属している。
それゆえに九曜は今でも、時折どうにか予定を調整し、一人の時間を作ることがあった。
今はちょうどそういった、九曜の貴重な孤独の時間だった。
授業の終わった放課後。
普段通らない道を通り、普段入らない店に入る。
そこでコーヒーを一杯頼み、ただ静かに時間を過ごすのだ。
この時間には自習もせず、本も読まず、頭を空にして、ただコーヒーの苦みだけを味わう。
そういう時間が今の生活には大切だと、九曜は考えていた。
——穏やかな孤独を、小一時間。
しばらくそうして孤独を堪能してから、九曜は頭のギアを一つずつかけ直し、思考を回し始める。
ここからは、静かな孤独とはまた違う、推理の時間。
告白してきた少女たちについて考える時間だ。
イルイの鐘の音によって示された人狼は、一人。
それから立て続けに、翠、夕、雪姫と、恋心の告白をされた。
そしてその恋心は、恋の呪毒という惚れ薬の効果だと考えるのが自然だ。この毒を飲んだ者の中に、人狼がいるわけだ。
そのうち、翠は魔法少女だった。少しゴタゴタがあったものの、最終的にはキスをして、九曜の魂が喰われることもなかった。
翠はシロだ。人狼ではない。これは確定している。
では、夕と雪姫はどうだろう。
九曜からすると、怪しいのは夕だ。
嘘が多く、九曜の行動を常に把握しているような様子が見受けられる。
翠との映画館デートを知っていたのもそうだし、プールに誘ったとき、よりによって九曜と恋愛中にして人狼疑いの人物ばかりを選んだのも不自然だ。
もし夕が翠と雪姫に恋の呪毒を盛ったのならば、彼女たちが九曜に恋心を抱いているのを知っていたのは当然のこと。
分かりやすく人狼ということになるが、どうか。
一方で、夕はたまにやたら不安定な精神を覗かせることがある。
新幹線での弾丸旅行の時などはそれが顕著だった。
また、九曜にご主人様と言ってみたり、弄んでいるのか、弄ばれたいのか、今ひとつ判断がつかない行動も見受けられる。
かなり状況を把握している一方で、それが崩れた時には弱い。
そんな夕の性質が、
雪姫については——正直なところ、まだよく分かっていない。
そもそも放課後なども、雪姫がバンド活動に時間を取られていて、九曜と関わる時間が他の少女たちと比べて少ない。
あえて距離を取っている、と見ることも出来るが、その割には毎晩九曜のベッドに潜り込んでくるのは妙な話だ。
過去を辿れば、幼い頃からいつも九曜に付いてくる妹ではあった。
同じベッドで眠っていたのもその頃からなので、兄妹をやり直したいという本人の言い分とは合致する。
ただ、単純に見れば、家族との血縁のことを考えても、昔からのことを考えても、雪姫が人狼というのは少し無理があるように思える。
かといって、雪姫の役能が何なのかはまだ見当もついていない。
どちらかといえば夕が怪しい。
とはいえ、まだどちらの役能も分からないので、どちらかの恋の呪毒を解除するまでには至らない。
あえて言うなら、二人のどちらが役能者であったとしても、その能力はイルイが知っているような対人狼に特化したものではなさそうだ。
翠の魔法少女のような、意味不明な能力を備えていると思われる。
こうなると、役能を判別するのに近道はない。
なんとか二人を揺さぶって、どちらかの役能を暴ききるしかないだろう。
これが現状を素直に考えた場合の認識だ。
ただし。
現状を仮にひねくれて考えてみた場合——
「————いや、この可能性はまだ置いておくか」
まずは夕と雪姫、二人の役能を探ることに集中だ。
可能性の話も、全てを解決するための道筋も、今はまだ必要ない。
一人でいながら結局、恋する少女たちのことばかり考えてしまうのは、自分にも呆れてしまう。
それでも残りおおよそ一ヶ月。
明日の満月と、一回りしたもう一度の満月。
最後の夜が来るまでに、真実に辿り着かなくては。
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