プールの後は温泉へ
ちょっとした事件があったものの、大いに屋内プールを楽しんだ一行は、施設に併設された温泉に入ることにした。
この温泉もまたプールに負けず劣らず、いいものだった。
昨日までの試験による精神と頭脳の疲れに、今日のプールで遊んだ身体の疲れ。全てが温泉の湯船に溶け出して、洗い流されていくかのようだった。
「はー……いいお湯でした。っと」
一人呑気に男風呂を堪能してきた
すると、
「あー! 九曜、そこはコーヒー牛乳でしょーが! 分かってないねー。はー、分かってない! お風呂上がりは×コーヒー牛乳×。これ×大自然の摂理だから×覚えておくように」
「前フリからの回収が早過ぎて、ツッコミが追いつかねえよ」
九曜のため息に、夕はけらけら笑った。
それから二人でマッサージチェアに座り、機械のゆっくりとした動きに身を任せ始める。
「いやー、こっちは美少女たちとの温泉、満喫させていただきましたわ」
「他の奴らは?」
「水風呂とかサウナやってみるって言ってたけど、そのうち出てくるんじゃない? 楽しんでもらえたようで、幹事のわたしとしては何よりでごぜえます」
頼んだ覚えはないのだが、今回の行楽の発案から準備まで、夕が全てこなしてくれたのは事実だ。
やはりこういう場面では、学級委員長、クラスの中心だけあって、場数の違いを感じさせる。
しかしそもそも、この五人で遊びに出かけるということ自体、よかったのかという不安は燻ったままだ。
「改めて聞くけど、
「えー。まだそれ引っかかってるの? わたしが遊びたい人を好きに選んで悪いことある?」
「それならいつものクラスの仲良し組と来ればよかっただろ。わざわざ別のクラスから、いちいち一人ずつ呼び出すなんて——」
それも九曜の三股相手——人狼候補だけを、的確に。
どう考えても、『何かを知っている』としか思えない行動だ。
「もー。だから別に深い理由とか無いって。クラスの子たちと来たって、それこそ意味ないじゃん。九曜も言ってたよね? わたしはあの子たちと友達じゃないって」
「それは……まあ、言ったな」
だいぶ前の話だが。いまだに夕は根に持っているらしい。
告白してくる時にも少し言及されたような覚えがある。
「その通りだなーって思ったから、わたしも友達作ろうと思ったわけ。で、この機会にお友達になれそうな子たちと遊びに行こうと思ったの。そんだけ」
理屈は通っている。感情としても理解はできる。嘘をついている様子もない。
しかし——
「……なんでそれが、あいつらなわけ?」
「それは……もちろん——」
そこで夕はマッサージチェアから身体を持ち上げ、九曜を見てにひひと笑った。
「——わたしと同じものが大好きな子たちだから、だよ」
やっぱり三股バレてんじゃねえか!
そしてそれを分かった上で友達になろうとしてるって、頭ヤバいだろこいつ。
「あははー、動揺が顔に出てるー。おもしろーい。大丈夫大丈夫。あの子たちにはまだ言わないでおいてあげるから。ドリーちゃんもヒメちゃんも、嫉妬深そうだしね。
でも、いつか刺されないように気を付けなよー、九曜? うちの学校から殺人者と被害者は出て欲しくないかんねー」
「…………ご忠告ありがとうございます鷺沢さん」
「はっはっは。苦しゅうなおぼぼぼぼぼぼ」
夕が再びマッサージチェアの悦楽に身を任せる。
九曜の方はといえば、揉んでも揉んでも身体がどんどん硬くなっていくような感覚すらあった。
女の子って——たまに怖いよね。
そこに、翠がたとたとと駆け寄ってきた。
「はー、やっと見付けた。ここにいたんだね、
あ、鷺沢さんも一緒だったんだ」
「やほ」
「うん。やっほ。今日は連れてきてくれてありがとう、鷺沢さん」
「
「うん。
「そりゃ良かった。——と、噂をすれば」
雪姫とイルイが、ぽかぽかの湯上がり顔でこちらに歩いてきた。
日帰りなので、湯上がりの浴衣姿というわけにはいかないが、普段着にしっとりとした髪と火照った顔というのも、それはそれで独特の
「思った以上にいいですね。温泉。サウナは……ちょっと熱すぎましたが。なかなか良かったです。また個人的に来ましょうかね。プールも楽しめましたし」
「お前、ほとんど泳ぎっぱなしだったじゃねえかよ。あれで楽しめるのはストイックすぎるだろ」
イルイの言葉にツッコミを入れる。
九曜のツッコミには反応しつつも、雪姫が大枠ではイルイに同意した。
「うん。悪くなかったよ。また来たい」
「今度もみんなで?」
「×それはどうかな×。今回は×変な男が一人付いてきてる×から」
「あ、×たしかに×ー。今度は×女子だけで集まろ×っか」
夕と雪姫が言葉を交わして、ふふと笑い合う。
嘘まみれとはいえ、他人を笑いのダシにしないでもらいたい。
ともあれ、仲良きことは美しきかな。
人狼やら三股やら、真実が暴かれていけば今後はどうなることか。暗澹とした未来は想像するに容易いが、それでもとりあえず今生まれたこの関係は、案外悪くないのかもしれない。
そんなことを思いながら、九曜は恋する少女たちと共に、帰路についた。
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