第12話 ボススライム討伐クエスト With狂勇者
<―ボススライムから村人を救え―>
「カガ…クエストが出たって言ったら信じるか?」
「あぁ、何か情報があるならさっさと寄こせ。どの魔法を付与しても通らない。なんだこいつは、気持ち悪い音ばっかり出しやがって…」
「ボススライム。そして、クエスト名は、
聖剣についている血潮をシュッと振り落とし、構えなおすカガ。
女の姿になったことにより、身軽なのかステータスを覗き見るに速度が格段に上がっている。だが、それをしたところでボススライムの中から人をどう救い出せと…
「アレを切り刻んでも、中の村人が生きていると思うか?」
「生きてるわけないでしょ、じゃなくて、だろ……何か、できることが私、じゃなくて、俺あれば……アレからする臭いが変で頭がこんがらがりそうだってのに…」
「アレの弱点箇所もわからないようだな、スライムなら大体燃やせばいいと思ってたが魔法も効かないなんなら燃やそうとすれば中の村人にも被害か…くそったれ」
せっかくの美人の口から出るのは物騒な言葉ばかりだが、狂戦士の割に冷静にクエストクリアを目指している。人を救わねばならない時、勇者は誰より力を得る。そして、力が跳ね上がり勇者足りうる能力を得る。前神からなのか、それとも昔からのゲームの王道なのかはわからないが、カガが冷静にこちらの話を聞いてくれるのは大変助かる。
「俺は、遠くからこの村の狼煙を見たときにここを覗き見た。そのとき、今目の前にしてるのに見当たらない瞳と目が合って両目を潰された」
「ってことは、動力源は瞳で魔力もすべて持っているのは瞳……アリア、目を潰されたのは今朝日が上がってすぐか?」
「ん?あぁ、そうだが」
「なるほどな…一瞬ギョロっと出た瞬間が二度あった。変だとは思った。人を飲み込むときは転がって移動していたアレが突然止まって奥から何かを引きずり出してた。ってことは、だ」
すごく嫌な予感がしてならない。
自分もわかってしまった。もしかしなくとも、最悪の条件を提示されるのではないかと。とても苦しいことが待っているのは、背筋が凍るほどカガから発される勇者権限<強制協力>が力を増しているからだ。勇者からの要請に絶対に応えなければならないある種の呪い、そして、勇者カガの一つだけ他の勇者と違った『狂った勇者』と言われる由縁…
カガの纏っている空気がガラリと変わる。
その瞳には闘志、救うべき人々、倒すべき敵が映る。
彼の瞳が特殊な虹色に変わり私と目が合う。
「命令だ――アリア、あいつのこと何度も視ろ。あいつの瞳を奥から引きずり出せ!俺があの腐った目を壊してえぐり取りきるまで!あいつが村人を吐き出しきるまで、何度も何度も両目潰れて脳みそ抉れても視続けろ!!」
<勇者権限、有効――神瞳、連続発動>
私は、ボススライムの半透明の体から見える村人の姿から目が離せなくなった。
そして、次の瞬間、私の左目が弾けて痛みが脳みそにダイレクトに来た。
「ッッッッッッダァッ!!!!」
痛すぎる。三度目だが、こんな痛みに慣れれる訳もない。めちゃくちゃ痛い。痛覚遮断の能力を自分に施させようと能力を使おうとすると
<エラー、使用許可が出ていない能力>
バチンッと脳にダメージがまだ響く。
「カガァ!!能力ひとつ使わせろ!痛覚遮断の能力だけでもせめて!」
「そんなのにリソース割くな!それよりも、もっと視続けろ!
瞳一切りで一人村人が助けられる!最低あと29回やれぇ!!!」
<勇者権限、実行>
狂った勇者。そう、カガは呼ばれ忌み嫌われていた。だが、一番人の痛みがわかる人間だった。だからこそ、前の神に気に入られていたのかもしれない。彼は、自分の痛みよりも、目の前の痛みを伴っている人がいるのならば同じ痛みを共有し共感せねば民はついてこない、人の心も助からないと自負しており、それを自分のパーティーにも強要していた。上層部の誰かが指示を出し、安置から見守り、指揮で人を救ったとしてもそれは前線に居た誰かが血を流して助けたからだと同じ痛みを国の上層部の指揮官に与えたことがあり、国外追放をいくつかされている。納得はするが、強要される側の体にもなって欲しい。ヒーラーの役割も担っていた私は、痛みを分割して彼から送られ自分で自分の体を治しながら前線の彼の体も直し、何度も世界の悪しきを消してきた。
『痛みの伴わない救いなどこの世にない』
どこでそんなのを覚えたのか、学んだのかわからない。
だが、彼の美学で信念で、数十年経った今も変わりない。
彼なら絶対に倒せる、私の両目が何度弾け飛び潰されグロテスクになろうと、勇者カガは人を救うことが大好きだ。
ほら、彼女の笑顔は見えなくともわかる。とても楽しそうな剣舞に見えるが、目の奥は真面目な光が灯り、人を絶対に救う意思がある。
あぁ、願いが溜まった…彼の新たな願い……
やっぱり、彼が勇者でよかった……
<――神 アリアの名においてカガの新たな願いを受領する。ボススライムの体内の人間すべての救済を…>
私の体が光り、カガの心臓から光が吸い込まれる。そして、集まった光はボススライムの腹部めがけて飛んでいく。
ボススライムの腹部が光ると、ぽっかりと開いた腹の中から村人がドロッと溢れ地面に流れ落ちた。
「ナイスだアリア!」
「ハハハ……やった…」
「まだだ、目を視続けろ馬鹿野郎!!」
体が金縛りにあったかのように、再び両目が回復し、カガの姿を一瞬視界に入ったかと思うとボススライムの瞳と強制的に目が合い潰される。
カガはスピードが速くなったこともあり、村人を全員あっという間にボススライムから遠く離れた生存している村人の元へ置いてきた。
私は、その間も絶え間なくボススライムの気を引くため何度も瞳を潰され続けては直して潰され続けた。
不思議と嫌な気持ちはしない。なぜなら、カガを信頼しているから。狂った勇者だが、強い、そして、強い敵を確実に倒し己が糧とする。きっと、カガは今回もまたアレを倒して強くなる。そう、誰も止められない次期魔王と言われる位に強く……
「これで終わりな……」
カガがボススライムの瞳を本体から分離させ、瞳を粉々に切り裂き、体もすべて聖剣にて切り裂いた。その剣舞を見た村人達は声を上げる。神業だ、勇者カガ様万歳と。
私は、視るべき敵の瞳が無くなった為権限が解除された。力無くその場に目を再生させる気力もなく倒れこんだ。村人は勇者の元へ集まり始める足音だけが聞こえる。暗闇の中に、一人取り残される。また誰も、私のことは見ない。声もかけてくれない…近づきもしない。
やっぱり、勇者や救った人、救われた人がメインか……
神の私は、あくまで人から遠い存在じゃないと許さないってことなのか?前神よ…
私も今回は体張って頑張ったんだけど…なぁ…
頭付近に誰かが来た。
意識が途切れそうなところに、回復薬をかけられ、肩を貸され立たされた。
「今回の魔獣の進攻で失ったものは多い!
だが、皆が立ち上がり願いを一つにしたおかげで我々勇者カガとアリアは敵を殲滅できた!
村の復興は我々も手伝う、だが二人では不可能だ、皆の力も借りたい!
痛みはすぐには癒えない、だが、亡くなった者を悼むより先に心身ともに我々残された者は強く生きねばならない!ついてきてくれるか!」
「「「「おお――――――――!!!!!」」」
村人の大きな声援。泣いていた子供も、皆鼓舞され、辛気臭い雰囲気から一気に空気が変わる。これが、勇者カガの本質。
ただ勇者のバックアップをしただけで、勝利後村人に見向きもされなかった私のことを担いでから勝利の証の声を上げてくれる。
彼は、痛みを分け合った者を誰一人として残さず功績を評価し"仲間"と言ってくれる。
カガはパーティーにとてもつらい痛みの共有を強いる。だが、それでも人が付いてくるのは、決して反故にせず、武功を報いてくれるからだ。
――実に、清く勇ましく真の通った可笑しな最強の勇者サマだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます