人狼の暴き方



九曜くようさんって、最低ですよね』

「突然のディス」


 夜も深くなった時間帯。自習しながら、その日の報告がてらイルイと通話をしていると、唐突に暴言をぶつけられた。


「いきなり言葉の刃で人を刺してくるんじゃない。俺も一応人の子なんだぞ」

『血も涙もないことしておいてよく言いますよ。相手に好かれてるからって、ここのところやりたい放題じゃないですか』

「なんでお前がキレてんの? というかそこまで言うほど何かあったか?」


 なんてことだ、自覚がないなんて。そんな思いが伝わってくるようなため息が、電話の向こうから聞こえた。


『最近ゆうさんが首に付けているチョーカー、あれあげたの九曜さんでしょう? 恋人アピールにしても露骨すぎます。もう少し穏便なものにしてください』

「知らねえよ……。なんなら俺も若干引いてるわ。わんわんってなんだよ。百合川ゆりかわもそうだけど、恋の呪毒を飲んだ奴ってみんなあんな感じになんの?」

『……九曜さん、百合川さんにも何かしたんですか?』


 身体だけの関係でもいい。というようなことを言われた。のだが、ここでそれを口にすると、更に揉めそうなので黙っておくことにする。


「……そんなことより、人狼探しについてだ。さっさと見付けないと、俺の命より先に貞操が危うい気がしてきた」

『それはそれで×よかった×じゃないですか。そんなの思春期男子からすればご褒美でしょう』


 よくはない。何かの手違いで人狼にキスをされれば、それで一発あの世逝きなのだ。

 過剰ないちゃいちゃは即死の元。それがこの恋愛関係の鉄の掟だ。


「……気のせいかもしれんが、さっきからお前、やたら喧嘩腰じゃないか?」

『う……。いえ、その……最近、自分が九曜さんの三股に協力していることに、不満を覚えはじめまして……。お三方も可哀想ですし……』


「だったら、少しでも早く人狼を暴き出せるよう、俺に一段と協力するんだな。それが現状を打破する一番の近道だ」

『…………。そう、ですね』


 九曜の意見をごもっともと感じたのか、何を言い返すでもなくイルイは肯定の意思を返してきた。


「じゃあ、いい加減本題に入るぞ。恋の呪毒に冒された連中から、人狼だけをどうやって見つけ出すか。その手法をいい加減に共有しておきたい」

『これまで考えなしにやってたんですか?』

「言い方の棘! ……とにかく、一応、色々考えてはいたし、人狼と暴けないまでも、こっちが身構えて話していれば、怪しい嘘くらいは出てくるだろうという期待は持ってた。ところが実際は……その、なんだ…………あのさ…………」


「…………あいつら三人とも、すげえ真面目に恋人してくれてる……」

『のろけじゃないですか』


 返す言葉も無かった。


「いやのろけたくもなるって! ホントかわいい。俺の彼女みんなかわいい。デートして、買い物行って、手作りお菓子食べて……これが恋人というものかとつくづく身に沁みてな……。

 いや、やめようこの話。全部惚れ薬のせいだと思うと逆につらくなる」


『急に冷静にならないでください。こちらも対応に困ります』


「だからさ、逆に……いや、逆でもないんだけど。あいつらのことを思えばこそ、さっさと人狼を見付けて、別れた方がいいと思ってな」

『それは……そうですね。あんないい子たちは、三股野郎とは別れた方がいいです』


 またディスられた。

 のはもう、置いておくとして。


「そこでちょっと考えてたんだが……。こっちは本当に逆に、だ。あえて人狼じゃなく、人間を見つけ出せばいいんじゃないかと、計画を立ててる」


『…………? どういうことですか?』


「要するに消去法だ。

 まず、人狼と役能者にしか聞こえない黒い鐘。あれで怪しい奴を人狼と役能者だけに絞り込む。すると普通の人間が選択肢から消える。

 次に、鐘の音を聞いた奴らの役能を調べる。役能さえ確定すれば、そいつは人狼じゃないことも確定するだろ。それを残った全員に繰り返すわけだ」


『成る程。そうすればおのずと、最後に残った一人が——』


「人狼。ってわけだ。単純だろ?」


 単純だが効果的。そしてなにより確実だ。

 人狼を探し出す過程で、人狼以外の呪いを解けるのも良い。


『いい手法じゃないですか。なんで早くやらないんですか?』

「もうやってる」

『…………? ですから、まずは普通の人間を選択肢から外すんですよね?』

「だから、それはもうやったんだって」


『……? …………???』


「だーかーら! 百合川ゆりかわみどり鷺沢さぎさわゆう雨宮あまみや雪姫ゆきひめ、全員役能者か人狼なんだよ! あいつら全員、お前の鳴らした鐘の音が聞こえてる。全員に聞いて確かめたからこれは間違いない。もちろん嘘もついてない。

 つまりこの手法を使うと決めた以上、俺は全員と付き合い続けつつ、全員の役能を探らないといけないんだよ!

 これが今後の方針。今後の俺とお前がやるべきことだ。分かったか!?」


 しばらくの無言。

 それから、イルイが静かに返事をした。


『それは…………だいぶ大変そうですね』


 なんとも他人事のような台詞だった。

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