第20話 神の首、落ちますよっと

 浮足立ってるついでに、勇者に質問というかお題ふっかけてみるか。

 私ひとりじゃとても怖くて考えるのもやめたくなること。

 自分一人でもできるとは思うけど、苦しむとわかってるからプロに頼むのが一番だ。



「神様って、殺せると思う?」



 カガがピタッと止まった。そして、ジロリとこちらを睨み聖剣に手を添え、いつでも抜刀できるように構えて動かない。

 え?止まりますか?なんで止まった?なんで?

 両手を上げて、攻撃の意思がないポーズをしてしまう。ただのくせだが。

 私はただ、殺せるか「はい」か「いいえ」か「わからない」を聞こうとしただけなんだけど…


 とりあえず、両手を上げると話し合いだというのがわかったのか剣から手を放してくれた。


「神様が人を殺すことは簡単にできるだろ?」


 あぁ~、言葉足らず…私の言葉足らずデスコレ…


「神様を、人間または、魔物やこの前の魔獣が殺せると思う?っていう質問なのよ、さっきのは。たしかに、神が人をサクッと殺せるかどうかについても考えたことは全くないから考えなきゃとは思ったけど、それだとなんだか、すごくやだな…」


「やだじゃない、するな。」


 カガは少し悩み、私の目を見て助言してくれた。


「……神を殺す道具がある。通常の俺の持ってる聖剣などでは殺せない。だが、神のみを殺せる剣が存在はしている。魔界に」


「神のみを?そんな需要が偏りすぎてるものを、しかも、わざわざ魔界に?」


「あぁ、魔王発案でな。神殺しの剣を人間界のバランサーの神が実際にいる世界に置くのは危険だと判断して魔界の奥底に封じてきたんだ」


「あぁ~、魔王が里帰りしてくるって言ってた回あったけど、それかー。それに同行してたねぇ、君。でも、なんでわざわざ魔界の奥底?」


「神の聖堂に持っていかれてうっかり殺されて神の世代交代が何者かによって意図的に悪用されかねない。という結論からだな。人間は欲に溺れやすい、神から与えられる力が強力かつ何の代償も払わなくていいポンポンくれるタイプの神ならどう思う?」


「楽ちんでちょろい神様だなーってうれしいなぁって思う」


「じゃあ、何かデメリットを抱えるまたは、試練を行った末に得られるひどく苦しい能力を与えてくれる神様だったら?」


「前神がちょっとダブるけど、やだなぁ…。今、その聖堂壊そうとしてる俺が言うのもなんだけど」


「そういうことだ。神が都合悪い神であれば簡単に殺せる剣。誰でも扱える剣となっている。それを壊せる方法は俺と魔王では見つからなかった。神のお前なら壊せるかもしれないが、その前に殺される可能性もある。気を付けとけ」


「でもさ、神のみ殺す剣って、前神のみとか条件あるかな。新たな神には効きませんよーとかちょっとそういうの無いかな…ははは」


「……」


「あーははは、死にたくないなぁ。せっかく神様になれたのに…」


 カガの無言がさらに俺の焦りを煽ってきた。

 汗がブワっと出てきた。焦りがすごい。恐怖が溢れてきた。


「アリア、目を閉じろ。首を刎ねてやる」


「はい?!なんで?!なんで?!いまめっちゃ怖くてマジでビビってんだって!ほんとに!シャレにならないくらい怖くて見てよこの腋!めっちゃ汗かいてんでしょ?!今の一瞬の話でだよ?!今死にたくないって言ったじゃんか!?」


「安心しろ、この『勇者の聖剣』では殺せないことを証明するだけだ。それならお前は、今後ただの攻撃では死なない安心を得る。不安要素を一つ減らすだけだ。そして、一つだけに注意をし続ければいい『神殺しの剣だけに注意すればいい』」


 確かに、普通の武器で死なないってことだけでもわかったら有難い。そうしたら、人助けとか災厄とか何か魔物の軍勢とか来てても前線に出て補助できるしいいのか…。訓練した村人とか、魔王四天王とかも、命ある者だから無駄にはできない。防御系の四天王は特に貴重に扱われている。防御・治癒系を持ち合わせてる元聖女の私なら最前線に出ても死んでも生き返れるのであれば誰かが傷つくことを減らせる…



 コクンと頷く。



 カガが剣を抜き、勇ましい顔つきでスパっと早業で私の首を刎ねた。


 私の頭は宙を舞い、血を振りまきながら地面に落ちた。

 身体は数秒経った後、ドサッとバランスを崩し仰向けに倒れた。


(あぁ、首が取れるってこんな感覚なんだ。頭って意外に思いんだ。あと、相手の顔って結構見れちゃうんだな。つまり斬った相手も落ちてってる頭の目が合ったらそれはそれで怖いわけだ。カガとめっちゃ目があっちゃってるけど。しゃべれるのかな、これ)


 頭がポトリ落ち、断面からは赤黒い液体が垂れ流れてくる。

 

 アリアの頭は、まだ意識があるのか目はパチパチと動き、口はパクパクと何かをカガに伝えている。

 カガは、剣に着いた血液をヒュッと一振りし落とし布で拭き取り鞘に納める。次いで、アリアの首を持ち上げ、道に倒れた胴体に近づける。すると、たちまち断面からうにょうにょと触手のような気持ち悪い赤黒い寄生虫のようなものがたくさん出てきて絡み合い、首と頭がつながった。


 その間の記憶はすべてある。筋繊維や皮膚すべてが勢いよく熱を発しながらくっつこうとしている強い引力を首の切れた部分のみに感じた。視界には、カガのひたすら恐ろしいものを見ている顔だけがある。イケメンもこんな顔するんだなぁと思ったが、それよりもその瞳に映った自分の首の再生の仕方のグロさの方がインパクトが強かった。


「あ、しゃべれる」


 カガは目を開いて驚いているが、自分も本当に死なないのかと驚いてる。ちょっと笑いながら驚いてるから、カガの気持ち悪いもの又は異物を見たような驚きとは違うが。


「お前は死なず、再生する…が…その様が、気持ち悪い……」


「死なないのわかったけど、きもかった……」


「あぁ…しばらく、寄生虫や虫は全部燃やして殺さないと夢に出そうだ。鳥肌が止まらん」


 カガは一足先に歩き始めてしまった。というか、私と距離を全力で取ろうとしてくる。

 だが、お礼を言わないわけにはいかない。仲間を斬ったことは一度もない勇者が私の不安を取る為だとわざわざやってくれたのだ。ある種もう80歳以上になってからの新たな一歩をカガにはさせた。いい事か悪い事かは置いておいて、感謝を伝えよう!


「カガ―!ありがとな!わざわざ嫌なはずなのに、斬って不安要素消してくれて。そのおかげですごい私心が軽くなったよ!」


「そうか」


 人離れしてしまった。その事実は変わらないし、そうなることを望んでいたわけではないが神になるというとこはそういうことだとは思っていた。人とは違う存在になる。たぶん、魔王と同じシステムなのだろう。それが、人から派生したものなのか。魔物が知恵を付け力をつけ統率力を持ったものが魔王になったのかの違いだ。魔の神か人の神か、ただそれだけ。


(のはずだけど、カガさん結構ショックだったんだろうなぁ…首刎ねるの宴会芸にでもしようと思ったけどちょっとこれは申し訳ないな。以後気を付けよう)


 少し小走りでカガの隣まで追いつき、一緒に森の入り口にたどり着く。


「私死なないからって、無茶はしないようにするからさ」


「あぁ」


「カガ~そんな落ち込むなって、なんか辛気臭いよ~」


「うざい…」


「その調子!もっとしゃべってさ、一緒にのんびり旅しましょうや。この、なんだろう…いかにも何か出てきそうな森を通り抜けて歩きましょうや…」


 カガも私も感じている。禍々しい何かが奥にいる。おそらく、これがこの森を暗く黒く村人も通り抜けるのがやっとの原因だ。

 おそらくそれを狩り取って、村の森林をイイ感じに伐採していけば路は作れるだろう。その位したほうが、ナタリィや修道女たちの各地巡礼の儀の時に安全に通れるはずだ。



「カガさん、ちょっとお願いがありまして、この森で…」



 さて、カガさんと二人でナタリィと自分の聖堂のために頑張りますか。

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