第13話 勇者カガ


「痛い痛い痛い痛い、もっと優しく運んでよ!それでも勇者サマかよぉ…」


「うるさい」


 村から少し離れた小屋、カガの老後の家に俺は担ぎ込まれ、ベッドに寝かされている。最初は「生足で膝枕してくれたら、魔力供給されて回復速度上がるかも」と言っていたが、刃物のキャキンという音が聞こえてそれ以降ふざけるのは少し減らした。


「痛いよー、両目えぐれて脳みそまで抉れるかと思ったわ」


「あぁ、そのまま溶けて一度変な思考回路もリセットされればよかったのにな」


「えー、でもそうしたらくっころ騎士サマの御姿を…」


「黙れ。さっさと治れ。そして、俺の呪いを解く努力をしろ」


「解けてたら私、じゃなくて、俺もとっくの昔に自分の体直してます―――」


「なんでわざわざ"俺"と言い直す、テンポが気持ち悪い。役になりきれせめて」


「う、うん……」


 無様だ、こんなにも言い負かされて。言い返せなくて、主従関係ってわけではないのに、塩対応強めのツッコミにはどうしても俺は弱い。前世もだが、ボケはできるがツッコミで少し乗ってくれるノリツッコミの方が好みだったからかどうにもこのカガとは会話テンポが上手くいかない。でも、強いからパーティーを何度も組んで魔物退治や同行をお願いしてたんだが。


 俺アリアは、ボススライムとの両目潰し合戦での能力の消耗が激しかったため、自分で再生させるには数日はかかる両目の治療。見かねた女勇者カガが自宅に運びベッドに寝かせてエリクサーを私の口に突っ込んで再生を手伝ってくれている。傷ついたパーティーのアフターケアは昔からしてくれるが、それが不器用でイライラしたときもあった。

 だが、今はやつは女騎士。その不器用な手つきで介護してくれる姿はなんとも健気さを感じさせるいい姿だと思う。両目が無いから脳内妄想で保管しているが。

 なかなかの量の回復薬を飲んでいるため、たまにむせて口から貴重な薬を吐いて零してしまうこともあり、機転を利かせカガが近所から借りてきた哺乳瓶にエリクサーを入れて零さないように飲まされ始めた。

 自分が両目がつぶれているのがいいのか悪いのかもうわからないが、おそらくこれは羞恥プレイだろう。ある一定層の喜ぶ方は喜ぶ部類だ。俺はちょっと、美味しいシュチュなのでは?と思い始めたが…村人がカガに村修繕の話をしに来るたびに、村人がちょっと引いた「アッ…」と声を発するのが最初はつらい悲しく、心になんか来るものがあった…

 時間が過ぎ、慣れてくれば夜になると俺はもう無敵になっていた。

 子供に笑われながらも、哺乳瓶を口に含みたまに詰め替えで口から外されたときにはすっかり幼児退行して

「だぁだぁ」

 など言って遊んで、カガに「気持ち悪い…」と罵られ楽しんでいた。


 そう、新たな扉が開けたのだ。


「さて、両目も治りましたし、状況説明でもするわ」


 自分の目が完治したので、カガの家をふらふら歩いてエロ本でもないかというくらいに友人の家を漁る男子中学生みたいなことをする。


「期待してるものはないぞ… で、この性別が変わるのとあの魔物はなんだ」


 カガが呆れた様子で家を見て回る俺を怒り殴ることもなく話を進める。おそらく、本当にいかがわしい何かもなにもないから堂々としていられるのだろう。ちょっと面白くないと思いながらカガの座っている居間の椅子の向かいに座り話始める。


「さっきの質問の前者と後者だが、両方わからない。不明点が多すぎる」


「役立たずが…」


 チッと舌打ちが聞こえたが、まぁ、仕方ない。正直自分も舌打ちめっちゃしたいくらい今回のケースは訳が分からない。


「あの俺の倒したクソでかスライムだが、あれは今までのこの世界にはいなかった生物だ。生態系がどこかで変わったのか、それとも魔王の気でもおかしくなったか?」


 魔王という単語が出てくるのは、以前は魔界を統治していた魔王が魔物の製造・管理などを行っていたからだが、今は魔王は魔物製造を管理していない。四天王に各地方の大きめの都市に潜伏させ自然発生した魔物を討伐するように指示しているだけだ。どうしても対応しきれない魔物のみ魔王が直々に対処する。

 そう、人間界と魔界が和平を結んだ為、魔王が実質今この世界の勇者的存在。最終防御壁となっている。


「いや、魔王かれは何も関わってないはずだよ。俺、神になってこの世界のまだ部分的ではあるんだけど特定の場所、たぶん行ったことある場所と会ったことある人と視界に入る場所を望遠鏡みたいに覗けるんだけど、最初に魔王家族と王族を見たけど子供に囲まれて丸い性格の彼のままだったからね」


「だとすると、魔王という魔王ではなくなってしまったから新たな魔王を名乗りだす輩が出てきててもおかしくない…か…」


「魔界は闘争を求めてるもんねぇ…そんなにも戦って死にたいのかって思うけどさ」


 魔界で生まれ魔界で育ったものは、死んでもまた魔界に戻る。死んでもまた無限に魔界のどこかで生まれ直し、成長速度は人間よりも早いため死んでも死んでも何度でも魔界から人間界へ這いあがってやり直しが効く魔物達。彼等の王だった魔王はそのギミックをどうにか変更しようとしていたが、それは叶わず仕方なく人間を襲う魔物のみ対処するという政策をとっている。


(やっぱり、一度魔王のところに行かないとだな…今なら、あの時の魔王の願いだった魔物の成長速度を人間と同じにという願い程度なら叶えられるはず。そうすれば、侵攻速度と人間の育成速度がどっこいになってこの世界を魔物または勇者ジョブのみが守る均衡が崩れて人間の平民の戦いたい意思のある者が成長し騎士となり四天王のようなものもいずれ作れるはず…魔族と人間の真の平等が成せるはず…)


 色々考えていると、先に口を開いたのはカガだった。

 勇者と魔王は対峙するもの。だが、それを今回の魔王は芯が通り話が通じ、力量もあると認め"勇者カガ"は戦わない。和平交渉を遮る障害のみに交渉または決別した場合は刃を向けると、今の魔王を信頼している人間の一人だ。


に会いに行く、アリアお前も来い」


「うん、だと思った。俺もせっかくカガと会えたのも何か縁だと思うから同行させてくれると助かる。どうぞよろしく」


「奴は、子が増えたと言っていたな。道中で何か土産でも買っていくか」


「そんな、親戚のおじさんみたいな…でも、やっぱ魔王のことすごい好きだなぁ、君って。やっぱり、全力で戦い合って実力認め合った男同士の友情か何か感じてるの?」


「……そうだな」


 え、なんでそこで顔を赤らめるの…え、ちょっとBL感じちゃうけど…まってよそんなん、聖堂で魔王×勇者とか逆で妄想を働かせている修道女たちに伝えたい。すぐに【速報:勇者カガ魔王のこと友情とそれ以上の感情もちょっとありそう】って伝えたい。


 ともあれ、とりあえずよかった。カガと意見が合致して。ここでまた一人旅にでもなったなら、王都までたどり着くまでに心が折れるとこだった。


 カガと目が合い、パーティーインの簡単な契約を交わす。といっても、握手を力強めにするだけだが。


 カガはとても、綺麗な笑顔だった。

 また、旅に出られるのがうれしいのだろう。


(やっぱり、楽しそうなのがいいよ)

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