遊びの予定を立て続け
「ねー、
放課後、オカルト研究部の部室にて。
「遊びにって……また前みたいな地方グルメ巡りか?」
「ちーがーうー。……あれはマジで忘れていいから。デートだよデート。わたしたちはもっと恋人らしいことをすべきだと思うんだよねー」
「恋人らしいこと、ねえ……」
たしかに一理ある。
九曜が三股——今はほぼ二股——をして忙しいのもあるが、夕は夕で、九曜よりも取り巻きと休日を過ごしていることが多い。
地道に築く人間関係というやつなのだろうが、九曜からすれば到底真似できるようなものではない。
よくもまあ友人だとすら思っていない相手に、おべんちゃらをぺらぺらと口に出来るものである。その点において九曜はある種、夕に敬意すら抱いていた。
「今みたいな部室デートじゃダメなのか」
「ときめきがないよー! イチャイチャしてると、×いつルイちゃんがやってくるか分からないって緊張感だけはある×けどさ!」
今日は部室に九曜と夕の二人きり。
イルイはクラスの用事で部室には来ていなかった。
仮に用事が終わったとしても、イルイはわざわざ二人の間に挟まりに来ない程度の配慮はすると思うが……夕はそんなことなど知らないはずだ。
それでなぜ緊張感が嘘になるのかは、意味の掴めない部分ではある。なんならいっそ、見られたいのかもしれない。
ともあれ、今部室に二人しかいないのは純然たる事実で、デート計画をするのにはちょうどよかった。
「デートと言っても、どこに行くんだ? 秋の終わりってなんかやることあったかなあ。祭りとかも終わってるし……紅葉狩りとか?」
「×海行こうぜ×!」
「嫌だよ……」
嘘にしても程度というものがある。寒くて冷たくていいところがない。
そもそも夏以外の海って、泳いでいいものなんだろうか。
「しゃーない。じゃあ×川釣りにしとく×か……」
「今の釣りの話だったの!?」
釣りが趣味だったとは知らなかった。女子高生にしては珍しい——
いや違うわ。これ嘘だったわ。なんなんだよこいつはもう。
「冗談冗談。九曜の方は×なんかないの? 行きたい×とこ。×さあ案を出せ×ー。わたしを徹底的にエスコートしろー」
言いながら肩をぐいぐいぶつけてくる。
うっとうしいが、おちゃらけているだけだろうしあまり腹を立てるのも……
「おらー、どーん」
そのまま抱きつきながら倒れこんでくるので、うおーと両拳を突き上げて吹き飛ばした。
「俺、強い。お前には、負けない」
「ぐ、ぐおお……このわたしがやられるとはぁぁ……」
と、まあ戯れはこのくらいにして。
「デートの定番っつーと、映画とか」
「映画かあー。×悪くはない×けどねー」
「他には、遊園地とか、美術館とか」
「遊園地かあー。×それもあり×だねー」
「水族館ってのもよく聞くな」
「深海生物とか眺めるのは好きだけど、ちょっと遠いかもー」
「あとはえーと、スポーツするとか」
「それはない」
「なぜそこで急に全否定なんだよ」
嘘も含めて考えると、九曜の提案は全てが否決されたということだ。
一つも恋人内会議を通せないとは、九曜の企画立案能力も落ちたものだ。この程度では夕の彼氏など到底務まるまい。
かくなる上は腹を切り、素直に夕の主張を聞き出すほかはない。
などと結論づけるその前に。
「よく考えると、夕の趣味とか好きなものって、俺まだ全然知らないわ。共通の話題とかもあんまり無いよな。いつもお前が好き勝手に世間話してるけど、あれは趣味じゃあないだろうし」
「共通の話題ならあるじゃん」
「あったっけ。……うーん、勉強とか?」
「ちっがーう! あんなの趣味に入らないって! そりゃ九曜はあれで楽しいのかもしれないけどさ」
「俺もそんなに楽しくはないぞ」
「だったらすでに違うじゃん! 共通の話題だとしても幸せになれないじゃん! そーじゃなくてさ、ほら。わたしたちが今どこにいるか、分かっておるのかね、九曜くん」
「どこにって……地球……?」
「着眼点が壮大すぎる! 違いますー。わたしたちはね。今、オカ研の部室にいるんだよ!」
言われてみれば……。
つまり、夕の言いたいのは……
「オカルトが俺らの共通言語……ってことだな」
「そういうこと」
とは言っても、九曜は自分たちのような特異な能力について知りたいだけで、幽霊やUMAのたぐいに興味があるわけでもないのだが。
夕も話と嘘を聞く限り、本格的にオカルトに興味があるわけでもなさそうだが。
「それで、具体的にどうすんの? 心霊スポットでも行く?」
「せっかくのデートで心霊スポットは、それこそ台無しでしょ。どうせなら×もっと楽しめそうなとこ×にしないと」
そう言って夕は九曜のすぐ近くに転がっていた怪しげな雑誌を掴み、パラパラとページをめくり始めた。
「ほらこれ。この近くのキャンプ場に、狼男が出たんだってさ! ×面白そう×じゃない? 九曜たちが前に言ってた、×人狼ってやつかもしれない×よ」
「人狼ー?」
言いながら雑誌を読んでみると、たしかにそう遠くない距離のキャンプ場に、狼男が出たという記事が載っている。
キャンプ場の近くには見事な湖があり、景色がいいという評判も聞き及んだ覚えがあった。狼男を抜きにしても、紅葉を狩りに出かけるのは悪くなさそうだ。
しかしこの狼男。目撃証言は一ヶ月前が最後のようだが、これって多分……。
「どう? 悪くないでしょ。×人狼探し×のオカ研日帰り旅行ー。たまにはだらっと、×キャンプ場で時間を無駄にするのもいいもん×よ」
「うん。悪くないな。これ、俺ら二人で行くのか?」
「それはもちろん。デートって言ってるじゃん?」
そこで九曜は、少しばかり考え込んで、言った。
「……どうせキャンプ場に行くならさ、もっと大人数にしねえ? 知り合いをいくらか誘ってみるから、土日に一泊二日くらいで行こう」
九曜の提案に、夕が珍しく動揺を見せた。
「え、ちょ、ちょっと待ってよ。九曜ってそんなにキャンプ好きじゃないよね。それに何より、最初に恋人らしいことを……ってわたしちゃんと言ったはず……」
「もちろん、それも忘れてねえよ。祝日は水族館デートしよう。んで、土日はキャンプ。これでどうだ? 深海生物、俺も色々見て回りたいしな」
さらっと言い切った九曜に、夕は少しの間、マニキュアの塗られた五本の指を見つめながら考えて……
「それなら……別に、いいけど……?」
どこか喜びが見え隠れするような雰囲気で、九曜の提案を受け入れた。
「そんじゃ、そういうことで。祝日の水族館と、一日空いて、土日にキャンプ。この予定で行こうか」
多少予定が詰まってはいるが、夕と一緒にいる時間が増えるのは悪くない。
そして、キャンプに行く土曜はちょうど、二度目の満月。
九曜の全身を緊張が、一瞬だけ走り抜けていった。
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